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Tale16:あなたと心を繋げます
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少し考えて、リリアの発言の意味がようやく理解できた。
要するに、運営の権限を使って私とシキミさんが戦うようにトーナメントを決めるということだ。
確かに、もし第一回戦で負けたとしたら、トッププレイヤーのシキミさんにとっては、かなりの屈辱になること間違いないだろう。
「でも、えっと、ズルをするってこと……?」
「ぷにゅっ!?」
私が聞くと、リリアは人差し指を口元に当てて“静かにしようね”のジェスチャーを返してきた。
その可愛さと運営からの圧力はかなり強大であったので、私はお喋りな口をつぐんだ。
うん、仕方ないよね。
『私は、曲がりなりにも神ですよ? 神のいたずらにしては、ふふっ、可愛らしいものだと思いませんか?』
リリアは、自分の頬に人差し指を押し当てながら言った。
まあ、そう言われればそうかもしれないけれど。
頬の柔らかそうな感じが気になって、その辺りはわりとどうでもよくなる。
『それに、もちろんリリア様とシキミ様が戦っているときには手助けなどしません』
「……うん、それで勝っても嬉しくない、かな」
「ぷにゅにゅ」
リベンジの舞台をお膳立てしてもらったところで。
けっきょくは、私たちが強くならなければいけない。
そして、それが一番難しいのだ。
『ふふっ、しかし、私は神であると同時にサポートNPCでもあります』
そう言い終わる頃には、リリアはどこからともなくナイフを取り出して手に持っていた。
シキミさんが持っていたような、ちょっとギザギザしているナイフ。
PKされたときの記憶がフラッシュバックして、心臓が大きく跳ねる。
『戦闘が苦手な方のサポートも承っています。喜んでお手伝いいたしましょう――あっ、ちなみに、これはズルではありませんよ』
皆様が等しく受けることのできるサービスなので、と言って微笑むのはリリアだ。
可愛くて大好きなリリア――であるはずなのだが、ギザギザのナイフが、あの瞬間の静かな笑みが、私の鼓動を落ち着かせてくれない。
スラリアを抱えたまま、私はその場にへたり込んでしまう。
「ぷにゅにゅ!」
スラリアが、私の不調をリリアに訴えてくれる。
大丈夫だよ、スラリア……大丈夫――のはずなのに、声は出ない。
『ふむ、なるほど……まずは、恐れを払拭しなければいけないようですね』
近くにいるはずなのに、なんだか遠くからリリアの声が聞こえるようだ。
スラリアのぷにぷにな感触だけが、唯一の実感で。
『先ほどリリア様が取得したスキル、代わりに使わせていただきます』
なに……? スキル、私が……?
普段よりも何倍もの時間をかけて、リリアの言葉を処理する。
しかし、その意味は理解できない。
「ぁっ、スラリア?」
ふいに、スラリアの存在が私の腕の中からぱっと消えた。
そして同時に、不思議な感覚が全身を駆け巡る。
「ぁっ、んっ……!」
思わず、声が出てしまう。
なんだろう、お湯が身体の中を巡るような、温かくもあってくすぐったくもある感覚。
いつの間にか、激しかった心臓の鼓動は治まっていた。
手元を、次に周囲を見渡すが、どこにもスラリアの姿はない。
「……リリア、スラリアは?」
前方に立つ、ナイフを持ったリリアに問いかける。
禍々しかったはずのナイフを見ても、私の心は落ち着いていた。
どこからか、勇気が湧いてきているのだろうか。
『同調――テイマーのジョブが、使用武器の習熟度5を達成したときに取得するスキルです。効果は、身体に魔物を宿して、その性質を発現させるというもの』
「じゃあ、スラリアは……」
私は、自分の身体を見下ろした。
装備のすき間から覗く肌が、少しだけ青く光り輝いている。
しかし、なんだか変な感じだな。
目で見ているはずなのに、別のところでもわかる感覚。
私が人間であるために、この感覚を言い表すことはできないだろう。
『スラリアちゃんは、ここにいますよ』
立っていたリリアが、私の前にしゃがんだ。
そして、おもむろに私の心臓の辺りにナイフを突きつける。
初級冒険者の白ふわシャツに、鋭い刃先が触れた。
『まだ、どのプレイヤーも使用武器の習熟度5の域には達していません。もちろん、シキミ様も。私たちも驚いているぐらいです。スライムという低ランク武器だったことと、リリア様のパーソナリティが理由でしょうか」
凶悪な輝きを放つナイフを、リリアは微笑みながら私の胸に差し込む。
微かな抵抗の後に、ナイフは皮膚を突き破り、その刀身をずぶずぶと私の中に埋めていった。
当たり前だが、避けようと思えば避けることはできた。
しかし、刺さっても大丈夫、という謎の確信があったのだ。
『ふふっ、痛くないというのは、素晴らしいですね』
ナイフの刀身がすっぽりと私の胸に収まり、その切っ先が背中の方から少しだけ出ているのもわかる。
目で見てはいないけど、わかる。
「これって、ズルじゃないのかしら?」
呆れたように、私はつぶやく。
攻撃が効かないというのは、問題ないものなの?
それを聞いたリリアは、可笑しそうに肩を揺らして笑うのだった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【名前】リリア
【レベル】9
【ジョブ】テイマー
【使用武器】スライム:習熟度5
【ステータス】
物理攻撃:20 物理防御:40
魔力:35 敏捷:10 幸運:25
【スキル】スライム強化、なつき度強化、勇敢
知恵の泉、魅了、同調
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要するに、運営の権限を使って私とシキミさんが戦うようにトーナメントを決めるということだ。
確かに、もし第一回戦で負けたとしたら、トッププレイヤーのシキミさんにとっては、かなりの屈辱になること間違いないだろう。
「でも、えっと、ズルをするってこと……?」
「ぷにゅっ!?」
私が聞くと、リリアは人差し指を口元に当てて“静かにしようね”のジェスチャーを返してきた。
その可愛さと運営からの圧力はかなり強大であったので、私はお喋りな口をつぐんだ。
うん、仕方ないよね。
『私は、曲がりなりにも神ですよ? 神のいたずらにしては、ふふっ、可愛らしいものだと思いませんか?』
リリアは、自分の頬に人差し指を押し当てながら言った。
まあ、そう言われればそうかもしれないけれど。
頬の柔らかそうな感じが気になって、その辺りはわりとどうでもよくなる。
『それに、もちろんリリア様とシキミ様が戦っているときには手助けなどしません』
「……うん、それで勝っても嬉しくない、かな」
「ぷにゅにゅ」
リベンジの舞台をお膳立てしてもらったところで。
けっきょくは、私たちが強くならなければいけない。
そして、それが一番難しいのだ。
『ふふっ、しかし、私は神であると同時にサポートNPCでもあります』
そう言い終わる頃には、リリアはどこからともなくナイフを取り出して手に持っていた。
シキミさんが持っていたような、ちょっとギザギザしているナイフ。
PKされたときの記憶がフラッシュバックして、心臓が大きく跳ねる。
『戦闘が苦手な方のサポートも承っています。喜んでお手伝いいたしましょう――あっ、ちなみに、これはズルではありませんよ』
皆様が等しく受けることのできるサービスなので、と言って微笑むのはリリアだ。
可愛くて大好きなリリア――であるはずなのだが、ギザギザのナイフが、あの瞬間の静かな笑みが、私の鼓動を落ち着かせてくれない。
スラリアを抱えたまま、私はその場にへたり込んでしまう。
「ぷにゅにゅ!」
スラリアが、私の不調をリリアに訴えてくれる。
大丈夫だよ、スラリア……大丈夫――のはずなのに、声は出ない。
『ふむ、なるほど……まずは、恐れを払拭しなければいけないようですね』
近くにいるはずなのに、なんだか遠くからリリアの声が聞こえるようだ。
スラリアのぷにぷにな感触だけが、唯一の実感で。
『先ほどリリア様が取得したスキル、代わりに使わせていただきます』
なに……? スキル、私が……?
普段よりも何倍もの時間をかけて、リリアの言葉を処理する。
しかし、その意味は理解できない。
「ぁっ、スラリア?」
ふいに、スラリアの存在が私の腕の中からぱっと消えた。
そして同時に、不思議な感覚が全身を駆け巡る。
「ぁっ、んっ……!」
思わず、声が出てしまう。
なんだろう、お湯が身体の中を巡るような、温かくもあってくすぐったくもある感覚。
いつの間にか、激しかった心臓の鼓動は治まっていた。
手元を、次に周囲を見渡すが、どこにもスラリアの姿はない。
「……リリア、スラリアは?」
前方に立つ、ナイフを持ったリリアに問いかける。
禍々しかったはずのナイフを見ても、私の心は落ち着いていた。
どこからか、勇気が湧いてきているのだろうか。
『同調――テイマーのジョブが、使用武器の習熟度5を達成したときに取得するスキルです。効果は、身体に魔物を宿して、その性質を発現させるというもの』
「じゃあ、スラリアは……」
私は、自分の身体を見下ろした。
装備のすき間から覗く肌が、少しだけ青く光り輝いている。
しかし、なんだか変な感じだな。
目で見ているはずなのに、別のところでもわかる感覚。
私が人間であるために、この感覚を言い表すことはできないだろう。
『スラリアちゃんは、ここにいますよ』
立っていたリリアが、私の前にしゃがんだ。
そして、おもむろに私の心臓の辺りにナイフを突きつける。
初級冒険者の白ふわシャツに、鋭い刃先が触れた。
『まだ、どのプレイヤーも使用武器の習熟度5の域には達していません。もちろん、シキミ様も。私たちも驚いているぐらいです。スライムという低ランク武器だったことと、リリア様のパーソナリティが理由でしょうか」
凶悪な輝きを放つナイフを、リリアは微笑みながら私の胸に差し込む。
微かな抵抗の後に、ナイフは皮膚を突き破り、その刀身をずぶずぶと私の中に埋めていった。
当たり前だが、避けようと思えば避けることはできた。
しかし、刺さっても大丈夫、という謎の確信があったのだ。
『ふふっ、痛くないというのは、素晴らしいですね』
ナイフの刀身がすっぽりと私の胸に収まり、その切っ先が背中の方から少しだけ出ているのもわかる。
目で見てはいないけど、わかる。
「これって、ズルじゃないのかしら?」
呆れたように、私はつぶやく。
攻撃が効かないというのは、問題ないものなの?
それを聞いたリリアは、可笑しそうに肩を揺らして笑うのだった。
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【名前】リリア
【レベル】9
【ジョブ】テイマー
【使用武器】スライム:習熟度5
【ステータス】
物理攻撃:20 物理防御:40
魔力:35 敏捷:10 幸運:25
【スキル】スライム強化、なつき度強化、勇敢
知恵の泉、魅了、同調
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