密教僧・空海 魔都平安を疾る

カズ

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その三 ファースト・コンタクト

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空海は知草に案内されながら橘屋敷の庭を歩いている。北から南、西から東、屋敷の前庭から裏庭へと歩き回る。そしてまた、北から南、西から東へと動く。
「和尚様、何をされているのです?先ほどからぐるぐると。特段、何もございませんよ」
知草の声には、多少の苛立ちとその倍以上の困惑が含まれていた。
「やはりここだな」
そう言うと空海は、左手を握りしめ、人差し指を立て、その人差し指を右手で握った。大日如来の印、智拳印である。静かに目を閉じ、呼吸を整える。
パンッ
目をカッと開けた空海は、大きな音を立てて両手を合す。
「何でございます、和尚様!いったい何を・・・ヒッ」
空海が手のひらを広げた。
そこには10cmほどの大きさの「ダンゴムシのようなもの」がいたのである。
立ち上がり、何十本もの触手を蠢かせている。
だがダンゴムシではない。ダンゴムシの背中には「人の目」などはない。
この「ダンゴムシのようなもの」の背中には大きなもの、小さなものを合わせ二十をこえる「人の目」がついているのだ。時折、瞬きしながら。
「和尚様!これは一体、いったい何なのでございますっ!」
知草の声はもはや悲鳴だ。
「吩(フン)!」
空海は気を入れた声を上げながら、左右の手のひらを合わせた。途端、「ダンゴムシのようなもの」は小さく煙を上げ消滅した。
「ここは艮(うしとら=北東)。邪気が流れ込む方角。先ほどのものは、私がここの邪気を集めたものにございます。ですが、ここまで邪気が形に現れるのは珍しい・・・。知草殿、夫人様の見る「夢」と「呪詛」の関わりは、未だにわかりかねますが、この屋敷には間違いなく呪詛がかけられております。それも相当なものが」
知草の顔は蒼白になり、右手に口を当て悲鳴を飲み込んだ。
空海の顔が曇った。
それは空海がめったに見せない表情であった。
「そこで何をしている?」
空海は背後からの声に振り向いた。邪気に気を取られていたとはいえ、背後に気配感じさせず、こうも近寄られたことなどなかった。
大きな男がいる。この時、初めて空海は坂上田村麻呂と出会ったのであった。
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