密教僧・空海 魔都平安を疾る

カズ

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その六 最澄、登場!

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森の中を二人の男女が歩いている。昼を少し過ぎた頃であり、まだまだ明るい。10月も後半となり、山々が色づき始めた。京がまた一段と美しくなる季節を迎えたのだ。二人とも若い。男は二十代のはじめ、女は十代後半といったところだろう。男が女の手を引いている。男が足を止めた。自然と女も足を止める。男が女の手を引いたまま、道を外れ、森の奥へと入って行った。すぐに大きな樹が現れ、男と女はその樹の根元に腰を下ろした。
お互いが熱い目をし、見つめあう。どうやらこの二人は恋人らしい。人気のない森の中で愛し合おうとしてるのだ。
男の口が女の口に重なる。離す。すぐに重なり、激しく絡み合う。男の手が女の胸元に伸び、若く瑞々しい胸をまさぐり始めた。男は女の胸をあらわにし、野獣のように吸いつき、時に、歯を立てる。男の右手が下へ下へと動いていく。女の秘所を探し、指を這わせる。
二人の顔が上気している。男は女の着ているものを脱がしながら、自分も脱いでいく。半裸になった。男が女の体を横たえた。女の体を指で、舌で愛おしむ。
「いよいよか。いよいよやるか?」
ふいに声が聞こえた。男も女も飛び起き、着物で体を隠す。
二人はあたりを見渡すが誰も見えない。
気のせいではない。はっきりと声がした。二人は着物を身に着け始めた。
「ここの場所はやめて、他の場所に行くというか。いや悪いことをした。気にせず、続きをしてくれ」
「誰だ!ふざけやがって!出てこいよ!」
男の方、「源三」は怒りの声をあげた。
「なるはど、ようやくにしてモノにしたのか。それは怒りたくもなるよな」
源三はそこに落ちていた木の棒を拾い上げた。
多少気味が悪いが、怒りのほうが勝っている。半殺しくらいにしないと、気が収まらない。
「そいつは怖いな。そこまでされたら、死んでしまうぞ。まあ俺はやられないがな」
ひょいっと「声の主」が現れた。
「何っ!」
「ひっ!」
源三と女、「しょう」が悲鳴にも近い声をあげた。当然だ。
声の主は人間ではなかったのだから。
最初、源三は大きなヤギかと思った。しかし、すぐにその考えを打ち消した。角はないし、尻尾もない。ヤギのように顔が前に突き出ているのではなく、平べったいこげ茶色の顔がある。
大きな二つの丸い目。小さな鼻と口。この当時の日本の人々が知る由もないが、「ナマケモノ」という動物の顔に近い。手足のさきは、蹄ではなく4本の長い指だ。全身を長く白い毛で覆われ、四つんばいでそこにいる。この異形の生き物が人語を発したのか?
人外の者、化け物である。
「ひいーっ!」源三はしょうをその場に残し、逃げ出した。
「待って!置いて行かないでよっ!」
しょうの必死の願いを無視し、源三は後ろを振りかえることもせず、走り去っていく。

ハア ハア ハア ハア

源三は全力で駆けて行く。手には木の棒を握りしめたままだ。源三の右手から「バサッ」と音がした。右手を見た源三は慌てて立ち止まった。
目の前にあの化け物がいるのだ。
何故だ?
自分はこいつを置き去りにして走ってきたのに、なぜもう追いつかれたんだ?
こいつは二匹いるのか?
混乱する源三の背筋に冷たい汗が流れ落ちる。。
化け物は四つ足で立ち、にやりと笑った。
「先まわりしたのさ。あんたの考えはお見通しだ。それにしても、ひどい男だねぇ。愛しい女を置き去りかよ。まああんたが愛しいのは、この女の体だけだものな」
源三は、木の棒で化け物に殴りかかった。化け物はすーっと右に体を避ける。源三が体勢を直し、殴り掛かる。今度は左に体をさばく。化け物が二本の足で立ち、右手で源三の顔を叩く。
「ぐおーっ!!」
源三の顔に四本の赤い筋が出来た。化け物の長い指でえぐられたのだ。のたうち回る源三の腹を右足で踏みつける。
「ごほっ」
源三が口から血を吐き出した。苦しむ源三の頭に右足をのせ、体重をかけた。源三の頭が地面にめり込んでいく。
「ぎゃあああああっ」

びしゃっ

源三のおぞましい叫び声は、頭のつぶれる音と共に聞こえなくなった。
化け物は踵を返し、元の場所に戻っていく。しょうがいた。恐怖のために足が立たず、逃げることが出来なかったのだ。
化け物がしょうを見る。
しょうの頭は「逃げろ」と命じているのだが、体が言う事を聞いてくれない。化け物が四つんばいになり近づいてくる。
「いや悪かったね。せっかくのところを邪魔しちゃって。けど心配しなくていいよ。続きは俺がしてあげるから」
化け物が笑みを浮かべる。
「いやーっ」
しょうの悲鳴が森中に響き渡った。

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