20 / 70
第1部 貴族学園編
20 魔石と魔力
しおりを挟む
騎士さんたちの剣術大会の前に、タンポポ組の競技の障害物競走があった。私はやっぱりビリになったけど、リョウ君は大活躍したよ。障害物? どこそれ? みたいな顔をしてオリンピック選手のような走りを見せてくれた。ほんとにもう、うちの弟って人類最強になれるんじゃない?
疲れてテントに帰ると、オスカー様が気の毒そうな顔をして、私にアイスクリームを渡してくれた。
「保護者会で出された冷たいクリームだよ。今年は氷の魔石がたくさん手に入ったから、子供の分もあるって持ってきてくれたよ。これでも食べて元気出して」
「ありがとう」
甘いミルク味のアイスクリームは、すさんだ心を慰めてくれる。
あ、これを冷やした氷の魔石は、この前私が魔力を補充したやつだね。
「ねえオスカー様、契約獣が手に入ったら何ができるの?」
3口でアイスクリームを食べ終えたリョウ君が、テーブルに置かれた黒い馬のぬいぐるみを手に取りながら、オスカー様に聞いた。
「契約獣は魔力を安定させるんだ。俺たち子供は魔力が不安定だから、まだ使っちゃだめだけど。契約獣が魔力量を調整してくれるようになると、安全に魔力が使えるようになるんだ」
ん?
「契約獣がいないと、魔力を使っちゃダメなの? 魔石に補充できないの?」
「できなくはないけど、かなり危険だよ。魔力を使いすぎると命にかかわるから。子供のうちは魔力量の調整ができない。それで、平民の子供で、お金のために魔石に魔力を補充して、死んじゃった子もいるみたいだよ」
なんですと?
母様は私に、3歳の時から魔力補充させてるけど……。
「え? それじゃ、姉さまは?」
目を見開いて驚いているリョウ君に、私は自分の唇に人差し指を当てた。
そういえば、母様はリョウ君には魔石の魔力補充させてないよね。
「どっちにしろ、まだ俺たちは何の魔力を持ってるかもわからないからね。卒園後に魔力鑑定を行って初めて、適性が分かるんだ。そしたら、貴族の務めとして、結界の魔道具に魔力補充できるようになる。誉れあることだよ」
魔力鑑定……。家にある魔道具で3歳の時に母様にやられたな。そういえば、リョウ君はまだ鑑定してない。
嫌な考えが頭に浮かんだけど、気にしないように首を振った。
「姉さま……」
心配するリョウ君に私はにこりと笑った。
「あ、ほら、騎士さんが戦うよ!」
剣術トーナメントは、途中までは辺境騎士の圧勝だった。
近衛騎士が出てくるまでは。
「今の騎士さんの動きは変だったよ」
剣を取り落として負けを宣言した騎士さんに、リョウ君はがっかりして不満を漏らした。
「ああ、そうだね」
オスカー様は、ものすごく苦いものを口に入れてるように顔をゆがめた。
そっか、そういうことか。
王家の用意した近衛騎士には、勝ったらだめなんだね。
オスカー様がそう命令してたんだ。
後ろで観戦していた騎士さんたちも、悔しそうに肩を落とした。
「さあ、優勝者が決定しました! 皆さんの予想通り、王太子ビクトル様の護衛騎士! 近衛騎士副隊長のアーサー様です! 素晴らしい剣技でした。皆さま、拍手を!!」
アナウンスの声で、わぁーっと歓声が響く。
王太子が指令台に上って、優勝旗を近衛騎士に渡した。近衛騎士はひざまずいて、恭しく受け取った。
その隣で、対戦相手の辺境伯の騎士さんは地面を見ていた。
納得できない競技がいっぱいあったけど、運動会はこうして終わった。最後に指令台の上に国王が立って、閉会の言葉を唱えた。
「終わったね」
「うん、タンポポ組は負けちゃったけどね」
勝ち負けがあるなんて知らなかった。国王がいきなり、「勝者、薔薇組!」って宣言した時は、びっくりしたよ。
なんでタンポポ組の負けなの? 訳わかんないよ。
不満はあふれるほどあったけど、でも、楽しかった。
タンポポ組のみんなはとてもいい子だ。みんなが一緒になって一生懸命やり切ったよ。みんな、声を枯らして応援したよ。
絆が強くなったね。
「ぼくね、タンポポ組でよかった」
「うん、姉さまも」
私達は手をつないで家に帰った。
疲れてテントに帰ると、オスカー様が気の毒そうな顔をして、私にアイスクリームを渡してくれた。
「保護者会で出された冷たいクリームだよ。今年は氷の魔石がたくさん手に入ったから、子供の分もあるって持ってきてくれたよ。これでも食べて元気出して」
「ありがとう」
甘いミルク味のアイスクリームは、すさんだ心を慰めてくれる。
あ、これを冷やした氷の魔石は、この前私が魔力を補充したやつだね。
「ねえオスカー様、契約獣が手に入ったら何ができるの?」
3口でアイスクリームを食べ終えたリョウ君が、テーブルに置かれた黒い馬のぬいぐるみを手に取りながら、オスカー様に聞いた。
「契約獣は魔力を安定させるんだ。俺たち子供は魔力が不安定だから、まだ使っちゃだめだけど。契約獣が魔力量を調整してくれるようになると、安全に魔力が使えるようになるんだ」
ん?
「契約獣がいないと、魔力を使っちゃダメなの? 魔石に補充できないの?」
「できなくはないけど、かなり危険だよ。魔力を使いすぎると命にかかわるから。子供のうちは魔力量の調整ができない。それで、平民の子供で、お金のために魔石に魔力を補充して、死んじゃった子もいるみたいだよ」
なんですと?
母様は私に、3歳の時から魔力補充させてるけど……。
「え? それじゃ、姉さまは?」
目を見開いて驚いているリョウ君に、私は自分の唇に人差し指を当てた。
そういえば、母様はリョウ君には魔石の魔力補充させてないよね。
「どっちにしろ、まだ俺たちは何の魔力を持ってるかもわからないからね。卒園後に魔力鑑定を行って初めて、適性が分かるんだ。そしたら、貴族の務めとして、結界の魔道具に魔力補充できるようになる。誉れあることだよ」
魔力鑑定……。家にある魔道具で3歳の時に母様にやられたな。そういえば、リョウ君はまだ鑑定してない。
嫌な考えが頭に浮かんだけど、気にしないように首を振った。
「姉さま……」
心配するリョウ君に私はにこりと笑った。
「あ、ほら、騎士さんが戦うよ!」
剣術トーナメントは、途中までは辺境騎士の圧勝だった。
近衛騎士が出てくるまでは。
「今の騎士さんの動きは変だったよ」
剣を取り落として負けを宣言した騎士さんに、リョウ君はがっかりして不満を漏らした。
「ああ、そうだね」
オスカー様は、ものすごく苦いものを口に入れてるように顔をゆがめた。
そっか、そういうことか。
王家の用意した近衛騎士には、勝ったらだめなんだね。
オスカー様がそう命令してたんだ。
後ろで観戦していた騎士さんたちも、悔しそうに肩を落とした。
「さあ、優勝者が決定しました! 皆さんの予想通り、王太子ビクトル様の護衛騎士! 近衛騎士副隊長のアーサー様です! 素晴らしい剣技でした。皆さま、拍手を!!」
アナウンスの声で、わぁーっと歓声が響く。
王太子が指令台に上って、優勝旗を近衛騎士に渡した。近衛騎士はひざまずいて、恭しく受け取った。
その隣で、対戦相手の辺境伯の騎士さんは地面を見ていた。
納得できない競技がいっぱいあったけど、運動会はこうして終わった。最後に指令台の上に国王が立って、閉会の言葉を唱えた。
「終わったね」
「うん、タンポポ組は負けちゃったけどね」
勝ち負けがあるなんて知らなかった。国王がいきなり、「勝者、薔薇組!」って宣言した時は、びっくりしたよ。
なんでタンポポ組の負けなの? 訳わかんないよ。
不満はあふれるほどあったけど、でも、楽しかった。
タンポポ組のみんなはとてもいい子だ。みんなが一緒になって一生懸命やり切ったよ。みんな、声を枯らして応援したよ。
絆が強くなったね。
「ぼくね、タンポポ組でよかった」
「うん、姉さまも」
私達は手をつないで家に帰った。
68
あなたにおすすめの小説
家族の肖像~父親だからって、家族になれるわけではないの!
みっちぇる。
ファンタジー
クランベール男爵家の令嬢リコリスは、実家の経営手腕を欲した国の思惑により、名門ながら困窮するベルデ伯爵家の跡取りキールと政略結婚をする。しかし、キールは外面こそ良いものの、実家が男爵家の支援を受けていることを「恥」と断じ、リコリスを軽んじて愛人と遊び歩く不実な男だった 。
リコリスが命がけで双子のユフィーナとジストを出産した際も、キールは朝帰りをする始末。絶望的な夫婦関係の中で、リコリスは「天使」のように愛らしい我が子たちこそが自分の真の家族であると決意し、育児に没頭する 。
子どもたちが生後六か月を迎え、健やかな成長を祈る「祈健会」が開かれることになった。リコリスは、キールから「男爵家との結婚を恥じている」と聞かされていた義両親の来訪に胃を痛めるが、実際に会ったベルデ伯爵夫妻は―?
ひめさまはおうちにかえりたい
あかね
ファンタジー
政略結婚と言えど、これはない。帰ろう。とヴァージニアは決めた。故郷の兄に気に入らなかったら潰して帰ってこいと言われ嫁いだお姫様が、王冠を手にするまでのお話。(おうちにかえりたい編)
王冠を手に入れたあとは、魔王退治!? 因縁の女神を殴るための策とは。(聖女と魔王と魔女編)
平和な女王様生活にやってきた手紙。いまさら、迎えに来たといわれても……。お帰りはあちらです、では済まないので撃退します(幼馴染襲来編)
追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて
だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。
敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。
決して追放に備えていた訳では無いのよ?
婚約破棄され森に捨てられました。探さないで下さい。
拓海のり
ファンタジー
属性魔法が使えず、役に立たない『自然魔法』だとバカにされていたステラは、婚約者の王太子から婚約破棄された。そして身に覚えのない罪で断罪され、修道院に行く途中で襲われる。他サイトにも投稿しています。
失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~
紅月シン
ファンタジー
聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。
いや嘘だ。
本当は不満でいっぱいだった。
食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。
だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。
しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。
そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。
二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。
だが彼女は知らなかった。
三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。
知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。
※完結しました。
※小説家になろう様にも投稿しています
騎士団の繕い係
あかね
ファンタジー
クレアは城のお針子だ。そこそこ腕はあると自負しているが、ある日やらかしてしまった。その結果の罰則として針子部屋を出て色々なところの繕い物をすることになった。あちこちをめぐって最終的に行きついたのは騎士団。花形を譲って久しいが消えることもないもの。クレアはそこで繕い物をしている人に出会うのだが。
地味令嬢を見下した元婚約者へ──あなたの国、今日滅びますわよ
タマ マコト
ファンタジー
王都の片隅にある古びた礼拝堂で、静かに祈りと針仕事を続ける地味な令嬢イザベラ・レーン。
灰色の瞳、色褪せたドレス、目立たない声――誰もが彼女を“無害な聖女気取り”と笑った。
だが彼女の指先は、ただ布を縫っていたのではない。祈りの糸に、前世の記憶と古代詠唱を縫い込んでいた。
ある夜、王都の大広間で開かれた舞踏会。
婚約者アルトゥールは、人々の前で冷たく告げる――「君には何の価値もない」。
嘲笑の中で、イザベラはただ微笑んでいた。
その瞳の奥で、何かが静かに目覚めたことを、誰も気づかないまま。
翌朝、追放の命が下る。
砂埃舞う道を進みながら、彼女は古びた巻物の一節を指でなぞる。
――“真実を映す者、偽りを滅ぼす”
彼女は祈る。けれど、その祈りはもう神へのものではなかった。
地味令嬢と呼ばれた女が、国そのものに裁きを下す最初の一歩を踏み出す。
プリン食べたい!婚約者が王女殿下に夢中でまったく相手にされない伯爵令嬢ベアトリス!前世を思いだした。え?乙女ゲームの世界、わたしは悪役令嬢!
山田 バルス
恋愛
王都の中央にそびえる黄金の魔塔――その頂には、選ばれし者のみが入ることを許された「王都学院」が存在する。魔法と剣の才を持つ貴族の子弟たちが集い、王国の未来を担う人材が育つこの学院に、一人の少女が通っていた。
名はベアトリス=ローデリア。金糸を編んだような髪と、透き通るような青い瞳を持つ、美しき伯爵令嬢。気品と誇りを備えた彼女は、その立ち居振る舞いひとつで周囲の目を奪う、まさに「王都の金の薔薇」と謳われる存在であった。
だが、彼女には胸に秘めた切ない想いがあった。
――婚約者、シャルル=フォンティーヌ。
同じ伯爵家の息子であり、王都学院でも才気あふれる青年として知られる彼は、ベアトリスの幼馴染であり、未来を誓い合った相手でもある。だが、学院に入ってからというもの、シャルルは王女殿下と共に生徒会での活動に没頭するようになり、ベアトリスの前に姿を見せることすら稀になっていった。
そんなある日、ベアトリスは前世を思い出した。この世界はかつて病院に入院していた時の乙女ゲームの世界だと。
そして、自分は悪役令嬢だと。ゲームのシナリオをぶち壊すために、ベアトリスは立ち上がった。
レベルを上げに励み、頂点を極めた。これでゲームシナリオはぶち壊せる。
そう思ったベアトリスに真の目的が見つかった。前世では病院食ばかりだった。好きなものを食べられずに死んでしまった。だから、この世界では美味しいものを食べたい。ベアトリスの食への欲求を満たす旅が始まろうとしていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる