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その三 ファースト・コンタクト
八
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「私は坂上田村麻呂と申します。間違っていたならば、申し訳ありませぬが、あなたは空海和尚様にございますか?」
良く通る声である。この声で戦場において何万もの兵を動かしてきたのであろう。
「はい、その通りにございます。私が空海にございます」
空海は穏やかな視線を田村麻呂に向けた。
「知草殿、和尚様とここで何をしておいでか?あなたがいなくては夫人様が大変お困りでありましょうに」
言葉だけなら田村麻呂は、知草を咎めているようにも聞こえるが、田村麻呂からは優しさしか伝わってこない。
「和尚様をご案内していたのです。田村麻呂様、そんな意地悪な言い方をしなくてもよいのではありませぬか?和尚様、田村麻呂様は、三千媛様が帝にお願いし、この屋敷の警固をしていただいておるのです」
知草は、少し頬を膨らませ、怒るそぶりを見せながら、空海にそう説明した。
「坂上田村麻呂様といえば、先帝からのご信任厚き、朝廷の忠臣であり、戦神(いくさがみ)とも称されるお方。それほどの方をお遣わしになるとは、帝は夫人様の事を余程に大切に思われておられるのですな」
空海は田村麻呂の顔を見つめ、田村麻呂はその視線を正面から受け取る。
「田村麻呂で結構にございます。三千媛様が夫人様のために、名高き空海和尚様をお呼びしたと耳にしておりました。して和尚様はこのような場所で何をされておられたのです?」
「どうぞ空海とお呼びください。屋敷内の『呪』を探っておりました。田村麻呂様がここにお出でになったとのと同じ理由かと存じます」
空海は笑みを浮かべながら田村麻呂を見つめる。
「私は、妙に嫌な感じがここから感じられたので参っただけ。『呪を探る』とは、どのような事にございますか?」
田村麻呂からは、空海という人間をどこまで信用したらよいのか、まだ判別できない。そういった戸惑いが感じられる。
「田村麻呂様、実は・・・」
知草が田村麻呂に今までの経緯を説明しだした。
嘉智子夫人に毒殺と呪詛が企てられている事。
空海が屋敷内の邪気を探っていた事。
ここでその邪気がおぞましい形となり現れた事などを整然と説明した。
「何と!その様なことが・・・」
田村麻呂の目が険しくなる。
「知草殿、お願いがございます」
「はいっ?何でございます?」
空海の唐突な話の転換に、知草は戸惑い、警戒しながら聞き返した。
「今夜、私を夫人様の寝所に入れていただきたいのです。夫人様が今晩から健やかにお休みできるようにしてみましょう」
「えっ!和尚様を御寝所に!それはいくら何でも無理なお話にございます。男の方を、夜、御寝所にお入れできるはずなど出来る道理はございません」
「無理を承知でお願いしております。呪詛がかけられているのは間違いない事。このままでは手遅れになるやもしれませぬ。とにかく、夫人様と三千媛様にお伝えください」
空海は有無を言わさぬ口調で、知草に深く頭を下げた。
「・・・分かりました。和尚様が申された事はお伝えはいたします。お伝えは致しますがですが、あまりご期待はなさらないで下さいね」
そう言うと知草は足早に屋敷内へと去っていった。
田村麻呂は去っていく知草を眼で追いながら、鼻を小さくひくつかせている。
「知草殿は本当に、いい匂いがいたしますな」
「えっ、何を言われます!私は何も分かりませぬ!何か匂うのですか?私には何も・・・」
田村麻呂の顔は真っ赤だ。
「田村麻呂様、ではまた後程」
空海はそう言うと口元に笑みを浮かべ、田村麻呂の前から去っていったのであった。
良く通る声である。この声で戦場において何万もの兵を動かしてきたのであろう。
「はい、その通りにございます。私が空海にございます」
空海は穏やかな視線を田村麻呂に向けた。
「知草殿、和尚様とここで何をしておいでか?あなたがいなくては夫人様が大変お困りでありましょうに」
言葉だけなら田村麻呂は、知草を咎めているようにも聞こえるが、田村麻呂からは優しさしか伝わってこない。
「和尚様をご案内していたのです。田村麻呂様、そんな意地悪な言い方をしなくてもよいのではありませぬか?和尚様、田村麻呂様は、三千媛様が帝にお願いし、この屋敷の警固をしていただいておるのです」
知草は、少し頬を膨らませ、怒るそぶりを見せながら、空海にそう説明した。
「坂上田村麻呂様といえば、先帝からのご信任厚き、朝廷の忠臣であり、戦神(いくさがみ)とも称されるお方。それほどの方をお遣わしになるとは、帝は夫人様の事を余程に大切に思われておられるのですな」
空海は田村麻呂の顔を見つめ、田村麻呂はその視線を正面から受け取る。
「田村麻呂で結構にございます。三千媛様が夫人様のために、名高き空海和尚様をお呼びしたと耳にしておりました。して和尚様はこのような場所で何をされておられたのです?」
「どうぞ空海とお呼びください。屋敷内の『呪』を探っておりました。田村麻呂様がここにお出でになったとのと同じ理由かと存じます」
空海は笑みを浮かべながら田村麻呂を見つめる。
「私は、妙に嫌な感じがここから感じられたので参っただけ。『呪を探る』とは、どのような事にございますか?」
田村麻呂からは、空海という人間をどこまで信用したらよいのか、まだ判別できない。そういった戸惑いが感じられる。
「田村麻呂様、実は・・・」
知草が田村麻呂に今までの経緯を説明しだした。
嘉智子夫人に毒殺と呪詛が企てられている事。
空海が屋敷内の邪気を探っていた事。
ここでその邪気がおぞましい形となり現れた事などを整然と説明した。
「何と!その様なことが・・・」
田村麻呂の目が険しくなる。
「知草殿、お願いがございます」
「はいっ?何でございます?」
空海の唐突な話の転換に、知草は戸惑い、警戒しながら聞き返した。
「今夜、私を夫人様の寝所に入れていただきたいのです。夫人様が今晩から健やかにお休みできるようにしてみましょう」
「えっ!和尚様を御寝所に!それはいくら何でも無理なお話にございます。男の方を、夜、御寝所にお入れできるはずなど出来る道理はございません」
「無理を承知でお願いしております。呪詛がかけられているのは間違いない事。このままでは手遅れになるやもしれませぬ。とにかく、夫人様と三千媛様にお伝えください」
空海は有無を言わさぬ口調で、知草に深く頭を下げた。
「・・・分かりました。和尚様が申された事はお伝えはいたします。お伝えは致しますがですが、あまりご期待はなさらないで下さいね」
そう言うと知草は足早に屋敷内へと去っていった。
田村麻呂は去っていく知草を眼で追いながら、鼻を小さくひくつかせている。
「知草殿は本当に、いい匂いがいたしますな」
「えっ、何を言われます!私は何も分かりませぬ!何か匂うのですか?私には何も・・・」
田村麻呂の顔は真っ赤だ。
「田村麻呂様、ではまた後程」
空海はそう言うと口元に笑みを浮かべ、田村麻呂の前から去っていったのであった。
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