木になる人

肉まん

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始まり

木になった人

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目が開くと、いつもとは違う感覚。体が軽かった。
まるで手が天井に着きそうな軽さ。
仰向けから起きる上がると、体からミシミシと音が聞こえた。痛みはない。ミシミシと音が聞こえた左足を触るとコンっと音がした。体に触った音ではない。男は全身を触ると自分の足が木になっていると分かった。
男は木を切ることを生業としていた。触った瞬間に自分が木であることを認識した。
自身の体を確認して行く男。全身を打診していくと、中に空洞があるように、壁の薄いアパートのような音がする。それも全身。自身の体の中には臓器の類が存在しないこと、脳ですら無いことを把握する。
しかし、男は慌てることは無かった。焦らずパニックにもならなかったのは、自分でも分からない。男は立ち上がると今が夜中だと分かった。窓から見えた景色は暗く静寂に包まれていたから。
何故、こうなってしまったのかを考えるが分からない。今頭に浮かぶのは、昨日隣人に依頼された通り、朝になったら森の巨大な木を切らなければならないということ。依頼者の隣人が、金を見せびらかす強者に擦り寄り、弱気に強い権力者だとしても男にとってはどうでも良かった。
その日を生きねば意味がないから。
男は、床に着き明日に備えて寝る事とした。現状に疲れていたのかすぐに眠った。

男が起きると、体は元に戻っていた。夢だったのか、と思うと同時に、時間を確認すると隣人の依頼の時間だった。起き上がり、帽子をかぶりシャツを変えると慌てて巨木に向かった。
巨木の前には隣人が既におり、男を怒鳴った。男は申し訳なさそうに頭を下げるが、内心は走り疲れた疲労感の中、夢のことを考えていた。
“俺は夢で何の木になっていたんだ?”
何故、こんな疑問が今湧くのかと思ったが人に叱咤される時はこういうものだろう。と自問自答した。
隣人の叱咤に隙間が出来始めた頃、男は詫びの顔を作り、ゆっくりと姿勢を戻す。隣人の後ろに正面を向いただけでは、見渡せないような巨木を見た瞬間男は自分がなっていた木はこの木だ、と理解した。
隣人は、男が思っていたよりも顔を上げるのが早かったのか、その詫びの顔が足りなかったのか、早起きしたのに男が寝坊したからなのか、怒りが収まらず更なる叱咤を続けようとしたが、怒号を飛ばそうとしたその理由は今は分からない。
その瞬間、男は隣人の首を右手で刎ねたから。

「これ始まり」

男は、隣人の頭が地面につくと同時に呟くと森の奥へと入っていった。
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