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その七 鏡よ、鏡
十九
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「オン・マユラ・キランデイ・ソワカ」
空海が孔雀明王呪を唱えながら、両腕を前に突き出す。気を小角に向け送り込んだ。
「オン・マユラ・キランデイ・ソワカ」
小角も孔雀明王呪を唱えた。空海が送り込んだ気がそのまま通り抜けていく。
「お前の孔雀明王呪はまがい物だな」
空海が言う。
「何を下らぬことを。人を呪うのに正式も偽物もあるものか。要は心力。心の強さが勝負よ」
小角が言う。
空海が一気に間合いをつめた。次々に拳を突き出す。小角がそれを全てはじく。空海が小角のすぐ前に立つ。空海の口から流暢な唐語が出された。
「海底有三座神山,分别是蓬莱山、方丈山、瀛洲山。这里住着一位隐士。我要带着男孩和
女孩去寻找隐士,长生不老的灵丹妙药」」
小角の動きが一瞬止まった。
バキッ
一瞬、動きが止まった小角の右頬に空海の右ひじが叩きつけられた。
小角はたまらず、頬を押さえながら後方に飛び下がった。
「やはり、これを書いたのはお前だな」
空海が仏像の笑みを見せる。
「あの木に刻んだ字を見たか。まさか、お前が読むとはな。残しておくべきではなかった・・・、しくじったな」
小角はそう言うと口から血のにじんだ唾を吐いた。
「お前は一体なんだ?何しにこの国に来た?徐市とは何なんだ?」
空海が小角にゆっくりと近づく。
ボコ ボコ ボコッ
空海の足下の地面が盛り上がってきた。そこから手が生えだす。長い爪を持つ三本の指。
細長く青いその手が空海の足首を掴んだ。
「ぬうう」
空海が飛び上がる。
飛び上がりながら、懐から抜き出した独鈷杵をその腕に向け投げつけた。
足首を掴んでいた手の力が弱まり、空海の足首から手が抜けた。
ボコボコボコッ
地面から何かが出て来る。
腕が出て来る。
一本の角が出てくる。
そして顔が出てきた。大きな一つ目を持つ顔。
首、胴体、足・・・。
一つの角を持つ一つ目の鬼が出てきたのである。身長は空海と同じくらいの大きさだ。
空海の投げた独鈷杵が右肩に刺さっている。
「俺が何もせずここで待っていたと思うか?式神を伏せておいた。しっかりと俺が作り上げた式神だ。一つ二つではないぜ。空海、お前はこの式神たちに食われるのさ」
ボコボコボコッ
ボコボコボコ
境内のあちこちの地面が割れ、盛り上がり、中から式神たちが次々と出て来る。
十を越す式神が現れ、空海を囲んだ。
「どうする?空海」
小角がにんまりと笑う。
式神が空海に一斉に襲いかかった。
空海は身を丸め、前転しその囲みから抜け出していく。二回転、三回転、四回転し立ち上がった。
ボコボコボコ
立ち上がった空海のすぐそばの地面から新たな式神が現れ、空海に襲いかかる。
「吩(フン)」
空海が気を放つ。式神が四散した。
式神たちが襲いかかってきた。
「吩」
「とう」
「やあ」
空海が気を放つ。拳を叩き込む。蹴りあげる。
消える式神。うずくまる式神。倒れる式神・・・。
が新たな式神が次々と現れ空海に迫る。
空海の息が乱れて来る。顔に疲労の影が浮かんできた。
「空海よ、流石よなぁ。あとどのくらい頑張れる?俺の式神はいくらでも出て来るぞ。愉快よ。本当に面白いわ、お前は」
小角が大声をあげ笑う。
ヒューッ
小角の背後から何かが飛んできた。
「ん?」
小角が振り返る。その額に短刀が突き刺さる。
「ぐおっ」
うなる小角に走り込む人影。
それは一人の女性であった。
その女性は一気に小角の目の前に走り込む。
「お、お前!死んだはずでは!」
やおである。
着ている服は血で染まり、顔色も良くはない。
そんなやおが妖艶にほほ笑んだ。
「面白がりすぎて、背中ががら開きだったよ。油断したね」
「そんなはずはないっ!お前は死んだっ!体中の血が流れ、心の蔵も停まっていたっ」
「ああ死んだよ。お前に殺された。あたしはねぇ、これまで何回も死んでいるんだよ。死んだのはこれで何回目かねぇ」
そう言うとやおは小角の額に突き刺さっている刀の柄を手のひらで思いっきり押した。
たまらず小角が仰向けに倒れる。
すかさず、やおの右足が刀の柄を踏み込んだ。
ズブズブズブ
小角が地面に縫い付けられた。
「空海、今だよ!」
「応(おう)」
空海の手から火球が次々と小角に飛来する。頭が縫い付けられ動けない小角に全てが当たり、そして燃え上がる。
「ギャアアアアアアアッ」
凄まじい小角の悲鳴だ。式神たちが消えて行く。
「何故だぁ!何故、女生きているのだぁ!」
悲鳴の中、小角の声が上がる。
「あたしは八百比丘尼(やおびくに)。だから皆、あたしを『やお』と呼ぶ。人魚の肉を食べてからあたしは、歳をとらないんだ。そしてね、死なないんだよ」
やおが燃え盛る火の中の小角に向かい静かに言った。
もはや小角に何の反応もない。人の肉が焼かる音と匂いがしてくるだけだ。
「・・・やお殿、死んでいなかったか。良かった。本当に良かった」
空海がやおに近寄る。
そしてじっと見つめた。
「ああ死ななかったよ、今回も。・・・空海、あたしはこのままずっと生き続けるのかい?」
やおも空海を見つめる。
やおの目の奥に深い悲しみを空海は見た。
「やお殿、不老不死などはない。人であれ天地であれ必ず、その命をいつかは失う。例外などない。八百比丘尼もいつかは必ず死ぬ。いつかは俺にも分からぬがな・・・」
空海はそう言って、やおを優しく見つめた。
「そうかい。それならいいんだよ。長生きも楽しいけど、知り合いがみんな死んじまった後で、一人生きるのもそろそろ辛くなってきたからね」
やおがほほ笑む。
その笑顔はどこか痛々しかった。
何かが来た!
「これは」
「来たねっ」
空海とやおが同時に声をあげ、そして寺の方に目を向けた。凄まじい気だ。寺の方から感じる。
男が一人歩いて来る。180cmで80kgほどの見事に均整の取れた肉体。端正な顔立ちで髪は長く背中まで伸びている。その端正な顔は青白い。全く血の気がない。
ついに現れたのだ。
「空海、ごめんよ。あたしのせいだ。あたしの血で、八尾比丘尼の血で蘇らせてしまったよ」
「やお殿のせいではない。けれどこれは面倒なことになったな。こんな凄まじい気は見たことがない」
空海とやおは近づいて来る男を凝視するしかできない。
空海の額に汗がにじむ。
「せっかく生き返ったのに、また死ぬのはご免だよ」
「やお殿は逃げろ。下には田村麻呂がいる。そこまで逃げればどうにかなる」
男が止まった。空海とやおから10mほどの所で。
「今、田村麻呂と言ったな。それは坂上田村麻呂のことだな」
感情が見えない。何の感情も感じられない。機械がしゃべっているかのようだ。
「阿弖流為、蘇ってしまったな」
空海は懐から三鈷杵を取り出し、握りしめた。
蝦夷の総大将・阿弖流為が二人の前に蘇ったのである。
空海が孔雀明王呪を唱えながら、両腕を前に突き出す。気を小角に向け送り込んだ。
「オン・マユラ・キランデイ・ソワカ」
小角も孔雀明王呪を唱えた。空海が送り込んだ気がそのまま通り抜けていく。
「お前の孔雀明王呪はまがい物だな」
空海が言う。
「何を下らぬことを。人を呪うのに正式も偽物もあるものか。要は心力。心の強さが勝負よ」
小角が言う。
空海が一気に間合いをつめた。次々に拳を突き出す。小角がそれを全てはじく。空海が小角のすぐ前に立つ。空海の口から流暢な唐語が出された。
「海底有三座神山,分别是蓬莱山、方丈山、瀛洲山。这里住着一位隐士。我要带着男孩和
女孩去寻找隐士,长生不老的灵丹妙药」」
小角の動きが一瞬止まった。
バキッ
一瞬、動きが止まった小角の右頬に空海の右ひじが叩きつけられた。
小角はたまらず、頬を押さえながら後方に飛び下がった。
「やはり、これを書いたのはお前だな」
空海が仏像の笑みを見せる。
「あの木に刻んだ字を見たか。まさか、お前が読むとはな。残しておくべきではなかった・・・、しくじったな」
小角はそう言うと口から血のにじんだ唾を吐いた。
「お前は一体なんだ?何しにこの国に来た?徐市とは何なんだ?」
空海が小角にゆっくりと近づく。
ボコ ボコ ボコッ
空海の足下の地面が盛り上がってきた。そこから手が生えだす。長い爪を持つ三本の指。
細長く青いその手が空海の足首を掴んだ。
「ぬうう」
空海が飛び上がる。
飛び上がりながら、懐から抜き出した独鈷杵をその腕に向け投げつけた。
足首を掴んでいた手の力が弱まり、空海の足首から手が抜けた。
ボコボコボコッ
地面から何かが出て来る。
腕が出て来る。
一本の角が出てくる。
そして顔が出てきた。大きな一つ目を持つ顔。
首、胴体、足・・・。
一つの角を持つ一つ目の鬼が出てきたのである。身長は空海と同じくらいの大きさだ。
空海の投げた独鈷杵が右肩に刺さっている。
「俺が何もせずここで待っていたと思うか?式神を伏せておいた。しっかりと俺が作り上げた式神だ。一つ二つではないぜ。空海、お前はこの式神たちに食われるのさ」
ボコボコボコッ
ボコボコボコ
境内のあちこちの地面が割れ、盛り上がり、中から式神たちが次々と出て来る。
十を越す式神が現れ、空海を囲んだ。
「どうする?空海」
小角がにんまりと笑う。
式神が空海に一斉に襲いかかった。
空海は身を丸め、前転しその囲みから抜け出していく。二回転、三回転、四回転し立ち上がった。
ボコボコボコ
立ち上がった空海のすぐそばの地面から新たな式神が現れ、空海に襲いかかる。
「吩(フン)」
空海が気を放つ。式神が四散した。
式神たちが襲いかかってきた。
「吩」
「とう」
「やあ」
空海が気を放つ。拳を叩き込む。蹴りあげる。
消える式神。うずくまる式神。倒れる式神・・・。
が新たな式神が次々と現れ空海に迫る。
空海の息が乱れて来る。顔に疲労の影が浮かんできた。
「空海よ、流石よなぁ。あとどのくらい頑張れる?俺の式神はいくらでも出て来るぞ。愉快よ。本当に面白いわ、お前は」
小角が大声をあげ笑う。
ヒューッ
小角の背後から何かが飛んできた。
「ん?」
小角が振り返る。その額に短刀が突き刺さる。
「ぐおっ」
うなる小角に走り込む人影。
それは一人の女性であった。
その女性は一気に小角の目の前に走り込む。
「お、お前!死んだはずでは!」
やおである。
着ている服は血で染まり、顔色も良くはない。
そんなやおが妖艶にほほ笑んだ。
「面白がりすぎて、背中ががら開きだったよ。油断したね」
「そんなはずはないっ!お前は死んだっ!体中の血が流れ、心の蔵も停まっていたっ」
「ああ死んだよ。お前に殺された。あたしはねぇ、これまで何回も死んでいるんだよ。死んだのはこれで何回目かねぇ」
そう言うとやおは小角の額に突き刺さっている刀の柄を手のひらで思いっきり押した。
たまらず小角が仰向けに倒れる。
すかさず、やおの右足が刀の柄を踏み込んだ。
ズブズブズブ
小角が地面に縫い付けられた。
「空海、今だよ!」
「応(おう)」
空海の手から火球が次々と小角に飛来する。頭が縫い付けられ動けない小角に全てが当たり、そして燃え上がる。
「ギャアアアアアアアッ」
凄まじい小角の悲鳴だ。式神たちが消えて行く。
「何故だぁ!何故、女生きているのだぁ!」
悲鳴の中、小角の声が上がる。
「あたしは八百比丘尼(やおびくに)。だから皆、あたしを『やお』と呼ぶ。人魚の肉を食べてからあたしは、歳をとらないんだ。そしてね、死なないんだよ」
やおが燃え盛る火の中の小角に向かい静かに言った。
もはや小角に何の反応もない。人の肉が焼かる音と匂いがしてくるだけだ。
「・・・やお殿、死んでいなかったか。良かった。本当に良かった」
空海がやおに近寄る。
そしてじっと見つめた。
「ああ死ななかったよ、今回も。・・・空海、あたしはこのままずっと生き続けるのかい?」
やおも空海を見つめる。
やおの目の奥に深い悲しみを空海は見た。
「やお殿、不老不死などはない。人であれ天地であれ必ず、その命をいつかは失う。例外などない。八百比丘尼もいつかは必ず死ぬ。いつかは俺にも分からぬがな・・・」
空海はそう言って、やおを優しく見つめた。
「そうかい。それならいいんだよ。長生きも楽しいけど、知り合いがみんな死んじまった後で、一人生きるのもそろそろ辛くなってきたからね」
やおがほほ笑む。
その笑顔はどこか痛々しかった。
何かが来た!
「これは」
「来たねっ」
空海とやおが同時に声をあげ、そして寺の方に目を向けた。凄まじい気だ。寺の方から感じる。
男が一人歩いて来る。180cmで80kgほどの見事に均整の取れた肉体。端正な顔立ちで髪は長く背中まで伸びている。その端正な顔は青白い。全く血の気がない。
ついに現れたのだ。
「空海、ごめんよ。あたしのせいだ。あたしの血で、八尾比丘尼の血で蘇らせてしまったよ」
「やお殿のせいではない。けれどこれは面倒なことになったな。こんな凄まじい気は見たことがない」
空海とやおは近づいて来る男を凝視するしかできない。
空海の額に汗がにじむ。
「せっかく生き返ったのに、また死ぬのはご免だよ」
「やお殿は逃げろ。下には田村麻呂がいる。そこまで逃げればどうにかなる」
男が止まった。空海とやおから10mほどの所で。
「今、田村麻呂と言ったな。それは坂上田村麻呂のことだな」
感情が見えない。何の感情も感じられない。機械がしゃべっているかのようだ。
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