どうせ ヒマだろ?

アンドロイド

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どうせヒマだろ? 終

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 「この前の話、面白かったからチラシ作ってバラ蒔いたら王族と神殿がマジギレしちゃってさー♪」

 そりゃするだろ、二百年も隠し通してきた秘密を簡単にバラ蒔かれちゃ…。

 「犯人捜し始めちゃったから、お城のてっぺんに『魔人参上!』って書いてきた♡」

 まさかの名指し!?
 何してくれてるんだ、こいつは!?
 なぜ、ちょいちょい小物感満載の悪戯あくじを私に擦り付ける!?
 
 「まっ、魔人にバレなきゃいいよね♪」

 本人に自白してるんだよ、お前は!

 「でさ、王様も教会も騒ぎすぎだと思ったから、ラル君潜入してきましたー♪」

 こいつ、なんで討伐されないんだろう?
 教会って一番ゴーストが入っちゃいけない場所だろ?

 「なんとなんと、魔人って異世界から誘拐されてきた少年だったんだって!」

 あー、そうだよ。
 平和ボケした戦うことなんて知らない高校生だった。なのに、気がついたら異世界ここにいて、救世主だと祭り上げられて、ずっと戦わされてきたんだ…。ずっと…。

 「酷い話だよねー。だから、異世界召喚の魔法陣を壊してきたよー。誘拐ダメ、絶対!だもんね♡」
 
 なんでゴーストが魔法陣を破壊出来るんだよ?

 「そしたらさ、性懲りもなく異世界召喚しようとしてて…。壊したら、国王と教会のエラソーな人がどっかに飛んで行っちゃった♪」

 そっかー、飛んで行っちゃったかー。 で、それも…。

 「『魔人の祟り』ってことになったけど、しょうがないよねー」

 だろうねっ、私は何もしてないけど!

 「まっ、これからは魔人の正しい話を伝えていくみたいだし。魔人も、もう気が済んだでしょ」

 …やっぱり、こいつ。私のことを知っていて…?

 「ところで、クーちゃんはなんで封印されてんの?もしかして、ふん反り返ってるおっさんの顔に鼻毛とか描いた?」

 俺もそれで一回封印されたことあるんだよねー。自力で解いて逃げたけど、と笑うラルにぐったりする。

 こいつは、正真正銘ただの馬鹿だと…。

 "なんで、私に構うんだ?"

 初めて声をかけた。声といっても念話だが…。
 すると、ラルは凄く驚いた顔をした。

 「クーちゃん、しゃべれたの…?」

 まあ、いままでしゃべらなかったし、その反応は仕方がなーーー…。

 「いままでシカトされてたってこと!?」

 そこ…っ!?
 
 「まっ、いいけどね。よくあることだし♪」

 あっけらかんと言ったラルは、ニッと悪ガキめいた笑みを浮かべてこちらを見た。

 「俺がクーちゃんに構うのは、クーちゃんといると楽しいから。それに、クーちゃんだって?」

 ………ヒマ?

 完全に決めつけられた言葉に、頭が真っ白になる。
 そしてなんだか馬鹿馬鹿しくなってきた。
 一番殺したかった勇者は、浮気の末に滅多刺しで海に捨てられて。聖女は嫉妬に狂って処刑台送り。王族も教会もバカとアホで、第二のを作ろうとして何処かに飛んでいったらしいし。この世界を破壊することだけを願って恨みを募らせていた私は、こいつにかかればヒマ人扱い。
 
 はは…、バカみてぇ…。

 あれほど渦巻いていた黒いおもいが消えて、心がスッと軽くなった。

 「そういや、この世界の女神。"不当に異世界から子供を誘拐した罪"と"その子供の手柄で自分のお気に入りを神格化させて恋人にしようとした罪"で、神界で裁かれてるらしいよー?」

 ………………は?

 ヘラヘラ笑いながら言うラル。

 なんでそんなことを知っている?
 まさか、お前は神………。

 「聖水ぶっかけられて死にかけた時、神界で代理神様おっちゃんがみさまがぼやいててさー。可哀想だからドワーフの秘蔵酒と魚あげてきた♪」

 うん、お前はただのゴーストだ。
 というか、あの後また死にかけたのか?
 お前、いい加減にしないと本当に浄化されるぞ?

 「まあ、そういうわけだからさー」

     "もう、自由になれよ"

 伸ばされたラルの手が氷に触れた瞬間、身体を拘束していた氷が跡形もなく弾け飛ぶ。

 「な、ぜ…?」

 「さあーねー♪」

 解けるはずがない封印が解けたことに驚いていると、ラルはニヒヒと笑って手を振った。
途端に身体が上に引っ張られ、そのまま床を通り抜けていく。そこで自分がもう死んでいることに気づいた。
 あれから二百年、魔人にまでなって人の身であるわけがないのに…。そんなことにも気づかなかった。
 二百年振りに見た世界は活気に溢れ、それでいて"あの日の真実"でかなり揺れていた。ラルの言っていた通り、真実があちこちで語られている。

 あれほど壊したかった世界。
 私を裏切り、殺した世界。
 でも、今はどうでもいい。
 完全に毒気はラルに抜かれてしまった。

 『付き合えよ♪』

 ふとラルの笑った顔が、蘇った記憶と重なる。

 ああ…、お前だったのかフィード…。
 この世界でたった一人のの友。
 あの日、最後の最後までオレを庇って、勇者に殺されたこの国の第二王子。
 もっと強くなれと訓練漬けにされていた私を、いつも連れ出して逃がしてくれた。
 ラルととりとめのない話しをする時だけは勇者や救世主として作られたではなく、ただのでいられたんだ。
 そんなラルが目の前で心臓を貫かれ、輝いていた瞳に光がなくなった時、オレはこの世界に絶望して魔人になった。
 唯一の光を奪ったこんな世界など消えてしまえばいいと…。
 
 なんでこんな大事なことを忘れていたんだろう…。
 "クーちゃん"だって黒髪黒目からじゃない。この世界でラルフィードにしか教えていない本名の黒崎千歳くろさきちとせの"クーちゃん"だ。
 もっと早く気づいていたら、黙りなんてしなかった。あいつらのことなんかじゃなく、お前の色んな話しを聞きたかったよ、ラル…。

 てか、お前。やっぱりオレだとわかってたんじゃねぇか、このバカ王子…。
 でも、お前が元気そうで本当によかった…。


★★★★★★★★★★


 魂に巻き付いていた最後の黒い鎖が切れる。
 魔人は消え、異世界で散った少年の魂が輪廻の輪の中に帰っていくのを見届けてゴーストは満足そうに笑った。



 「もう、妙なのに捕まんなよー黒崎千歳クーちゃん♪」


 
 
 
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