密教僧・空海 魔都平安を疾る

カズ

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その七 鏡よ、鏡

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「綱虫、ここが肝心な話だが俺のモノは今どこにある?」
「へっ、何?何でございますか?」
綱虫の言葉遣いが改まった。
「俺の持ち物さ。お前の事だ、前の俺が死んだ時、金目のものはしっかりと持ち出したはず。そうだろう?」
童観丸がジロリと綱虫を睨みつける。
「あっ、はい!ございます、ございます。こちらにございます」
そう言うと綱虫は奥へと童観丸を誘う。
「少しばかりお待ちください」
奥の一室に童観丸を残すと綱虫は消えて行った。
童観丸の目が周囲に走り、床のある一点で止まった。
「お待たせいたしました。ここにございます」
綱虫が軽く息を切らせ、現れた。手には小さな斧が握られている。
「そこか」
童観丸は綱虫に一瞬目を向け、床の一点を指さした。
「えっ、はい!そこです。この床下に隠しておきました。それがお師さんには分かるのですか?」
「つまらんことを聞くな。そこから気が漏れている。それだけのこと。早くしろ」
「はい、ただ今」
綱虫はそう言うと、無造作に床に斧を叩きつけ始めた。

バキ バキ バキ
ドガッ ドガッ ドガッ
ベキベキベキ

床が1m四方ほどに壊され、地面が見える。その地面の上に木箱があった。高さは50cm、幅は80cmを欠けるくらいの大きさだ。綱虫が必死に持ち上げる。それほどに重いものではないのか、綱虫一人で何とか持ち上げることが出来た。土の濃厚な匂いが漂う。
童観丸が蓋を開けた。そこには銅銭が十数枚。茶色の小石の様なものが数十個、そして40cm四方の木箱が二つ。それだけだ。これだけなら、か弱い老婆一人でも持ち上げられるだろう。
木箱の中にあるものを童丸がじっと見つめている。ふてぶてしく、どこか人を小ばかにしていた童観丸の顔に何か一瞬はしった。
「哀しみ」とでも言えばいいのか・・・。がそれもすぐに消えた。
「・・・お前、金になりそうなものは全て売り飛ばしたようだな。残ったのはこれだけか?」
童観丸の声に怒りがみえた。
「もっ、申し訳ございません。お師匠さんが急に死んでしまい、その日から生きていく術(すべ)を失った私にはそうするしか道が無かったのです!使ってしまった物は必ずお返しいたします。命のある限り、働いてお返しいたします!どうか、どうか命だけは」
綱虫は膝をつき両手を合わせながら懇願する。目からは涙が流れ落ちる。
「下手な芝居はよせ。ここにあった金などどうでもいい。俺が今、必要なのはこの二つの木箱。もしこれが無ければ・・・・」
童観丸が下から睨んだ。
「ヒッ」
「命はなかったな」
綱虫がその場に崩れ落ちた。腰が抜けてしまったようだ。
「お前、この木箱の中身を見ただろう?嘘は言わなくていい。正直に答えろ」
「は、はい。つい気になり、お師匠さんの大切なものでしたら、ちゃんとしまっておかなければと思いましたので」
「嘘はいいと言ったはずだ。・・・木箱の中身はそのままだろうな?捨てたり、なくしてはいないな?」
「はい、そのままにございます。一切手をつけてはおりません」
「まあ、金にはならんからな、これは。・・・中身はなんだった?言ってみるがよい」
「えっ、はい。中身は・・・しゃれこうべ。一つの箱に一つ。計二つのしゃれこうべです!」
綱虫の返事を聞くと、童観丸は満足そうに微笑んだのであった。
「飯の用意をしろ。今の体はまだ若い。飯を食わせてやらんとな。飯を食うのは十年ぶりだな」
「はいっ。ただ今」
綱虫はその場から脱兎のごとく飛び出していった。
白米、鮎、鮒、数種類の貝に海藻、栗に柿。童観丸は出された食事をたちまちに平らげていった。
食べ終わるとごろりと横になる。
「綱虫よ。夕飯まで俺は寝る。用意が出来たら起こせ。食ったら出かける。そのつもりでおれ」
目を閉じながら童観丸が言った。
「あっ、はい。承知いたしました。私も・・・その・・・お師匠さんと出かけるのでしょうか?」
「当たり前ではないか。俺は十年以上死んでいたのだ。道など分からん。お前が案内するしかないだろう」
「はいっ、その通りです。でどこへお師匠さんを案内すればよいのでしょうか?」
手枕をし、体を横たえて寝ている童観丸の目がうっすらと開いた。
「俺の森さ。俺が呪咀をやり続けていたあの森よ」
「・・・・・」
「そこでこの二つのしゃれこうべを黄泉返させる。そんなことが出来る場所はあそこしかない。長年、俺が呪咀を染みこませてきたあの森でしかな」
そう言うと童観丸は目を閉じ眠り出した。
綱虫は恐怖と嫌悪の入り混じった目で童観丸を見つめていた。
いや綱虫が見ているのは童観丸ではなく、その中にいる「何者」かであった。
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