アメミヤのよろず屋

高柳神羅

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第152話 遺跡が内に隠したもの

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 僕は台座から降りて、台座を見た。
 さっきは中心に向かって収束するような流れを見せていた光は、今は中心から外に向かって湧き出るような動きを見せている。
 まるでそれは、物を吐き出す光の通り道のように見えた。
 二人とはぐれてしまったが……大丈夫だろうか?
 僕がちょっと心配になっていると。
「……おー、こうなっとるんやね。昔の人は何やえらいもん作りはるなぁ」
 クレハとキクも、僕を追いかけて台座から姿を現した。
 クレハは楽しそうに台座から降りてくると、よっと僕に向かって片手を挙げた挨拶をした。
「シルカ、大丈夫やった?」
「ああ」
 僕は頷いて、台座が発している光をじっと見た。
「この台座、転移装置になってたんだな……対になってる台座に乗ったものを運ぶ役割をしてたんだ」
「何で急に動き出したんやろね?」
「多分……石版が仕掛けになっていて、それを動かしたからだろうな」
 石版に書かれていた文字が抜け出して襲ってくる仕掛け。文字を倒したから、台座が動いたのだろう。
 僕は今までに色々な魔術や錬金術の仕掛けを見てきたが、こんな仕掛けは見たことがない。
 台座の仕掛けといい、通路を塞いでいた石網の仕掛けといい。これらが作られた時代の技術は、現代よりも大分進んだレベルにあったようだ。
 僕は表情を引き締めて、二人に言った。
「きっとこの先もこんな感じの仕掛けがあるはずだ。変なものを見つけても勝手に触らないようにしろよ」
「触らな話が進まんやん。魔物が出ても自分らが何とかするし、大丈夫やて」
「何でそう気楽に物事を考えられるんだよ、あんたは!」
 からっと笑うクレハに、僕は訴えるように大声を出した。
 本当に……危険を危険だと認識しない奴と一緒だと気が休まらないよ。寿命が縮む。
 こんな奴と一緒でよく平気でいられるな、キクは。
 キクは何も言わずに、僕たちのことを見つめている。
 ……ひょっとしたら彼は、クレハと四六時中一緒にいるせいでこれが普通なのだと思っているのかもしれない。
 全く、常識人がいないのか。此処には。
 まるきり観光気分になっているクレハに警戒は怠るなよと言い聞かせて、僕たちは先へと進んだ。

 それからは、同じような構造の通路と部屋が幾つも続いた。
 通路を塞ぐ石網を指輪の力で取り除き、部屋の壁に設置されている石版から湧き出てくる文字を倒して、台座を動かして別の部屋へと転移して。
 どれくらいそれを繰り返しただろうか。
 魔物らしい魔物もおらず、変わり映えのない景色と構造に飽きてきて、クレハが本当に何もないと文句を言うようになってきた頃。
 ようやく、この状況に変化が訪れた。

 通路の果てにあったその部屋は、今までに足を踏み入れた部屋と比較してかなり明るい場所だった。
 壁の一面が大きく窪んでおり、足下からライトアップされたその窪みには球体を繋ぎ合わせて作ったような大きな人形が飾られている。
 部屋の中心には、台座がある。転移装置になっていた今までの台座とは異なる小さなもので、台座の上には掌サイズの水晶のような透明の物体が浮かんでいた。
 台座には石版が誂えられていた。そこには何か文章のようなものが刻まれていたが、読むことはできなかった。
「此処が、遺跡のいっとう深い場所にある部屋なん?」
 腰に手を当てて部屋を見回すクレハ。
 ほお、と声を漏らしながら台座に近付き、そこに浮かんでいる水晶を物珍しそうに眺めた。
「如何にもって感じのお宝やなぁ」
 無造作に手を伸ばして水晶に触れようとするので、僕は慌ててそれを止めた。
「おい、少しは罠が仕掛けられている可能性を考えてくれよ」
「罠?」
 クレハは怪訝そうにこちらに振り向いた。
 ……本当に冒険者なのか、こいつは。
 僕は溜め息をつき、部屋の奥に立っている人形を指差した。
「あからさまに罠って感じのものがそこにあるだろ。その玉に手を出したらそいつが動き出すかもしれないって誰でも考え付くことじゃないか」
「動かへんかもしれへんやん」
 クレハはしれっと言って、人形に目を向けた。
「可能性に振り回されてせっかくのチャンスを逃すんは冒険者ちゃうで、シルカ。冒険者はいつでも一瞬のチャンスを手にするために動くもんや、ちょっとの危険くらい、笑って跳ね除けられるようにならな」
「僕は冒険者じゃないって言ったよな!?」
 僕の大声に大丈夫と笑って、クレハは水晶をさっと手に取った。
 ああもう、勝手に!
 水晶をぽんぽんと手中で弄びながら、彼は人形の前に歩いていった。
 人形の正面に立ち、それを見上げて、首を傾げる。
「何や、動かへんね」
 空いている手で人形の胴体にぺたぺたと触る。
 僕はその場から身を引きながら言った。
「おい、自由奔放なのもそのくらいに──」
 その言葉が、半ばで途切れる。
 人形の首が、ぐりっと音を立ててクレハの方に傾いたのだ。
 三本爪の細い指が、クレハの手をがしっと掴む。
「おお?」
「ほらみろ!」
 僕たちが注目する中、人形がゆっくりと窪みから出てくる。
 この人形は、宝を守るために設置されたゴーレムだったのだ。
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