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幽霊 対 サイコパス 3

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 講義は終わり、待ち合わせの食堂に着くとメガネをかけた明るい茶髪の青年が手を振っていた。
 それに応え、食券を買う機械に並ぶ。
 彼は幼馴染みで特に熱いエピソードもない。知り合ったきっかけだって二人で言い合えば噛み合わない。彼こと大島斎おおしまいつきは宗二から声をかけてきたと言うし、宗二は宗二で斎がカブトムシを前に虫取り網を貸してと頼んできたのが最初だと思っている。だからといって、それが原因で喧嘩になることもない。そういう関係だ。
 エビフライ定食の食券を買ってテーブルに向かうと斎は自分の番号札を指先で弄んでいた。

 「そっちは、何にした?」

 「エビフライ定食」

 「いいな、一匹恵んでくんね?」

 「そっちはかけ蕎麦か?」

 「そ、ヘルシー思考なの。ーーそれより家の方はどうなんだ?」

 指の間から見えた文字から察して問うと斎はごまかすように話をすり替えた。

 「出るのか、やっぱり」

 両手を前でプランとさせて言う彼に、口止め もされていないので正直にうなずく。

 「出るには出るよ」

 「マジか、大丈夫なのか、それ。呪われたり、取り殺されでもしたらやばくね?そっち方面に強いやついるけど、どうする、呼ぶか?」

 「いいよ、実害ないし」 

 取り殺すが口癖のくせにリョウは、実害になることは一切しない。血の手形や水道等の視覚的感覚や恨み節やすすり泣き等の聴覚的感覚に蓋をしてしまえば害と呼ぶものはなかった。
 言ってしまえば、怨霊、悪霊というより悪ぶってるだけの子供のようなものだ。

 「俺は、どちらかといえばお前の方が心配だよ…」

 「なんで?」

 きょとんとする斎に、カバンについたキーホルダーを見る。

 「そのハセぴょんとやらに取り殺されないかな…と。このところ、ずっとかけ蕎麦一択だし、食費まで貢ぎ込んだんだろう?」

 「俺は、ハセぴょんに取り殺されるなら本望だ。お前だってライブに行ったら即落ち間違いなしだからな?」

 「興味ない」

 始まりかけるアイドル談義を一言で持って切り捨て、ちょうど呼ばれたので席を立った。

 「そう言ってるやつほど落ちるとやばいと思うけどな~」

 金色の髪を踊らせ、ポーズを決める女の子のデフォルメキーホルダーを見せつけながら得意げに呟く斎に肩をすくめる。

 「…どうだろうな」

 自分が恋をするなど想像もできない。
 ましてや、彼のように誰かに心から傾倒するなどもっと考えられない。

 「バカだなぁ、 こういうのはいつの間にか落ちるもんなんだよ。ーーおばちゃん、かけ蕎麦、まだぁ?」

 「とっくにできてるよ、早く取りにおいで!」 

 笑って追い越すように受け取り口に向かった斎は、食堂のおばちゃんに催促して逆にどやされている。

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