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第2部 魔法学校編

59 自分のために

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 箱の中には魔法陣の書かれた布と魔道具が入っていた。
 詳しい説明書もついていた。

「召喚の条件を付け加えるには、ここに書き込むこと。召喚には精霊王の力が必要。召喚した異世界人の望まないことを無理にさせた場合、この召喚の魔法陣は破壊される……」

 小さい字でたくさん書き込みがあった。私がそれを読んでいる間に、オスカー様は部屋の中を探索し、動画の魔道具と金貨の入った大きな箱を回収した。これが、長年探し求めた勇者の遺産だった。

 私達が広間に戻った時には、戦闘は終わっていた。さすがの父様も、満身創痍でボロボロになっていた。
 オスカー様はさらに、追い打ちをかけた。父様に向って、「レティに求婚する許可をください」と言ったのだ。

 呆然とする父様。私はオスカー様の横に立って言った。

「オスカー様と結婚します」って。


 ふらふらの父様とともに、転移陣で辺境に戻ると、その夜はお祝いの宴会が開かれた。

 皆が口々に私達におめでとうと言い、私達は恥ずかしくなるぐらい、みんなにからかわれた。

「初めてオスカーが連れて来た時から、ずっとこうなるって思ってたのよ」

「ああ、こいつが気にする女の子は、レティシアちゃんだけだからな」

「いい嫁ができて辺境も安心だ」

 お祝いムードに水を差したくなかったけど、懸念事項はある。王太子だ。私はまだ王太子の婚約者候補で、彼は私を妾にするなんて気持ち悪いことを言った。

「王族は俺がどうにかする」

「辺境もついてるぞ」

「宰相殿が王族派の貴族を切り崩しているみたいね。もともと、王太子は人望がないから簡単でしょう」

「まあ、公爵家二つが組めば、他の貴族に太刀打ちできないだろうな」

 何やら、大人たちには計画があるようだ。
 王族のことは父様や辺境伯夫妻に任せて、私はもう一つの問題を解決するために、部屋に戻った。

 ルシルの誘いを断らなくてはいけない。




「ああ、僕はフラれたってことかな?」

 呼び出した精霊王は空中に浮かんで、銀色の瞳を私に向けた。

「この世界が闇に陥るとしても、自分の幸せを優先するってこと?」

 彼は意地悪なことを言ってくる。
 最初は、彼の願いを聞いて、精霊界で500年過ごすしかないって思った。それが、聖女としての義務で、リョウ君のための贖罪のようなものだって思い込んでいた。でも、本心では、そんなことはしたくなかった。だって、ずっと前から、オスカー様に惹かれていたから。
 でも、リョウ君が、あの時死ななかったと知って、私は自分のわがままを叶えたくなった。
 それに、リョウ君が聖女の役割の解決策をくれたから。


「じゃあ、異世界人を呼び寄せる魔道具を僕にくれる?」

 銀色の精霊王は両手を広げて、早く出せと言うように私の方に近づいた。
 私は一歩下がってそれを避けた。

「今すぐにはあげられない。だって、ルシルはまだ当分、死なないでしょう? 私がルシルより先に死んじゃった時に渡すから。それまでは、私がルシルの契約者でいちゃダメ?」

 勝手なことを言ってるのは分かってる。でも、異世界人を呼び寄せることを、そんなに簡単には決められなかった。時間稼ぎにしかならないけど。

「うーん、まるで二股をかける女が、とりあえずキープしておこうかなって言い方だよね」

 ひどい言われようだ。まるで自分が悪女になったような気がした。

「でも、ルシルは私のことを、そういう風に好きじゃないでしょう?」

 彼の私に対する態度は、私の白猫スノウに対する態度と同じだ。かわいいペットを愛でるように私を扱う。きっと、彼を選んでも、本当の意味で私が愛されることはない。オスカー様が私に向ける瞳の輝きを、彼が浮かべることはないのだ。

「まあ、そうだね。君は面白い子だけど、僕の好みとはちょっと違うから」

 そして、ルシルはうんざりするような彼の理想の女の子像を語った。

「容姿は別にどうでもいいんだけど、できるだけ心が弱い子がいいな。とにかく僕がいないと何にもできない子。自分に自信がなくて、みんなに嫌われてるって思いこんでいるような子がいいかな。そういう子は、僕が甘やかしたら、すぐに僕に依存するようになるよね。だから、内向的で、誰にも愛されたことがなくて、劣等感の塊みたいな、そんな異世界人を召喚したいな」

 うぇ。……彼の好みのタイプじゃないって言われて、ものすごく嬉しいよ。
 本当に召喚してもいいのかな? すごくかわいそうな子な気がする。

 私は魔法陣に書き加えた。

「今の世界に居場所がなくて、異世界で生きたいと思っている女の子」

「若くして死ぬ瞬間に、もっと生きたいと願った女の子」

「強く守られることを望んでいる女の子」

 ルシルの喜びようを見ていると、罪悪感に襲われたけれど、きっと、ルシルがその子を幸せにしてくれるよね。ね?

 私の決断は間違っているかもしれない。でも、世界を救うとか人類を救うとか、そのために自分の幸せを失うのは嫌だった。

 私は善人にはなれない。

 それに、リョウ君は、私に自由に生きてほしいって言ってくれたから。





 魔法学校の卒業式まで、私たちは王都には行かずに辺境で過ごした。毎日、オスカー様と一緒にいた。結界を出て魔物を狩ったり、遠出して、他のダンジョンに行ってみたりもした。修行を終えて最強になった私たち二人は、無敵だった。

 一方、父様と辺境伯は伯父様と連絡を取り合い、何やら水面下で策を練っているようだった。




※※※※※※※

精霊王は、聖女リシアにフラれたことを、こじらせてます。
絶対に自分から逃げない子が、好みのタイプです。
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