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こんな日が続けばいい

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 「明日は魚がいいな」

 どこか甘えるような声音に、自分が一番驚いた。こんなこと実母にだって言ったことはないのに、と。

 「 調子に乗らないでくれる? 今日で決着つけるんだから!」

 「それより、スーパーでちくわの磯辺揚げ買ってきたんだけど…、いる?」 

 マイバッグからパックを取り出して問うと、リョウはテーブルの正面席に現れた。

 「お弁当 、一人で食べたの?」

 「いや、斎とかな」

 「…っ、じゃあ見られたの!?」

 「まあ、一緒に食べたからね」

 あの状態では、見られないように食べる方が難しい。

 「あー…、見られるならもっと彩りとか考えて、おどろおどろしくしたのに…っ」

 「十分美味しかったし、インパクトあったよ? 斎も驚いてたし、味つけも俺の好きな味付けだった」

 自然と浮かんだ笑みに、リョウは赤くなる。

 「ーーっ!? ほ、褒めたって取り殺すのやめたりしないんだからね! でも、まあ、明日は期待しといたら? 僕、魚料理も割と得意だし。ーーっていうか、君、栄養バランス最低すぎるから、少しは気をつけなよ!」

 ピシッと指を突きつけて消えた彼の前には、相変わらず萎びれたちくわが二本。もちろん、 それも平らげてからキッチンに向かい、弁当箱を洗う。
 ーーそういえば、この頃笑うことが多くなったな…とふと思う。
 鉄仮面とも言われた自分の頬が、今もわずかに緩んでいる。

 「リョウのおかげかな?」

 嫌じゃない感情に、胸が温かくなった。
 弁当箱の水を切り、ついたり消えたりが始まったテレビを見る。

 「もうそろそろ始まるんじゃない?」

 彼が最近好んで見ているドラマの時間だと告げれば、コロコロ変わっていた番組がピタリと止まった。

 「ホットココア飲む?」

 「飲む、あとケーキも」

 「はいはい」

 甘党のリョウにココアと約束のケーキを用意し、自分用にはコーヒーを淹れる。

 「夜、コーヒー飲むと眠れなくなるよ?」

 「俺は眠れるから大丈夫だよ」

 それぞれの前に飲み物とケーキを置き、ソファーに並んでテレビを見始める。
 リョウが見ているのは学園ドラマ。
 恋愛あり、友情あり、バトルありの青春コメディーもの…と言っていいのかはわからないが。まあ、よくある感じの話だ。
 コーヒーを一口すすり、ちらりと隣を盗み見る。
 ドラマの展開に合わせて百面相するリョウは、ドラマよりも面白い。
 こうして2人で過ごせる日々がずっと続けばいいのに…。そう思ってしまうほどリョウとの暮らしは宗二の中で大切なものになっていた。

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