どうせ ヒマだろ?

アンドロイド

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番外編

海に行ったお土産話♪

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 眠い…。

 馬鹿な異世界召喚に失敗して愚王ちちうえと神父が何処かに飛んでったり、二百年前の真実があちこちでバラまかれて国全体が荒れたり、その噂の魔人が消えたりしてクソ忙しい時にそいつは寝室にふらりと現れた。

 「クーちゃんへのお土産話に海まで冒険してきたのに、勇者と聖女の話が強すぎて話そびれちゃってさー♪」

 だから聞いて♪と笑いながら我が物顔でベッドに転がっているピンクの髪に赤眼の少年ゴーストに殺意が芽生える。
 急に王になることになってそれでなくとも睡眠時間をガンガン削られているというのに、なんでこんな変なゴーストの相手までしなくちゃならないのか。
 
 だいたい、クーちゃんって誰だよ!

 「やっぱり、お土産話にするのに飛んで行くのは味気ないと思ってワルー商会の馬車に乗せてもらったんだけどねー。その荷物の一箱になんと魔眼石まがんせきが大量に紛れ混んでたんだー」
 
 魔眼石って言ったら、身につけた者を自在に操るという取り引きも所持も禁止している魅了の力を持つ鉱石だ。もし、それが本当なら洒落にならない。
 
 朝一番で宰相と騎士団長に相談しねぇと…。

 「まあ、それはどうでもよくて」

 よくねぇよ。
 むしろ、お前のくだらねぇ話より大事だっての!
 てか、いい加減にその添い寝スタイルをやめろ。いくらベッドが広くて余裕があっても鬱陶しい。

 「その商会が雇った冒険者五人と海に向かったんだけどね。ちなみに剣士、斧使い、魔術師が男の人で、弓使いと聖術師が女の人ね」

 こいつ、よく同じ馬車に乗ってて討伐されなかったな…。聖術師なんて一発アウトだろうに。

 「でねー、兎の岩の近くで盗賊に襲われちゃって大変だったんだよー♪」

 兎の岩…。
 そういえば、その辺りで盗賊村が見つかって冒険者と騎士団が協力して捕縛したと報告が上がってたな…。

 「結局、商人が"突破しろ"って言ってそのまま行っちゃったから、俺が残って通りすがりの冒険者に盗賊がいること教えまくってたんだー」

 お前かっ!!
 物悲しそうな顔で手招きするゴーストってのは、おかげでアンデッド嫌いがこぞって移動願い出して大変だったんだぞ!?
 つうか、盗賊に殺された奴が化けて出たんじゃねぇのかよ。あまりに出るから、鎮魂の儀式までやったんだぞ!?
 
 なのに、本人が成仏もせずにここにいるという事実に布団の中で頭を抱える。

 「被害が出ないように頑張ったんだから♪」

 それは助かったけど!

 「で、海に飛んで行ったら商人が怪しい黒いフードの男達と会っててさ。面白そうだから魔眼石と小石をすり替えたら気づかないで渡してたよー♪」

 よくやった、ゴースト!
 
 「でも、魔眼石ってあんまり美味しくないねー。レベルは上がったけど、進んで食べたくない味」

 いや、食ったのかよ!
 それ押収すべき証拠品なんだが!?

 「でさでさ、めちゃくちゃ海がキラキラしてて青くて広くてサイコーだった♡」

 あーあー、そりゃよかったなー。
 もう寝かせてくれ。

 「魚取るのに雷落としたら、クラーケンが浮いてきたのは驚いたけど♪」

 あれはお前の仕業か!!
 晴天からいきなり落ちた雷に、"神の慈悲"だ、"怒り"だ、"魔人が復活"だのと大騒ぎになったんだぞ!?

 あの後すぐ魔人が消えて、不眠不休で原因を探る羽目になったし。結局、原因不明でカタを付けるしかなかったのに…。

 「あっ、クラーケンの足とか食べる?」

 白い鞄からぬるりと白い足を取り出す。

 止めろ、出すな。そんなモンは食わん。

 「クーちゃんだったら、"焼きイカ"とかいうのにして食べるんだろうけど…。焼いてみる?」

 知らんし、いらん。
 つうか、クラーケンって食えんのか?
 もし食えるなら、飢饉の際の足しになるか?一応、調べてみるか…。

 このゴーストのせいでやることがおっそろしく増えた。なんなんだ、こいつは…。オレを過労死させる気か?

「あー、そうだ…」

 ポンと手を打ち、ゴーストはふよふよとベッドから起き上がってオレの布団を剥ぎ取った。

「俺の弟の子孫、世界を半分くれない?」

 小首を傾げてとんでもない事を言い出したゴーストに、今まで持っていた聖水を浴びせかける。

 「黙って聞いてりゃ、いい加減にしやがれ、バカ先祖!」

 「ヴヴゥ~…、弟の子孫がつれない~…。仕方ない、今日は帰るよ。またねー♪」

 人の布団で聖水を防いだゴーストは、わざとらしい泣き真似を残して来た時と同様にふわりと消えた。

 「二度と来んな!!」

 怒鳴り声を聞き付けて近衛騎士がドアを叩くのが聞こえ、深いため息をつく。

 「大事ない」

 二百年前に魔人と手を組んだ罪で王族から除名され、勇者に命を絶たれた幻の第二王子。彼の後を追った家臣は多く、その人望から彼こそ王に相応しいと言われていた。
 
 それが、あのピンク髪のゴースト少年・ラルフィード。

 濡れて寝られなくなったベッドから起き上がり、ベルを鳴らして侍従を呼ぶ。

 さてと、好き勝手放題している我が儘な先祖に一泡吹かせる為にも現国王として頑張るとするか…。

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