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その三 ファースト・コンタクト
十五
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「で、どうでした?何かわかりましたか?」
空海である。
「ちょっと撫でてやったら、あっさりと吐きました。名前は『兜丸』。生業は『夢見使い』とほざいております。ケチなふざけた奴です。今回の事は見知らぬ婆さんから頼まれたと言っております」
これは田村麻呂。
「へーっ、婆さん、その婆さんの事は何と?」
「まあね、奴はこんな事を言ってましたよ・・・」
そう言って、田村麻呂は兜丸が尋問で答えて話を空海に語り出した。
・・・へぇ、俺の家に突然、婆さんが現れたんでさあ。そう、二十日前くらいじゃあないですかね。
田村麻呂に「撫でられた」のだろう。膨れ上がり、所々に青あざの残る顔で兜丸は老婆との出会いを話し始めた。
「あんた、俺の事をどこで知ったんだい?」
「裏の世のことは、知っている人間は知っているものさ。あんたに頼みたい。金はある」
そう言って婆さんは懐から革袋を一つ置きやした。ずっしりと重そうな革袋でしたよ。
そりゃあ、こちとら金は喉から手が出るほど欲しい。だけど、あんまりやばい金は、受け取るわけもいかないでしょう。
「とにかく話を聞かせてくれ。やるやらないは、話を聞いてからだ」
「なに難しい話じゃあない。ある女に悪い夢を見せてやるだけ。それだけさ」
それだけで、こんな大金をもらえるはずはない。「裏がある」、そう思いやした。
「婆さん、それだけじゃあないだろう。それだけでこんな大金を払うはずがない。裏のある話はご免だぜ」
「裏なんかないさ。そうそう、夢を見せる事と、必ず一度は朝までに目を覚まさせること。これだけは必ずやってもらう。それだけだよ。あとはこちらでやる」
「どんな夢を見させるかは任せる、夢の中身を覚えてなくてもいい。ただ一度は目を覚まさせろ」っていう訳です。
そう簡単な仕事ではないが、やれない仕事でもない。だから受けました。
その後、婆さんとはどうしたかって?
それから会ったのは二回だけです。
いくら金のためとはいえ、やるんじゃなかったと思ってやすよ。
どうしてって?
だって俺が夢を見させた相手は帝の奥方でしょう!
とんでもない相手だ。
しかもあの婆さんは、やばい。どこがどうという訳じゃないですが、相当危ない奴だ。
それは分かりますよ。この仕事が終わったら、金輪際、関わらないようにしようと思ってやした。
「奴の話はそんなところです。婆さんに会った場所に人を遣ったが、ものけの殻だった。手掛かりになるような物は何もなかったそうだ」
田村麻呂の表情は苦り切っている。
「恐らく、その兜丸って奴は仕事が終わったら、その婆さんに殺されていただろうな。『相当に危ない奴』だそうだ。あんたには心当たりはないのかい」
空海も田村麻呂もかなり砕けた言葉でのやりとりとなってきた。
「裏の人間たちに探らせてはいる。その内に分かるだろう。だが・・・」
「『だが』、それが分かったころには、婆さんは逃げ去り、その行方は誰にも分からない。そういうことか?」
「ああ、そういう事だ。それとな、空海殿の言う通り、兜丸は床下から竹筒で夢を見させる術士だが、『それだけ』だそうだ。化け物のことを話したら、大慌てで『俺じゃあない』って叫んでいた。あいつと化け物は関係ないとみていいだろう」
「あの化け物は、『夢見使い』のものではない。夫人様に呪詛をかけている本当の術士が作り出したものだ。それは間違いなく、その『婆さん』だろう」
空海が微笑む。
「で、このことは誰に話す?」
田村麻呂が空海に尋ねた。
「三千媛様と嘉智子夫人様だけだろうな」
空海が答えた。
「俺もそう思う。そのお二人だけだな」
空海がうなずいた。
「では、空海殿。また後で」
「田村麻呂殿、よろしくお願いする」
空海と田村麻呂は短く言葉を交わし、そこで別れたのである。
空海である。
「ちょっと撫でてやったら、あっさりと吐きました。名前は『兜丸』。生業は『夢見使い』とほざいております。ケチなふざけた奴です。今回の事は見知らぬ婆さんから頼まれたと言っております」
これは田村麻呂。
「へーっ、婆さん、その婆さんの事は何と?」
「まあね、奴はこんな事を言ってましたよ・・・」
そう言って、田村麻呂は兜丸が尋問で答えて話を空海に語り出した。
・・・へぇ、俺の家に突然、婆さんが現れたんでさあ。そう、二十日前くらいじゃあないですかね。
田村麻呂に「撫でられた」のだろう。膨れ上がり、所々に青あざの残る顔で兜丸は老婆との出会いを話し始めた。
「あんた、俺の事をどこで知ったんだい?」
「裏の世のことは、知っている人間は知っているものさ。あんたに頼みたい。金はある」
そう言って婆さんは懐から革袋を一つ置きやした。ずっしりと重そうな革袋でしたよ。
そりゃあ、こちとら金は喉から手が出るほど欲しい。だけど、あんまりやばい金は、受け取るわけもいかないでしょう。
「とにかく話を聞かせてくれ。やるやらないは、話を聞いてからだ」
「なに難しい話じゃあない。ある女に悪い夢を見せてやるだけ。それだけさ」
それだけで、こんな大金をもらえるはずはない。「裏がある」、そう思いやした。
「婆さん、それだけじゃあないだろう。それだけでこんな大金を払うはずがない。裏のある話はご免だぜ」
「裏なんかないさ。そうそう、夢を見せる事と、必ず一度は朝までに目を覚まさせること。これだけは必ずやってもらう。それだけだよ。あとはこちらでやる」
「どんな夢を見させるかは任せる、夢の中身を覚えてなくてもいい。ただ一度は目を覚まさせろ」っていう訳です。
そう簡単な仕事ではないが、やれない仕事でもない。だから受けました。
その後、婆さんとはどうしたかって?
それから会ったのは二回だけです。
いくら金のためとはいえ、やるんじゃなかったと思ってやすよ。
どうしてって?
だって俺が夢を見させた相手は帝の奥方でしょう!
とんでもない相手だ。
しかもあの婆さんは、やばい。どこがどうという訳じゃないですが、相当危ない奴だ。
それは分かりますよ。この仕事が終わったら、金輪際、関わらないようにしようと思ってやした。
「奴の話はそんなところです。婆さんに会った場所に人を遣ったが、ものけの殻だった。手掛かりになるような物は何もなかったそうだ」
田村麻呂の表情は苦り切っている。
「恐らく、その兜丸って奴は仕事が終わったら、その婆さんに殺されていただろうな。『相当に危ない奴』だそうだ。あんたには心当たりはないのかい」
空海も田村麻呂もかなり砕けた言葉でのやりとりとなってきた。
「裏の人間たちに探らせてはいる。その内に分かるだろう。だが・・・」
「『だが』、それが分かったころには、婆さんは逃げ去り、その行方は誰にも分からない。そういうことか?」
「ああ、そういう事だ。それとな、空海殿の言う通り、兜丸は床下から竹筒で夢を見させる術士だが、『それだけ』だそうだ。化け物のことを話したら、大慌てで『俺じゃあない』って叫んでいた。あいつと化け物は関係ないとみていいだろう」
「あの化け物は、『夢見使い』のものではない。夫人様に呪詛をかけている本当の術士が作り出したものだ。それは間違いなく、その『婆さん』だろう」
空海が微笑む。
「で、このことは誰に話す?」
田村麻呂が空海に尋ねた。
「三千媛様と嘉智子夫人様だけだろうな」
空海が答えた。
「俺もそう思う。そのお二人だけだな」
空海がうなずいた。
「では、空海殿。また後で」
「田村麻呂殿、よろしくお願いする」
空海と田村麻呂は短く言葉を交わし、そこで別れたのである。
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