密教僧・空海 魔都平安を疾る

カズ

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その七 鏡よ、鏡

二十二

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「田村麻呂っ、行くぞ」
空海が田村麻呂に向かい叫ぶ。
「何?空海、どうしろと言うのだ?」
田村麻呂が空海を見る。
「けりをつけろ。十年間持ち続けてきた思いをここで断ち切るんだ。早くしろっ、行くぞ!」
「・・・そうだな。ここで俺が逃げちゃあ駄目だな」
田村麻呂が阿弖流為に進みよる。
太刀を振り上げた。
田村麻呂の手を空海が握る。
「二人でやろうぜ」
空海が言った。
「ああ」
田村麻呂が答えた。
「早くしろっ、空海!」
最澄の叫び声。
「阿弖流為、俺には朋がいる。守るべき人たちが大勢いる。だからお前に命をくれてやるわけにはいかぬのだ。・・・またな」
阿弖流為の目が大きく見開かれる。

ズザン!

太刀が斬り落とされた。

ズドン!

阿弖流為の首が落ちた。

蝦夷の王は二度目の死を迎えた。
空海が膝から崩れ落ちる。
それを抱える田村麻呂。
最澄が後方に倒れていく。
脇から良純と泰範が支える。
やおが、弥生と弟妹の猫又たちが、萩と空麻呂が空海と田村麻呂に走り寄る。
「最澄さん、なんであんたがここにいるんだ?」
空海が田村麻呂に抱えられたままで尋ねた。
「嘉智子夫人様が直々に私に依頼されたのだ。『空海和尚を助けに行って欲しい』とな。私はあなたに助けられた。借りがある。借りっぱなしは嫌だからな。これで貸し借りはなしだ」
最澄も脇を弟子二人に支えられている。
「夫人様が・・・。夫人様は、最澄さんにまで・・・」
空海はそう言って目を閉じる。
「空海!なんてことをするんだい!あんた、焼け死ぬところだったんだよっ」
やおが柳眉をあげ、空海を怒鳴りつけた。
「今回、俺はやられっぱなしだったからな。少しは恰好をつけないと駄目だろう?」
「何、馬鹿な事を言ってんだい!」
「空海、お前はこの世で唯一の密教の正統な伝承者だ。お前が死んでしまったら、密の教えが途絶えてしまうぞ。少しは自分の立場というものをもうちょっと考えろっ」
田村麻呂は自分の腕の中に収まっている空海を睨みつけた。
「人を救うてこその密だ。自分の朋を助けず、何が正統な密の伝承者だというのだ」
空海は下から田村麻呂を見上げながらはっきりと言った。
そして周りを見渡す。
そこには仲間がいた。
命を懸けて自分たちを救うために動いてくれた仲間がいる。
まだ怒っているやお。
美麗な清友。
弥生の傷をなめている猫又たち。
虎の空麻呂の首に腕を回し、抱きしめている萩。
血の気を引いた顔の最澄と心配そうにしている弟子の良純と泰範。
「・・・まるで密だな」
「何だと?」
「この場は密の世界そのものだな。僧がいる。武将がいる。八百比丘尼に人の霊。猫又、虎に変化する男とその妻の人間・・・」
空海は自分の周りにいる者たちを目で追いながら話す。
「様々な立場、業、命が集まり、力を合わせ生きている。全(ぜん)は一(いち)だ。一は全。密そのものではないか」
空海が語る。
そして静かに目を閉じる。
口元にかすかな笑みが広がっていた。
そう、あの仏像の笑みであった。
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