アメミヤのよろず屋

高柳神羅

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第99話 海賊のアジト

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 罠を越えた僕たちは、広い場所に出た。
 それは、天然の洞窟にはありえない──明らかに人の手で作られたと分かる足場や見張り台などが並ぶ空間であった。
 高低差のある場所には木で作られた梯子が掛けられ、闇は設置された燭台の炎が照らし、壁には幾つも扉が設置されている。
 そして、その扉を守るように佇んでいる人の姿。
 しかしそれは人間などではなく、頭が異様な形に変形した緑色の人型の魔物であった。
 皆ぼろぼろの服を身に纏い、手には剣を持っている。
 意思疎通ができるかどうかは定かではないが、友好的に接してくれそうな存在でないことだけは分かった。
「やっぱり魔物がいたか」
 ブランはハルバードを抜いた。
 僕はブランの陰に隠れながら、言った。
「……まさか、突っ込む気か?」
「そうしなけりゃ始まらんだろ。あいつらは扉を守ってるみたいだからな」
「少しは遠くから魔術で狙撃しようとか、安全に事を運べる方法を考えてくれよ!」
 僕の言葉を聞いたイオンが、前に出てきた。
「分かりましたぁ。幻獣に任せればいいんですねぇ」
 杖をさっと振って、唱える。
「サモン・リヴァイアサン」
 彼女の全身から発せられた魔力が収束し、全長十メートルを超える巨大な蛇に似た生き物の姿となる。
「扉の前にいる人たちをやっつけちゃって下さぁい」
 彼女の命を受け、幻獣は宙を泳ぎ扉の前に佇む魔物に襲いかかった。
 大きな口を開き、真横から魔物の上半身に食らいつく!
 食いちぎられた魔物の下半身が床に転がる。
 傍にいた仲間がそれに気付いて声を上げるが、それも間もなく幻獣の餌食となった。
 幻獣は空間中を縦横無尽に泳ぎ回り、そこにいる魔物を全て食い殺して、消えた。
 後に残ったのは、噛み砕かれてぐちゃぐちゃの肉片になった魔物の上半身だったものと、奴らが持っていた得物だけ。
 ……何と言うか、魔術で狙撃するよりも生々しいな。幻獣の攻撃ってやつは。
「これでいいですかぁ?」
「………… うん」
 ……深く考えないようにしよう。
 僕はイオンの言葉に頷きながらそう思ったのだった。
「どれ、片っ端から調べるか」
 ブランは扉に近付いて、勢い良くそれを開いた。
 扉の向こうは、部屋になっていた。
 使われなくなって随分経つと思われる状態の戸棚や、本棚、テーブルなどが配置され、床にはすっかり劣化した何かの毛皮らしき敷物が敷かれている。
 テーブルの傍には椅子があり、そこには服を着た骸骨が座っていた。
 骸骨はスケルトンなどのアンデッドというわけではなく、正真正銘ただの朽ちた骸のようで、力なく頭を垂れて椅子の背凭れに背中を預けている。
 テーブルの上には、古びた書物と大きな鍵が置かれていた。
 書物は……かなり劣化が激しいが、何とか読めそうだ。
 僕は書物を手に取って、表紙に書かれている字を読んだ。
「『日誌』……」
 表紙を捲り、中にある一文に目を通す。

『○の月、×日
 頭がいつになく上機嫌だ。どうやら新しい宝を手に入れたらしい。
 手に入れた宝は、頭の数多くあるコレクションの一部になるのだろう。俺も一度でいいから海賊王の宝を目にしてみたいものだ。』

「何かあったか?」
 ブランが僕の手元を覗き込んでくる。
 僕は書物のページをぱらぱらと捲り、首を振って書物を元の位置に戻した。
「何もない。ただの日誌だよ」
「こっちの鍵は何だ?」
 彼は鍵を手に取った。
 鍵は、形こそ普通の鍵の形をしてはいるが人間の腕くらいの大きさがある。普通の棚や宝箱の鍵として考えるには少々大きすぎるような気がする。
「何処かの扉の鍵じゃないでしょうかぁ」
 鍵を見て意見を述べるイオン。
 僕もそんな気がする。
「一応貰っていくか」
 ブランは腰のベルトに鍵を引っ掛けた。
「よし、他の扉も開けて調べるぞ」
 僕たちは部屋を出て、他の扉に向かった。
 扉は今僕たちが調べた部屋のものを含めて全部で五つあるが、そのうちの四つは部屋に続く扉だった。
 部屋はどれも生活臭のある内装をしており、宝箱も見つけることができたが中身は全て空だった。
「……此処は海賊のアジトか何かだったのか? 家具といい雰囲気といい、魔物というよりも人間が住んでいたような感じがするな」
 部屋を調べ終えたブランが小首を傾げながらそのようなことを言う。
 僕もそう思う。此処に来る前の道に仕掛けられていた罠といい、部屋といい、残っていた日誌の内容といい、此処をダンジョンとするにはあまりにも人間の手が入りすぎている感じがするのだ。
 元々海賊のアジトだったものがダンジョンと化した……というパターンも考えられるには考えられるが、それにしては野性の魔物が全くいないのがおかしい。
 さっきの魔物は、魔物というよりも元々此処にいた人間が怪物になったような感じだったし……
 この様子だと、洞窟の奥には更に思いがけないものが眠っていそうである。
「……とりあえず、最後の扉だ。行くぞ」
 ブランは最後に残った扉を開いた。
 扉の向こうには──更に奥へと続く道があった。
 漂ってくる潮の香りが更に強くなった。海が結構近いところにあるらしい。
 僕たちは罠の存在に警戒しながら、洞窟の奥を目指して更に進んでいった。
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