【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜

白崎りか

文字の大きさ
32 / 70
第1部 貴族学園編

32 契約獣

しおりを挟む
 薄暗い洞窟の中で、彼は眩しく光っていた。銀色に光り輝いていた。とてつもなく美しい若い男の人の外見をしている。私をまっすぐに見つめる銀色の瞳。時々、虹色に輝く。そして、鼻筋の通った中性的な美貌。銀色の髪は、輝きながらまっすぐに背中まで流れている。そして、その背中についているものが、この生き物が人間ではないと証明していた。
 大きな虹色に光る6枚の羽根。

 光の爆発から回復した私は、言葉を失って、目の前の異形を見つめた。目が離せない圧倒的な美。
 
 私は彼の姿形を見たことがある。毎晩リョウ君が見ていた絵本、「勇者と聖女と光の精霊王」の挿絵だ。6枚の羽根を広げた光る存在。

 きっと、彼は……、

「そう、ぼくは光の精霊王だ。そして、君はリシアと同じだね」

 私の表情を読んで、精霊王は嬉しそうに笑った。そして宙に浮かんだまま近づいてくる。

 逃げないと。

 とっさに、あたりを見回す。

 リョウ君は? ああ、座り込んでいる。

 護衛の騎士さんは? ダメだ。全員倒れてる。

 どうしたらいいの?

「契約獣を探しているんだろう? 君は勇者が予言した王女だ。リシアと同じ色をしている。リシアと王子の子孫だね。長い間待ってたんだよ。やっと会えた。僕の契約者」

 光の精霊王は私の前に浮かんで立ち、輝くように笑った。その笑顔から光があふれ出す。

 どうしよう。私をリシアの生まれ変わりって勘違いしてる? 私にはリシアの記憶なんてない。前世の日本人の記憶しかない。
 確かに、私は王族の血が流れてて、王族の色合いの顔をしてるけど、でも、違う、と思う。だって、リシアの生まれ変わりなんかじゃないから。

 私は、目の前に浮かぶ美しすぎる精霊王を首をあげて見上げて、一生懸命説明した。

 父と母の政略結婚が白い結婚だったってことになったこと。私の戸籍が偽られていること。だから、私は予言の王女じゃないってことを。

「つまり、私は王女ってわけじゃないの。だから、予言と違うから、契約者にはなれないのよ。わかった?」

 私は目の前に浮かんでいる銀色の精霊王に、ビシッと小さい指をつきつけた。
 これで分かってくれる? 私は、予言の王女じゃない。っていうか、そんな面倒な役割、絶対やりたくない。

 美貌の精霊王は首をかしげて、困ったような顔をして私を見つめた。

「でも、君はリシアと同じで、僕の契約者だよ」

「だから、違うって、言ってるのに! あなたとは契約しないってば!」

 この精霊王、私の話を聞いてた?

「でも、さっき、誰でもいいから契約獣になってほしいって言ってたよね。じゃあ、僕でいいんじゃない?」

「だ、だめ! だって、虫以外ならって、言った!」

 ぐいっと顔を近づける美貌の精霊から目をそらせて、わたしは焦りながら続けた。

「僕は虫じゃなくて精霊だよ?」

「それ! その背中の羽根が、トンボっぽいから無理!」

 とっさに言い訳に使った精霊王の6枚の羽根は、キラキラと光の粉を振らせている。虹色に色を変えて光る様は、美しくて、トンボの羽根とは全く違っているのだけど。

 妖精はちょっと傷ついたような顔になって、背中の羽根を閉じた。そして、私の目の前に降り立った。
 沈んだ顔さえ美しい精霊を見上げて、私は言い張った。

「だって、私は、聖女リシアの生まれ変わりじゃないんだから! 私にはリシアの記憶なんてない。前世で日本人だった記憶があるだけの、ただの男爵令嬢なの!」

 大声で叫んで、ぜーはーと息を吐いた私の頭の上に、光の精霊王はポンと手を置いた。そして、長い足を曲げてしゃがみこんだ。

「かわいい! すごくかわいい。いっぱい鳴いてる!」

 小動物に向けるような眼差しで微笑んで、精霊王は私の頭をなでまわした。そのまま、私を抱っこしようと腕を伸ばしてくる。バタバタ暴れて逃げたけど、幼児の短い手足では抵抗できずに、背の高い精霊王にすぐに捕まってしまった。

「もう、放してったら! 契約したいんなら、王宮に私より一つ年下の王女様がいるよ! 真実の愛の相手から生まれた本物のかわいい王女様だよ。私は、平民になるの! 王族とは関わりたくないんだから!」

「うーん。いい匂い。リシアと同じ匂いだ。僕の契約者」

 美貌の精霊王は、私の首筋に顔を近づけて匂いをかいだ。ひーん。幼児の匂いを嗅ぐ変質者! たとえ、それが、予言された光の精霊王だとしても!

「やだぁ。放して!」

 気持ち悪い! こわい! 知らない男の人に抱っこされた! クンクンされた! 

「誰か、助けて! 騎士さん!」

 半泣きになる私に救い主が現れた。

「姉さま! 姉さまを放して! 姉さま!」

 弟のリョウ君だ。魔力酔いでぐったり倒れこんでいた双子の弟は、起き上がって、私を抱き上げる精霊王を叩いて攻撃してくれる。

「リョウ君! 姉さまは大丈夫だからね。この精霊は間違って来ただけだから、すぐに追い返すから。もう、だからっ、放してってば!」

 弟をなだめつつ、思いっきり精霊王の足を蹴りつけると、ようやく、私は床におろされた。精霊王は私に蹴られた足を全く気にせずに、リョウ君の方に近づくと、観察するように頭から足先までじろじろ見た。

「君が僕の契約者の、弟? でも……。その色合いはリシアと同じだけど、なぜ……?」

 さすが、精霊王。見ただけで血縁関係が分かるの?
 リョウ君は私の双子の弟ということになっているけど、実際は従弟だ。私の実母の兄である元公爵家次男の息子。ってことを精霊王に説明した。

「ああ、そういうことなのかな? 闇の加護……。それなら、今は良くないな。もう行かないと……。予言の王女よ。僕の名前はルシル・ルーン・ルクス。君の契約者だよ。ちゃんと覚えてね」

 銀色に光る精霊王は、私の手を取って口づけすると、現れた時と同じように光りながら消えた。

「姉さま、だいじょうぶ?」

 リョウ君に抱きしめられながら、私は、精霊王に口づけられた手をワンピースの裾でごしごしこすった。

「ねえさま、さっきのって」

「うん、光の精霊王だって」

「絵本と同じだったね。もっと、ずっと光ってたけど」

 ああ。どうしよう。勇者の書に書かれていた光の精霊王に会っちゃった。私の所にやってきた。

「きっと、勘違いだよ。わたし、聖女リシアの記憶なんてないもん。だから、生まれ変わりなんかじゃないから」

「そう、なのかな?」

 不安そうなリョウ君の腕から抜けて、倒れこんでいる騎士さんの様子を見に行く。よかった。息をしてる。ゆっくり目が開いた。

「ん? 俺は何を?」

「痛えな。なんだ? 倒れて頭を打ったのか?」

 頭を押さえて立ちあがった騎士さんに、リョウ君が説明した。

「多分、魔力酔いです。ぼくたちは魔力が強いので大丈夫だったけど、騎士さんたちはもう平気ですか?」

「ああ? 魔力酔い? どこだ? 強い魔物はどこにいる?」

「強い魔物と戦えるのか? やってやる! どこに行った?」

 きょろきょろとあたりを探しに行く騎士さんに、もういなくなったと説明した。

 騎士さんたち、護衛対象を放っておいて敵を探すのやめてくださいね。

「惜しいことをしたな。気を失うなどと、不覚を取った。すまん、嬢ちゃん。ところで、契約獣は見つかったのか?」

 あ、そうだった。どうしよう。契約獣。もう疲れたから早く帰りたいのに、契約獣を見つけられないと帰れない。 

「嬢ちゃん、やっぱり、さっきのムカデみたいなのが、そうだったんじゃないのか?」

「さっきの所にいけば、まだいるんじゃないか?」

「運動会のカード通りの契約獣だしな」

 歩くのに飽きた騎士さんたちは、私に恐怖の虫と契約をさせたがった。

「絶対、イヤ! それなら契約獣なんていらないから!」

 取り合えず、光の精霊王のことを考えるのは後回しにしよう。もういなくなったし。今は契約獣を何とかしなきゃ。虫は無理!

「うー、絶対に虫は無理。虫と一緒に暮らすなんてできない……なんで、あんなカードをひいちゃったんだろう……。先生の嫌がらせだよね。あんなカードを置くなんて。……薔薇組みたいにかわいい生き物が良かった。……ベアトリス様が取ったぬいぐるみみたいに、白くてかわいい猫がいいのに……」

 ぶつくさ独り言を言いながら、疲れた足をどうにか動かしてひたすら歩いた。

「姉さまは猫が好きなの?」

 まだまだ余裕そうな顔をして、リョウ君が私の独り言に返事した。

「うん、絶対に猫派。モフモフで、鳴き声かわいいし。どこを触っても柔らかくて、抱き心地がいいから」

 ああ、猫。契約猫いないかな? うちでは、母様がペット禁止な人だから、動物飼えないけど、契約獣だったらいいよね。かわいい声で鳴く猫ちゃん……。

「にゃあ」

 ん? 幻聴? 猫の声がする。

「にゃおん。なー」

「! ねえさま! 猫だよ。白猫だ!」

 洞窟の壁のくぼみの中に、小さな手のひらぐらいのサイズの子猫がいた。

「お! 猫だ。お嬢、早く契約しろって!」

 騎士さんたちの声を後ろで聞きながら、私はその白くてふわふわでかわいい白猫と見つめ合った。

 瞳が銀色で、時々、虹色に光っている。

 同じ色合いを、ついさっき見た気がしたけど、そんなこと、もう、どうでもよかった。

 この愛くるしくて、抱っこしたくて仕方ない、世界一かわいい生き物の魅了に、抵抗なんて、できっこない!

「猫ちゃん! 私と契約して!」

「にゃん!」

 白猫は私の顔に向ってジャンプしてきて、そして、私の唇をなめた。

 ああ、私のファーストキスの相手は、猫ちゃんになった。
しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

ひめさまはおうちにかえりたい

あかね
ファンタジー
政略結婚と言えど、これはない。帰ろう。とヴァージニアは決めた。故郷の兄に気に入らなかったら潰して帰ってこいと言われ嫁いだお姫様が、王冠を手にするまでのお話。(おうちにかえりたい編) 王冠を手に入れたあとは、魔王退治!? 因縁の女神を殴るための策とは。(聖女と魔王と魔女編) 平和な女王様生活にやってきた手紙。いまさら、迎えに来たといわれても……。お帰りはあちらです、では済まないので撃退します(幼馴染襲来編)

投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」  リーリエは喜んだ。 「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」  もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。

全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。

彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。

お言葉ですが今さらです

MIRICO
ファンタジー
アンリエットは祖父であるスファルツ国王に呼び出されると、いきなり用無しになったから出て行けと言われた。 次の王となるはずだった伯父が行方不明となり後継者がいなくなってしまったため、隣国に嫁いだ母親の反対を押し切りアンリエットに後継者となるべく多くを押し付けてきたのに、今更用無しだとは。 しかも、幼い頃に婚約者となったエダンとの婚約破棄も決まっていた。呆然としたアンリエットの後ろで、エダンが女性をエスコートしてやってきた。 アンリエットに継承権がなくなり用無しになれば、エダンに利などない。あれだけ早く結婚したいと言っていたのに、本物の王女が見つかれば、アンリエットとの婚約など簡単に解消してしまうのだ。 失意の中、アンリエットは一人両親のいる国に戻り、アンリエットは新しい生活を過ごすことになる。 そんな中、悪漢に襲われそうになったアンリエットを助ける男がいた。その男がこの国の王子だとは。その上、王子のもとで働くことになり。 お気に入り、ご感想等ありがとうございます。ネタバレ等ありますので、返信控えさせていただく場合があります。 内容が恋愛よりファンタジー多めになったので、ファンタジーに変更しました。 他社サイト様投稿済み。

普段は地味子。でも本当は凄腕の聖女さん〜地味だから、という理由で聖女ギルドを追い出されてしまいました。私がいなくても大丈夫でしょうか?〜

神伊 咲児
ファンタジー
主人公、イルエマ・ジミィーナは16歳。 聖女ギルド【女神の光輝】に属している聖女だった。 イルエマは眼鏡をかけており、黒髪の冴えない見た目。 いわゆる地味子だ。 彼女の能力も地味だった。 使える魔法といえば、聖女なら誰でも使えるものばかり。回復と素材進化と解呪魔法の3つだけ。 唯一のユニークスキルは、ペンが無くても文字を書ける光魔字。 そんな能力も地味な彼女は、ギルド内では裏方作業の雑務をしていた。 ある日、ギルドマスターのキアーラより、地味だからという理由で解雇される。 しかし、彼女は目立たない実力者だった。 素材進化の魔法は独自で改良してパワーアップしており、通常の3倍の威力。 司祭でも見落とすような小さな呪いも見つけてしまう鋭い感覚。 難しい相談でも難なくこなす知識と教養。 全てにおいてハイクオリティ。最強の聖女だったのだ。 彼女は新しいギルドに参加して順風満帆。 彼女をクビにした聖女ギルドは落ちぶれていく。 地味な聖女が大活躍! 痛快ファンタジーストーリー。 全部で5万字。 カクヨムにも投稿しておりますが、アルファポリス用にタイトルも含めて改稿いたしました。 HOTランキング女性向け1位。 日間ファンタジーランキング1位。 日間完結ランキング1位。 応援してくれた、みなさんのおかげです。 ありがとうございます。とても嬉しいです!

地味令嬢を見下した元婚約者へ──あなたの国、今日滅びますわよ

タマ マコト
ファンタジー
王都の片隅にある古びた礼拝堂で、静かに祈りと針仕事を続ける地味な令嬢イザベラ・レーン。 灰色の瞳、色褪せたドレス、目立たない声――誰もが彼女を“無害な聖女気取り”と笑った。 だが彼女の指先は、ただ布を縫っていたのではない。祈りの糸に、前世の記憶と古代詠唱を縫い込んでいた。 ある夜、王都の大広間で開かれた舞踏会。 婚約者アルトゥールは、人々の前で冷たく告げる――「君には何の価値もない」。 嘲笑の中で、イザベラはただ微笑んでいた。 その瞳の奥で、何かが静かに目覚めたことを、誰も気づかないまま。 翌朝、追放の命が下る。 砂埃舞う道を進みながら、彼女は古びた巻物の一節を指でなぞる。 ――“真実を映す者、偽りを滅ぼす” 彼女は祈る。けれど、その祈りはもう神へのものではなかった。 地味令嬢と呼ばれた女が、国そのものに裁きを下す最初の一歩を踏み出す。

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

処理中です...