アメミヤのよろず屋

高柳神羅

文字の大きさ
31 / 176

第31話 既視感のある世界

しおりを挟む
「……スター。マスター」
「…………」
 僕を呼ぶ小さな声。
 僕はゆっくりと目を開けた。
 頬に触れる地面の冷たい感触が、徐々に意識に伝わってくる。
 僕は……客の少女に書物を返そうとして……
 そこで意識が覚醒し、僕はがばっと身を起こした。
 そんな僕を傍で膝をついて見つめているのは、僕に本を売りに来た冒険者の少女。
 彼女は僕が目覚めたことに安堵したのか、ほっと息をついた。
「……良かった。なかなか目を覚まさないから、死んじゃったのかと思って……」
「……そう簡単には死なないよ。大丈夫」
 僕は周囲を見回した。
 僕たちを取り巻いているのは、名前も分からない木々の群れ。真っ黒な空と、その割には不自然に明るい土の道。
 僕は眉間に皺を寄せた。
「……此処は?」
「それが……」
 少女は何やら言いにくそうに、答えた。
「私たち……あの本の中に、吸い込まれてしまったみたいなんです」
「……は?」
 僕は少女に目を向けた。
「本に、吸い込まれた?」
「一瞬だけ、あの本に描かれた魔法陣が大きくなるのが見えたんです……それに、見て下さい……この景色」
 彼女は立ち上がって、周囲の景色に目を向けた。
「この景色は、あの本に描かれていた景色と酷似しているように思えます……ですから、私の予想は、あながち間違っていないと思うんです」
 ……確かに言われてみれば、この景色は『逆さの塔』と記されていたページに描かれていたものに似ているような気がする。
 彼女の言う通り、本当に、僕たちはあの書物に吸い込まれて……?
 こんな現象を引き起こすものを、僕はひとつ知っている。
 それは『魂の絵画』と呼ばれる罠だ。古びた城とか建物型のダンジョンなんかによくある魔術仕掛けの罠で、近付いた人間を絵画の中に引き摺り込んでしまう厄介なものなのだ。
 絵画に引き摺り込まれたら、その絵画の世界を探索して出口を見つける以外に脱出する方法はないとされている。しかし大抵の場合はその出口を見つけられずに絵画の中で息絶えてしまうので、基本的に絵画に引き摺り込まれたら助からないと言っていい。
 それと同じだとしたら、この世界を探索して出口を見つけない限り、僕たちは此処から出られないということになる。
 ……とんでもないことになった。
 僕は頭を抱えた。
 こんな何の手掛かりもない、何処まで広がっているかも分からない世界の中に隠されている出口を探さないとならないなんて。
 こんなの、ダンジョン探索と一緒じゃないか!
「あの……」
 少女は言った。
「此処にいても状況は何も改善しないと思うんです……ですから、移動しませんか?」
「………… そうだね」
 僕は溜め息をついて、立ち上がった。
 気が重い。しかし此処で僕が腐っていたって、僕たちがこの世界に閉じ込められてしまったという事実は変わらないのだ。
 立って、歩かなければ。元の平穏な日常に戻るために。
 僕は少女に言った。
「僕は戦えないから、万が一魔物が出てきた時は君に任せることになるけど、構わないね?」
 少女は頷いて、背負っていた大きな杖を取り出した。
「分かりました。マスターのことは、私が精一杯守ります」
「シルカでいいよ。マスターって呼ばれると何だか君のことを使役してるような気分になる」
「それなら、私のことはアリスと呼んで下さい。……それでは、シルカさん。行きましょう」
 僕たちは、道に沿って歩き始めた。
 僕たちが行く先には、森の木々に隠れるようにして塔が建っている。
 とりあえずはそれを目指すことにして、森の中を進んでいった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

今更……助けてくれと……言われても……

#Daki-Makura
ファンタジー
出奔した息子から手紙が届いた…… 今更……助けてくれと……言われても……

Chivalry - 異国のサムライ達 -

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)
ファンタジー
シヴァリー(Chivalry)、それは主に騎士道を指し、時に武士道としても使われる言葉である。騎士道と武士道、両者はどこか似ている。強い精神をその根底に感じる。だが、士道は魔法使いが支配する世界でも通用するのだろうか? これは魔法というものが絶対的な価値を持つ理不尽な世界で、士道を歩んだ者達の物語であり、その中でもアランという男の生き様に主眼を置いた大器晩成なる物語である。(他サイトとの重複投稿です。また、画像は全て配布サイトの規約に従って使用しています)

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

死に戻り勇者は二度目の人生を穏やかに暮らしたい ~殺されたら過去に戻ったので、今度こそ失敗しない勇者の冒険~

白い彗星
ファンタジー
世界を救った勇者、彼はその力を危険視され、仲間に殺されてしまう。無念のうちに命を散らした男ロア、彼が目を覚ますと、なんと過去に戻っていた! もうあんなヘマはしない、そう誓ったロアは、二度目の人生を穏やかに過ごすことを決意する! とはいえ世界を救う使命からは逃れられないので、世界を救った後にひっそりと暮らすことにします。勇者としてとんでもない力を手に入れた男が、死の原因を回避するために苦心する! ロアが死に戻りしたのは、いったいなぜなのか……一度目の人生との分岐点、その先でロアは果たして、穏やかに過ごすことが出来るのだろうか? 過去へ戻った勇者の、ひっそり冒険談 小説家になろうでも連載しています!

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

【完結】悪の尋問令嬢、″捨てられ王子″の妻になる。

Y(ワイ)
ファンタジー
尋問を生業にする侯爵家に婿入りしたのは、恋愛戦略に敗れた腹黒王子。 白い結婚から始まる、腹黒VS腹黒の執着恋愛コメディ(シリアス有り)です。

処理中です...