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第57話 自ら歩むということは
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フラウとマテリアさんが持ち寄った情報を僕たちが持つ情報と総合すると、以下のようになる。
ア・ロア遺跡──それはトワル文明時代の錬金術師が作ったとされる遺跡で、森羅万象の四柱と呼ばれる精霊の剣による封印が施されている。
封印の先には、ユジンの司祭と名乗るサテュロスとミルウード……彼らが言う言葉を借りるなら『神』と称されるものが眠っているらしい。
その『神』はおそらくトワル文明時代に信仰されていた運命の三女神であり、力の象徴でもあるというのがマテリアさんの予想だ。
それに最終拝謁を果たすのがユジンの司祭たちの目的であり、そのために必要な品である『心臓』を彼らは持っている。
遺跡の仕掛けにあった一文にも『心臓』の文字があったし、おそらく彼らが持っている『心臓』──あの宝石を『神』に捧げると何かが起こるのだろう。
ア・ロア遺跡は、運命の三女神が眠る古代の遺跡だったのだ。
「…………」
皆の話を黙って聞いていたアラグは、目の前に並べた四本の精霊の剣を見据えたまま、口を開いた。
「……此処まで情報が揃ってるなら、決まりだな」
一呼吸置いて、言う。
「ア・ロア遺跡の封印を解く」
「私も同行させてちょうだい。あの遺跡を調査する学者として、世紀の発見を是非ともこの目で見たいのよ」
名乗りを上げるマテリアさん。
彼女なら多分そう言うだろうとは思ったよ。
「それは構わない。古代の遺跡を攻略するには人数が欲しいところだからな」
アラグはマテリアさんの参加希望をあっさりと受け入れた。
まあ、マテリアさんは優れた魔術の腕前があるから、何かあっても自分で身を守ることはできるだろう。
そこまで言って──場が、静かになる。
皆の視線が、僕へと集中している。
……彼らが何を言いたいか。それは分かっている。
あの遺跡は錬金術が深く関わった場所だから、錬金術師の存在が必要不可欠だとでも言うのだろう。
それは、理解している。精霊の剣による封印を解いた先に、別の錬金術の仕掛けが施されている可能性があることも、分かっている。
だが、それでも。
僕は、行きたくない。
台座に魔物が潜んでいたように、罠や仕掛けによる魔物の出現がないとは限らない。その可能性が少しでもある以上は、僕は遺跡に行くわけにはいかないのだ。
「……僕は、行かないぞ」
僕は沈黙を破って答えた。
「何かあった時、僕は戦えないから足手まといになる。皆に迷惑をかけるのは御免だ」
「……ねえ、シルカ」
僕の言葉に応えるように口を開いたのはフラウだった。
「あたしは……あたしたちは、シルカのことを足手まといだなんて思ったことは一度もないよ。シルカは確かに魔術は使えないかもしれないけどさ、それでも、できることであたしたちと一緒に戦ってきてくれたじゃない」
「そうよ。気にしすぎよ」
フラウの言葉に続けるシャオレン。
「アタシたちは、自分たちのことを万能だなんてこれっぽっちも思ってないわよ。誰にだってできることとできないことがあるの。シルカにとっては、それが錬金術と魔術だったってだけ。特別なことでも、不思議なことでもないわ」
今まで使えてた魔術が使えなくなったってのは不思議だけどね、と付け加えて、彼は笑った。
「シルカは錬金術師としてこれ以上にないくらいにアタシたちの力になってくれていたわ。だからアタシたちはアタシたちのできることでその思いに応えるの。役立たずだなんて自分を卑下しちゃ駄目よ」
「シルカ……お願い。あたしたちと一緒に冒険してほしい。錬金術師として、一緒に隣を歩いてほしい。この世界に眠っている謎を、一緒にその目で見てほしい」
「…………」
真剣な目で見つめられて。心の底からの言葉を聞かされて。
僕は、そんな風に思われていたのか、と思った。
僕は戦うのは嫌だ。御免だ。けど……
………………
長い、長い沈黙の後。
僕は、小さく、言った。
「僕は、戦わないって決めたんだ」
ふうっと全身で息を吐き、続けた。
「何か出たら、守ってもらうからな。それは忘れるなよ」
「忘れるわけないじゃない。いつもあんたが言ってることだもの」
フラウは苦笑した。
それから、小さな声で、言った。
「……ありがとう。シルカ」
「──明日の朝、遺跡に向けて出発する。各自準備と体調を整えておいてくれ」
皆の顔を見回して、アラグはそう告げた。
「必ず、遺跡の最奥に辿り着こう。此処にいる全員で、遺跡に眠っている謎の答えを拝んでやろうぜ」
頷き合う彼らを少し離れた位置で見つめながら、僕は思った。
初めてかもしれないな──僕が、自分から旅に出ようとするのは、と。
ア・ロア遺跡──それはトワル文明時代の錬金術師が作ったとされる遺跡で、森羅万象の四柱と呼ばれる精霊の剣による封印が施されている。
封印の先には、ユジンの司祭と名乗るサテュロスとミルウード……彼らが言う言葉を借りるなら『神』と称されるものが眠っているらしい。
その『神』はおそらくトワル文明時代に信仰されていた運命の三女神であり、力の象徴でもあるというのがマテリアさんの予想だ。
それに最終拝謁を果たすのがユジンの司祭たちの目的であり、そのために必要な品である『心臓』を彼らは持っている。
遺跡の仕掛けにあった一文にも『心臓』の文字があったし、おそらく彼らが持っている『心臓』──あの宝石を『神』に捧げると何かが起こるのだろう。
ア・ロア遺跡は、運命の三女神が眠る古代の遺跡だったのだ。
「…………」
皆の話を黙って聞いていたアラグは、目の前に並べた四本の精霊の剣を見据えたまま、口を開いた。
「……此処まで情報が揃ってるなら、決まりだな」
一呼吸置いて、言う。
「ア・ロア遺跡の封印を解く」
「私も同行させてちょうだい。あの遺跡を調査する学者として、世紀の発見を是非ともこの目で見たいのよ」
名乗りを上げるマテリアさん。
彼女なら多分そう言うだろうとは思ったよ。
「それは構わない。古代の遺跡を攻略するには人数が欲しいところだからな」
アラグはマテリアさんの参加希望をあっさりと受け入れた。
まあ、マテリアさんは優れた魔術の腕前があるから、何かあっても自分で身を守ることはできるだろう。
そこまで言って──場が、静かになる。
皆の視線が、僕へと集中している。
……彼らが何を言いたいか。それは分かっている。
あの遺跡は錬金術が深く関わった場所だから、錬金術師の存在が必要不可欠だとでも言うのだろう。
それは、理解している。精霊の剣による封印を解いた先に、別の錬金術の仕掛けが施されている可能性があることも、分かっている。
だが、それでも。
僕は、行きたくない。
台座に魔物が潜んでいたように、罠や仕掛けによる魔物の出現がないとは限らない。その可能性が少しでもある以上は、僕は遺跡に行くわけにはいかないのだ。
「……僕は、行かないぞ」
僕は沈黙を破って答えた。
「何かあった時、僕は戦えないから足手まといになる。皆に迷惑をかけるのは御免だ」
「……ねえ、シルカ」
僕の言葉に応えるように口を開いたのはフラウだった。
「あたしは……あたしたちは、シルカのことを足手まといだなんて思ったことは一度もないよ。シルカは確かに魔術は使えないかもしれないけどさ、それでも、できることであたしたちと一緒に戦ってきてくれたじゃない」
「そうよ。気にしすぎよ」
フラウの言葉に続けるシャオレン。
「アタシたちは、自分たちのことを万能だなんてこれっぽっちも思ってないわよ。誰にだってできることとできないことがあるの。シルカにとっては、それが錬金術と魔術だったってだけ。特別なことでも、不思議なことでもないわ」
今まで使えてた魔術が使えなくなったってのは不思議だけどね、と付け加えて、彼は笑った。
「シルカは錬金術師としてこれ以上にないくらいにアタシたちの力になってくれていたわ。だからアタシたちはアタシたちのできることでその思いに応えるの。役立たずだなんて自分を卑下しちゃ駄目よ」
「シルカ……お願い。あたしたちと一緒に冒険してほしい。錬金術師として、一緒に隣を歩いてほしい。この世界に眠っている謎を、一緒にその目で見てほしい」
「…………」
真剣な目で見つめられて。心の底からの言葉を聞かされて。
僕は、そんな風に思われていたのか、と思った。
僕は戦うのは嫌だ。御免だ。けど……
………………
長い、長い沈黙の後。
僕は、小さく、言った。
「僕は、戦わないって決めたんだ」
ふうっと全身で息を吐き、続けた。
「何か出たら、守ってもらうからな。それは忘れるなよ」
「忘れるわけないじゃない。いつもあんたが言ってることだもの」
フラウは苦笑した。
それから、小さな声で、言った。
「……ありがとう。シルカ」
「──明日の朝、遺跡に向けて出発する。各自準備と体調を整えておいてくれ」
皆の顔を見回して、アラグはそう告げた。
「必ず、遺跡の最奥に辿り着こう。此処にいる全員で、遺跡に眠っている謎の答えを拝んでやろうぜ」
頷き合う彼らを少し離れた位置で見つめながら、僕は思った。
初めてかもしれないな──僕が、自分から旅に出ようとするのは、と。
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