8 / 36
婚約破棄から5日目 孤児院へ
しおりを挟む
婚約破棄から5日目、私は応接室で弟クリスと来客を待っていた。
母から「クリスの家庭教師の先生との面接に立ち会ってほしい」と言われたからだ。
クリスは現在、王立学園附属の幼稚舎に通っている。幼稚舎で交友関係を持ち、王立学園で研鑽を積むのが、一般的な貴族の子弟の進む道。
但しセレス家は長男オリバーが騎士団で重要任務についているため、次男のクリスに後継教育を施す必要が出てきた。
今までは私が知っていることをクリスに教えてきたが、これからはきちんとした教師をつけることになり、急遽これから面接するという。
「僕は姉さんに教えてもらえれば十分なのに……」
「そんなことはないわ、クリス。貴方には学問の才能がある。きちんとした先生に教えてもらえれば、もっと伸びると思うの」
「でも姉さんに教えてもらう時みたいに、楽しくないと……」
「大丈夫よ。クリスはきっと楽しくなるわ」
クリスと話していたら、母が来客を連れて応接室に来た。入って来たのは優しそうな初老の男性で、男児の家庭教師として評価が高い方だ。
母も席に着いて、皆でお茶を飲みながら歓談する。
男性は品が良く、優雅な所作で申し分ない。穏やかな話し方なので、クリスの緊張も和らいだ様だ。
最後はクリスの好きな植物の話で打ち解けており、家庭教師として迎えることが決まった。
私が王都を離れる前に、クリスの環境が整って良かったと思う。
✳︎
その後、私は急いで孤児院に向かった。
本当は午前中から孤児院に行きたかったけれど面接が入ったため、家を出るのが午後になったからだ。
私は時間ができると、孤児院で子供達の遊び相手をすることが多い。孤児院は基本人手不足だから、私の様な小娘でも手伝えることがある。
私は学生でたくさん寄付ができないので、せめて子供達のお手伝いができればと思っていた。
子供達と遊ぶのは楽しい。
孤児院は両親のいない平民の子ばかりなので、弟クリスと遊ぶのとはまた違っていた。私は孤児院の職員より歳が近いせいか、孤児院の子供達にも懐いてもらえたと思う。
「アレクさん、いつもこんなに頂いて助かります」
『アレク』は孤児院での私の呼び名。
宝石アレキサンドライトはアレクサンドライトとも呼ばれるので、短くして『アレク』。男性名のようなところも気に入っている。
私は使わない物などを寄付する。特にトロイ様から頂いた物はもう使わないから、孤児院で役立ててもらおう。
「セレスさん、これは何かしら?」
「院長先生、それは王宮の下級官吏登用試験の対策用資料です。子供達の中に官吏を希望する子がいるので、時期を見て渡してください。少しは役に立つかもしれません」
「まあ!試験内容を調べるのは大変だったでしょう?」
「実は……先月登用試験があったので、私が試しに受験してみたのです。資料は実際に出題された問題から作成しました」
「まあまあ!貴方は下級官吏になりたいの?受かったらご家族も驚かれるわよ」
「下級官吏は女性が過去に登用された例がないので、合格しないと思います。だから官吏試験を受けた事は、まだ家族に言っていません」
「なんとも貴方らしいわね。でも無理はしないでね」
院長先生は下級官吏登用試験が、実質平民登用の試験だと知っている。貴族は別に試験があるので、通常下級官吏にはならないからだ。
私が子供達のために試験問題目当てで受験したことを、単純に心配されているのだろう。
院長先生は私がセレス子爵令嬢であることを知っているが、他の人は私の身分を知らない。
私は身分を偽るつもりはないが、明らかにするつもりもなく、孤児達と同じ目線で過ごしたいと思っている。
院長先生はそんな私の考えを理解して下さる貴重な方だ。だから婚約破棄の噂を聞き、とても心を痛めてくれていた。
私がしばらく孤児院に来られないことを子供達に伝えると、皆寂しがってくれた。
色々引き留められた事もあり、帰りが夕方になってしまったのは失敗だった。思わぬことになったからだ。
母から「クリスの家庭教師の先生との面接に立ち会ってほしい」と言われたからだ。
クリスは現在、王立学園附属の幼稚舎に通っている。幼稚舎で交友関係を持ち、王立学園で研鑽を積むのが、一般的な貴族の子弟の進む道。
但しセレス家は長男オリバーが騎士団で重要任務についているため、次男のクリスに後継教育を施す必要が出てきた。
今までは私が知っていることをクリスに教えてきたが、これからはきちんとした教師をつけることになり、急遽これから面接するという。
「僕は姉さんに教えてもらえれば十分なのに……」
「そんなことはないわ、クリス。貴方には学問の才能がある。きちんとした先生に教えてもらえれば、もっと伸びると思うの」
「でも姉さんに教えてもらう時みたいに、楽しくないと……」
「大丈夫よ。クリスはきっと楽しくなるわ」
クリスと話していたら、母が来客を連れて応接室に来た。入って来たのは優しそうな初老の男性で、男児の家庭教師として評価が高い方だ。
母も席に着いて、皆でお茶を飲みながら歓談する。
男性は品が良く、優雅な所作で申し分ない。穏やかな話し方なので、クリスの緊張も和らいだ様だ。
最後はクリスの好きな植物の話で打ち解けており、家庭教師として迎えることが決まった。
私が王都を離れる前に、クリスの環境が整って良かったと思う。
✳︎
その後、私は急いで孤児院に向かった。
本当は午前中から孤児院に行きたかったけれど面接が入ったため、家を出るのが午後になったからだ。
私は時間ができると、孤児院で子供達の遊び相手をすることが多い。孤児院は基本人手不足だから、私の様な小娘でも手伝えることがある。
私は学生でたくさん寄付ができないので、せめて子供達のお手伝いができればと思っていた。
子供達と遊ぶのは楽しい。
孤児院は両親のいない平民の子ばかりなので、弟クリスと遊ぶのとはまた違っていた。私は孤児院の職員より歳が近いせいか、孤児院の子供達にも懐いてもらえたと思う。
「アレクさん、いつもこんなに頂いて助かります」
『アレク』は孤児院での私の呼び名。
宝石アレキサンドライトはアレクサンドライトとも呼ばれるので、短くして『アレク』。男性名のようなところも気に入っている。
私は使わない物などを寄付する。特にトロイ様から頂いた物はもう使わないから、孤児院で役立ててもらおう。
「セレスさん、これは何かしら?」
「院長先生、それは王宮の下級官吏登用試験の対策用資料です。子供達の中に官吏を希望する子がいるので、時期を見て渡してください。少しは役に立つかもしれません」
「まあ!試験内容を調べるのは大変だったでしょう?」
「実は……先月登用試験があったので、私が試しに受験してみたのです。資料は実際に出題された問題から作成しました」
「まあまあ!貴方は下級官吏になりたいの?受かったらご家族も驚かれるわよ」
「下級官吏は女性が過去に登用された例がないので、合格しないと思います。だから官吏試験を受けた事は、まだ家族に言っていません」
「なんとも貴方らしいわね。でも無理はしないでね」
院長先生は下級官吏登用試験が、実質平民登用の試験だと知っている。貴族は別に試験があるので、通常下級官吏にはならないからだ。
私が子供達のために試験問題目当てで受験したことを、単純に心配されているのだろう。
院長先生は私がセレス子爵令嬢であることを知っているが、他の人は私の身分を知らない。
私は身分を偽るつもりはないが、明らかにするつもりもなく、孤児達と同じ目線で過ごしたいと思っている。
院長先生はそんな私の考えを理解して下さる貴重な方だ。だから婚約破棄の噂を聞き、とても心を痛めてくれていた。
私がしばらく孤児院に来られないことを子供達に伝えると、皆寂しがってくれた。
色々引き留められた事もあり、帰りが夕方になってしまったのは失敗だった。思わぬことになったからだ。
11
あなたにおすすめの小説
誓いを忘れた騎士へ ―私は誰かの花嫁になる
吉乃
恋愛
「帰ってきたら、結婚してくれる?」
――あの日の誓いを胸に、私は待ち続けた。
最初の三年間は幸せだった。
けれど、騎士の務めに赴いた彼は、やがて音信不通となり――
気づけば七年の歳月が流れていた。
二十七歳になった私は、もう結婚をしなければならない。
未来を選ぶ年齢。
だから、別の男性との婚姻を受け入れると決めたのに……。
結婚式を目前にした夜。
失われたはずの声が、突然私の心を打ち砕く。
「……リリアナ。迎えに来た」
七年の沈黙を破って現れた騎士。
赦せるのか、それとも拒むのか。
揺れる心が最後に選ぶのは――
かつての誓いか、それとも新しい愛か。
お知らせ
※すみません、PCの不調で更新が出来なくなってしまいました。
直り次第すぐに更新を再開しますので、少しだけお待ちいただければ幸いです。
「君は大丈夫だろ?」と可哀想な元恋人を選択した夫。~今さら復縁を迫っても、愛は既に錆び付いています~
水上
恋愛
夫と白い結婚をして、傾いた領地を努力と苦労の末に立て直した伯爵令嬢ヴィクトリア。
夫との関係も良好……、のように見えていた。
だが夫は「君は強いから」と、めそめそ泣く元恋人を優先し、ヴィクトリアの献身を踏みにじった。
その瞬間、彼女の恋心は錆び付き始めた。
「私が去ったら、この領地は終わりですが?」
愛想を尽かした彼女は、完璧な微笑みの裏で淡々と離縁の準備を始める。
これは、有能な妻が去り、無能な夫が泥沼に沈むまでを描く、冷徹な断罪劇。
アリーチェ・オランジュ夫人の幸せな政略結婚
里見しおん
恋愛
「私のジーナにした仕打ち、許し難い! 婚約破棄だ!」
なーんて抜かしやがった婚約者様と、本日結婚しました。
アリーチェ・オランジュ夫人の結婚生活のお話。
【完結】姉の婚約者を奪った私は悪女と呼ばれています
春野オカリナ
恋愛
エミリー・ブラウンは、姉の婚約者だった。アルフレッド・スタンレー伯爵子息と結婚した。
社交界では、彼女は「姉の婚約者を奪った悪女」と呼ばれていた。
幼馴染を選んで婚約者を追放した旦那様。しかしその後大変なことになっているようです
睡蓮
恋愛
レーベット侯爵は自身の婚約者として、一目ぼれしたミリアの事を受け入れていた。しかしレーベットはその後、自身の幼馴染であるリナリーの事ばかりを偏愛し、ミリアの事を冷遇し始める。そんな日々が繰り返されたのち、ついにレーベットはミリアのことを婚約破棄することを決める。もう戻れないところまで来てしまったレーベットは、その後大きな後悔をすることとなるのだった…。
最愛の婚約者に婚約破棄されたある侯爵令嬢はその想いを大切にするために自主的に修道院へ入ります。
ひよこ麺
恋愛
ある国で、あるひとりの侯爵令嬢ヨハンナが婚約破棄された。
ヨハンナは他の誰よりも婚約者のパーシヴァルを愛していた。だから彼女はその想いを抱えたまま修道院へ入ってしまうが、元婚約者を誑かした女は悲惨な末路を辿り、元婚約者も……
※この作品には残酷な表現とホラーっぽい遠回しなヤンデレが多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。
また、一応転生者も出ます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる