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その七 鏡よ、鏡
七
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叡山で怪異が起きる十日ほど前の夜。一人の男が就寝している。三十代の半ばであろう。広い一室の中、一人で寝ている。豪奢な掛物がかかり寝ている。
「仲成殿、仲成殿」
小さな声で自分を呼ぶ声がする。
「そう私が呼んだのですよ、仲成殿」
再び声がする。
男の目が薄っすらと開き始めた。
「な、何と!」
男、藤原仲成は声を発し、完全に目を覚ました。
寝ている自分の上に、女性が覆いかぶさり、その女性の顔が自分の顔のすぐ上にあるのだ。
形の良い額の下に大きな黒い目、形の良い鼻、桜ごとき清楚な唇。天界の宮女の如き美貌である。仲成はこの女性を知っている。
「夫人様っ」
女性の顔が仲成の顔に重なる。唇が重なる。女性の舌が仲成の口の中で踊る。美しき女性の唇は仲成の口から離れ、胸、腹、そして下腹部へと移っていく。
外見からは想像も出来ぬ女性の積極的な動きだ。
女性は静かに立ち上がり、そのまま外へ出て行こうとする。
「夫人様っ、どこへ行かれますか」
妖艶な笑みを浮かべ、女性は外へ出て行ってしまった。
仲成は飛び起き、後を追う。
師走の寒月に照らされ、女性が優美に軽やかに踊り始めた。月の官女が外科医に舞い降りたのであろうか。
女性が舞をやめ、仲成を見つめる。
「お主をおびき出すには、この女、橘嘉智子に限るな。元気な事よなぁ。腰のもの、いきり立っているではないか」
女性の口から年老いた男の声が発せられた。
「何だと!お前、夫人様ではないなっ。怪しき奴、そこを動くなっ」
仲成は容積を増した自分の下腹部を見つめながら叫んだ。
「まあ待てよ、藤原仲成。お主にとって悪い話ではない。上手くいけば、本当にこの女、夫人・橘嘉智子を思うようにできるやもしれぬぞ」
女性・橘嘉智子が老人の声を出しながらニヤリと笑う。
「お前は何者だ?夫人様のお姿で話しかけるなっ。正体を現せ。話はそこからだ」
嘉智子の目がすっと細くなり、姿を変えていく。麗しき女性から若き男性へと。橘嘉智子から童観丸へと変わった。
「久しぶりよな、仲成殿。嘉智子が神野親王(=嵯峨天皇のこと。今は嵯峨天皇の治世。)に輿入れが決まった時に会ったではないか。かれこれ十五年ほど前になるかな。その時お前はこう言ったな。『橘一族から皇后を出すわけにはいかぬ。嘉智子は我ら藤原の必ず邪魔になる』。お前は俺に呪咀を頼んだろうが」
「・・・お前など知らん。妙な事を言うな。人を呼ぶが、すぐに黙って消えるなら見逃してやる」
童顔丸が微笑み、姿を変えていく。決して大きくはない童観丸が一回り小さくなり、手足も細くなっていく。小さな顔、小さな目、口、鼻。頭髪は数えるほどしかない。猿の様だ。猿のような老人が現れた。
「あの時はこうであったな。すぐに嘉智子を呪い殺せという事なら、その話、俺は受けたが、お主はあの女に相当未練があったからな。『手荒な真似はするな』であっあ。だから俺は弟子を紹介した。知草は一番できる奴だったからな」
「お前、小角!役小角ではないかっ。あれからすぐに死んだと聞いたぞ。お前の自慢の弟子は失敗し、死んだわ。今頃、俺に何の用だっ」
小角がニヤリとほほ笑む。
「お前を援けてやる。今、お前が考えていることに力を貸してやる。成功すれば、朝廷はお主の思うまま。嘉智子もお前の思うままぞ。お主、俺の力を知っているだろう?俺がいい加減な事を言う男かどうか。分かるはずだ。今の帝を廃し、お主の言う事なら何でも聞く先帝(=平城天皇。現帝の嵯峨帝は兄である平城帝から譲位された)を再び皇位に戻す。手伝ってやる」
「・・・本当に援けてくれるのか?」
「ああ、嘘は言わん。」
「俺は何をすればいい?礼は何が欲しいのだ。金か?」
「もう少しすると、世の中が多少騒がしくなる。朝廷からも人が出るような話となるだろうが、お主の力で抑えろ。藤原式家の当主、そのくらい造作もない事だろうが」
「どのくらいの人が死ぬのだ?あまり派手にやられるとな。俺にもできる事と出来ぬことがある」
「なに、地下人が二、三百人ほどよ。火種よ。この国を真っ二つに割る大乱にしてやる。その乱にお主を勝たせてやろう。この国はお主のものぞ」
猿のような老人の姿をしていた小角は、いつの間にか童観丸の姿に戻っている。仲成はもはや姿形を全く気に留めなくなっている。
「分かった。任せろ。地下人くらいならどうにでもなる」
「支度をしておけよ。乱はそう遠くないぞ。心しておけ」
小角の姿が消えて行く。
どんどん薄くなっていく。
仲成が消えかかる小角に呼び掛けた。
「小角、お前の弟子、知草を殺したのは、空海と田村麻呂。この二人には気をつけよ。我らの邪魔になるやもしれぬ」
もう小角の姿はない。
完全に消えていた。
が声がした。
「また空海と田村麻呂か。この二人、よほど我と因果があるようよなぁ」
仲成は今まで小角がいたその場を見つめ呟いた。
「大乱が起きるか」
後世「薬子の変」と呼ばれる騒乱はここに始まる。
小角が仲成のもとに現れ、数日後の事。
田村麻呂は夢を見ていた。自分で夢と分かる。なぜなら、これは十年近く前の事だから。
「阿弖流為、母禮、よく決心してくれた。これで朝廷も蝦夷も救われる。お主たちのおかげだ」
田村麻呂が二人の男をじっと熱い目で見つめる。
「もう戦いには疲れました。三十年です。三十年戦い、多くの仲間が死んでいきました。土地も荒れ果て、戦に勝っても、悲しみが残るばかり」
阿弖流為が言った。
だが阿弖流為の顔を田村麻呂は思い出せない。
阿弖流為の顔は闇だ。
「子供たちに、生まれてくる新しい命に、争いのない時を過ごしてもらいたいのです。それは我らの責任。そのためなら、我ら二人の命などいりませぬ」
母禮が朗らかに笑う。
大きな体、いかつい顔。
だが本当この男は優しい心を持っている。
「そんなことはさせん。二人の命は俺が必ず守る。わが身に代えても守る」
阿弖流為と母禮はにこやかな笑みを田村麻呂に返した。
ああ、なんという幸福に満ちた時であったろうか。
田村麻呂は確信していた。
これで戦が終わる。これで京も蝦夷も一つになれる。
阿弖流為が笑う。
母禮が笑う。
田村麻呂も笑う。
ハハハハッハ ハハハハハ
「嘘つき」
「だまされた」
「裏切者」
「お前は卑怯だ」
笑い声の中に小さな声が混じり、その声がどんどん大きくなってきた。
「田村麻呂、許さんぞ」
「田村麻呂、恨んでくれる」
微笑んでいた阿弖流為と母禮の顔が徐々に変化していく。目が吊り上がり、歯が伸び、牙になり、頭からは角が生えてくる。血のように真っ赤な目、真っ赤な口。
二人の鬼が田村麻呂に襲い掛かってきた。
田村麻呂は静かに右の掌を二人に向け、その瞬間、鬼と化した二人が消滅した。
「阿弖流為と母禮の夢か。・・・しばらく見なかったがな。お前の罪を忘れるなと言っているか・・・」
田村麻呂は呟きながら起き上がる。
太陽がそろそろ昇ってくる頃である。
「ああ、忘れたことなどないさ。俺の犯した罪の事は・・・」
本日は朝議があり、田村麻呂は名指しで呼ばれている。
何か嫌な予感がする。
こういった田村麻呂の予感が外れたことがない。
そして今回も外れることはなかったのだ。
「仲成殿、仲成殿」
小さな声で自分を呼ぶ声がする。
「そう私が呼んだのですよ、仲成殿」
再び声がする。
男の目が薄っすらと開き始めた。
「な、何と!」
男、藤原仲成は声を発し、完全に目を覚ました。
寝ている自分の上に、女性が覆いかぶさり、その女性の顔が自分の顔のすぐ上にあるのだ。
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「夫人様っ」
女性の顔が仲成の顔に重なる。唇が重なる。女性の舌が仲成の口の中で踊る。美しき女性の唇は仲成の口から離れ、胸、腹、そして下腹部へと移っていく。
外見からは想像も出来ぬ女性の積極的な動きだ。
女性は静かに立ち上がり、そのまま外へ出て行こうとする。
「夫人様っ、どこへ行かれますか」
妖艶な笑みを浮かべ、女性は外へ出て行ってしまった。
仲成は飛び起き、後を追う。
師走の寒月に照らされ、女性が優美に軽やかに踊り始めた。月の官女が外科医に舞い降りたのであろうか。
女性が舞をやめ、仲成を見つめる。
「お主をおびき出すには、この女、橘嘉智子に限るな。元気な事よなぁ。腰のもの、いきり立っているではないか」
女性の口から年老いた男の声が発せられた。
「何だと!お前、夫人様ではないなっ。怪しき奴、そこを動くなっ」
仲成は容積を増した自分の下腹部を見つめながら叫んだ。
「まあ待てよ、藤原仲成。お主にとって悪い話ではない。上手くいけば、本当にこの女、夫人・橘嘉智子を思うようにできるやもしれぬぞ」
女性・橘嘉智子が老人の声を出しながらニヤリと笑う。
「お前は何者だ?夫人様のお姿で話しかけるなっ。正体を現せ。話はそこからだ」
嘉智子の目がすっと細くなり、姿を変えていく。麗しき女性から若き男性へと。橘嘉智子から童観丸へと変わった。
「久しぶりよな、仲成殿。嘉智子が神野親王(=嵯峨天皇のこと。今は嵯峨天皇の治世。)に輿入れが決まった時に会ったではないか。かれこれ十五年ほど前になるかな。その時お前はこう言ったな。『橘一族から皇后を出すわけにはいかぬ。嘉智子は我ら藤原の必ず邪魔になる』。お前は俺に呪咀を頼んだろうが」
「・・・お前など知らん。妙な事を言うな。人を呼ぶが、すぐに黙って消えるなら見逃してやる」
童顔丸が微笑み、姿を変えていく。決して大きくはない童観丸が一回り小さくなり、手足も細くなっていく。小さな顔、小さな目、口、鼻。頭髪は数えるほどしかない。猿の様だ。猿のような老人が現れた。
「あの時はこうであったな。すぐに嘉智子を呪い殺せという事なら、その話、俺は受けたが、お主はあの女に相当未練があったからな。『手荒な真似はするな』であっあ。だから俺は弟子を紹介した。知草は一番できる奴だったからな」
「お前、小角!役小角ではないかっ。あれからすぐに死んだと聞いたぞ。お前の自慢の弟子は失敗し、死んだわ。今頃、俺に何の用だっ」
小角がニヤリとほほ笑む。
「お前を援けてやる。今、お前が考えていることに力を貸してやる。成功すれば、朝廷はお主の思うまま。嘉智子もお前の思うままぞ。お主、俺の力を知っているだろう?俺がいい加減な事を言う男かどうか。分かるはずだ。今の帝を廃し、お主の言う事なら何でも聞く先帝(=平城天皇。現帝の嵯峨帝は兄である平城帝から譲位された)を再び皇位に戻す。手伝ってやる」
「・・・本当に援けてくれるのか?」
「ああ、嘘は言わん。」
「俺は何をすればいい?礼は何が欲しいのだ。金か?」
「もう少しすると、世の中が多少騒がしくなる。朝廷からも人が出るような話となるだろうが、お主の力で抑えろ。藤原式家の当主、そのくらい造作もない事だろうが」
「どのくらいの人が死ぬのだ?あまり派手にやられるとな。俺にもできる事と出来ぬことがある」
「なに、地下人が二、三百人ほどよ。火種よ。この国を真っ二つに割る大乱にしてやる。その乱にお主を勝たせてやろう。この国はお主のものぞ」
猿のような老人の姿をしていた小角は、いつの間にか童観丸の姿に戻っている。仲成はもはや姿形を全く気に留めなくなっている。
「分かった。任せろ。地下人くらいならどうにでもなる」
「支度をしておけよ。乱はそう遠くないぞ。心しておけ」
小角の姿が消えて行く。
どんどん薄くなっていく。
仲成が消えかかる小角に呼び掛けた。
「小角、お前の弟子、知草を殺したのは、空海と田村麻呂。この二人には気をつけよ。我らの邪魔になるやもしれぬ」
もう小角の姿はない。
完全に消えていた。
が声がした。
「また空海と田村麻呂か。この二人、よほど我と因果があるようよなぁ」
仲成は今まで小角がいたその場を見つめ呟いた。
「大乱が起きるか」
後世「薬子の変」と呼ばれる騒乱はここに始まる。
小角が仲成のもとに現れ、数日後の事。
田村麻呂は夢を見ていた。自分で夢と分かる。なぜなら、これは十年近く前の事だから。
「阿弖流為、母禮、よく決心してくれた。これで朝廷も蝦夷も救われる。お主たちのおかげだ」
田村麻呂が二人の男をじっと熱い目で見つめる。
「もう戦いには疲れました。三十年です。三十年戦い、多くの仲間が死んでいきました。土地も荒れ果て、戦に勝っても、悲しみが残るばかり」
阿弖流為が言った。
だが阿弖流為の顔を田村麻呂は思い出せない。
阿弖流為の顔は闇だ。
「子供たちに、生まれてくる新しい命に、争いのない時を過ごしてもらいたいのです。それは我らの責任。そのためなら、我ら二人の命などいりませぬ」
母禮が朗らかに笑う。
大きな体、いかつい顔。
だが本当この男は優しい心を持っている。
「そんなことはさせん。二人の命は俺が必ず守る。わが身に代えても守る」
阿弖流為と母禮はにこやかな笑みを田村麻呂に返した。
ああ、なんという幸福に満ちた時であったろうか。
田村麻呂は確信していた。
これで戦が終わる。これで京も蝦夷も一つになれる。
阿弖流為が笑う。
母禮が笑う。
田村麻呂も笑う。
ハハハハッハ ハハハハハ
「嘘つき」
「だまされた」
「裏切者」
「お前は卑怯だ」
笑い声の中に小さな声が混じり、その声がどんどん大きくなってきた。
「田村麻呂、許さんぞ」
「田村麻呂、恨んでくれる」
微笑んでいた阿弖流為と母禮の顔が徐々に変化していく。目が吊り上がり、歯が伸び、牙になり、頭からは角が生えてくる。血のように真っ赤な目、真っ赤な口。
二人の鬼が田村麻呂に襲い掛かってきた。
田村麻呂は静かに右の掌を二人に向け、その瞬間、鬼と化した二人が消滅した。
「阿弖流為と母禮の夢か。・・・しばらく見なかったがな。お前の罪を忘れるなと言っているか・・・」
田村麻呂は呟きながら起き上がる。
太陽がそろそろ昇ってくる頃である。
「ああ、忘れたことなどないさ。俺の犯した罪の事は・・・」
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