鑑定士のおしごと【改稿版】

高柳神羅

文字の大きさ
3 / 11

第3話 ダンジョンへの誘い

しおりを挟む
 階下に下りた僕を待っていたのは、立派な鎧に身を包んだ若い男だった。
 冒険者としてそこそこ場数を踏んでいるであろうことが、佇まいから滲み出る雰囲気で分かる。

「初めまして。冒険者のラーシュ・イグニトンです」

 彼は名乗りながら右手を差し出してきた。
 剣ダコが目立つ立派な掌だ。デスクワークをしている僕とは大違いである。

「鑑定士のイオ・ラトンです。宜しく」

 僕はラーシュさんの手を握り返し、名乗った。もちろん笑顔も忘れない。

「立ち話も何だから、こっちの席を使ってちょうだい」

 ヘンゼルさんが交流スペースの空いているテーブル席を勧めてくれた。有難い。
 僕とラーシュさんはテーブル席に移動し、腰を下ろした。

「早速なのですが」

 席に着く早々、ラーシュさんは本題を切り出した。

「イオさんは、この街の傍に新しくできたダンジョンのことは御存知ですか?」
「ダンジョンですか?」

 ダンジョン。それは魔物が多く棲む自然の迷宮である。
 中には放置された砦や城といった人工的な建造物がそうなっている場合もあるのだが、それはこの際置いておく。
 ダンジョンを探索するのは冒険者の生業のようなもので、難易度の高いダンジョンを踏破することは彼らにとって重要なステータスとなる。高難易度のダンジョンを踏破したという実績があれば、それだけ冒険者としての信頼度が上がり実入りが良い仕事にありつきやすくなるからだ。
 ダンジョンが自然に発生する原理は明確に解明されてはいない。自然界の歪みがダンジョンを生むのだと言う者もいれば、魔法的な要素が影響しているのだと言う者もいる。
 つまり、よく分からないということらしい。
 ラーシュさんが発見したのは洞窟型のダンジョンで、見たところそこそこの深さがありそうだということだった。
 深さがあるということは、その分宝物なんかも期待できるということで。
 宝が発掘できるダンジョンとなると、冒険者ギルドとしても無関係とは言えない。
 ダンジョン絡みの取引で、仕事が増えそうだな。
 などと僕が考えている前で、ラーシュさんは紙筒を何処からか取り出し、テーブルの上に広げて置いた。

「実は、国からの依頼で私たちのパーティがダンジョンの調査をすることになったんです」

 紙面には国からの書簡であることを示す紋章が刻印されていた。
 文章の方は、簡単にまとめるとダンジョンの調査を正式に依頼します云々といった類のことが記されている。確かに、国から直々に依頼された仕事のようだ。
 基本的に、冒険者向けの仕事は冒険者ギルドが依頼者と冒険者との間を仲介する形でギルドから『クエスト』として受注書を発行し、斡旋している。国そのものが直接何かを依頼してくることは稀なのだが、そういうことがあった場合、その依頼は指名制となる。
 冒険者ギルドを介して仕事を請け負ってくれる者を探すこともあるが、殆どは請負人に求められる技能や諸々の要素が一般レベルを遥かに超えた一流の実力者でなければ受注の条件を達成できないので、単に名指しをしていないというだけで指名制に限りなく近いと言っても過言ではない。直接名指しをしている場合は言わずもがなだ、そういう依頼が国から出ていること自体を普通の冒険者たちが知ることはない。様々な方法で、その話は指名された者の元へと届けられる。
 どういう経緯でこの依頼が国から彼の元へと届けられたのかは分からないが、直々に指名される辺り、彼は僕が思っていた以上の熟練者のようだ。

「ダンジョンの構造、魔物の分布、得られる宝や素材についてを記録しなければならないのですが」

 ラーシュさんはそこで一旦言葉を切り、僕の顔をじっと見つめて、続けた。

「より詳しい記録を取るために、鑑定魔法を使える方に同行してもらおうという話になりまして」

 鑑定魔法は、基本的に鑑定士しか使うことができない。
 ……と言うよりも、鑑定魔法を使える者は大抵鑑定士になると言った方が正しいか。
 稀に冒険者の中にも鑑定魔法が使える者がいるらしいが、それは本当に稀だ。僕は見たことがない。
 鑑定魔法を扱える者を探そうと思ったら、冒険者ギルドに勤めている鑑定士を当たるのが早い。ラーシュさんもそう思って此処に来たのだろう。
 ……ちょっと待て。となると、この流れって……
 そんな僕の胸中に生じた危惧を読み取ったかのように、ラーシュさんはその言葉を口にした。

「単刀直入に言います。イオさん、私たちのダンジョン調査に同行しては頂けませんでしょうか?」
「……はい?」

 僕は、自分でも呆れるくらいの間の抜けた声を発して、目を何度も瞬かせていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜

桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。 上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。 「私も……私も交配したい」 太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

犬の散歩中に異世界召喚されました

おばあ
ファンタジー
そろそろ定年後とか終活とか考えなきゃいけないというくらいの歳になって飼い犬と一緒に異世界とやらへ飛ばされました。 何勝手なことをしてくれてんだいと腹が立ちましたので好き勝手やらせてもらいます。 カミサマの許可はもらいました。

処理中です...