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監視にて(ユリウス視点)
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「トロイ・ブロウ伯爵子息が家紋のない馬車で外出した」との報告があり、俺はブロウ家の馬車を追跡した。
ブロウ家の馬車は、孤児院の近くの通りで止まった。そのまま数時間動かなかった。
ブロウ伯爵子息は馬車から下りていない。
また誰かが馬車に乗り込むでもない。
誰かと待ち合わせか?
それとも誰かを待ち伏せか?
ブロウ伯爵子息の動向を監視するように、王太子殿下から第二王子殿下に命令があった。
ブロウ伯爵子息は王立学園に在籍しているので、同じ学園で同学年の第二王子殿下が監視の責任者として適任だ。
そして第二王子ライオール殿下が命を完遂するよう補佐するのが、俺ユリウス・クローディアの役目である。
ブロウ伯爵子息には、俺以外にもライオール殿下の手の者が複数監視に当たっている。
目立つ動きのなかったブロウ伯爵子息が身分を隠す様に馬車で出かけたとなれば、警戒度が上がるのは当然だ。
孤児院近くの通りは、夕方になると人通りが少なくなる。しばらくして、馬車が止まっている通りを誰かが歩いて来た。
待ち合わせか?
若い女性が1人、質素な身なりだが平民ではない様子だ。
所作が美しいので、おそらく貴族令嬢だろう。
令嬢は馬車と距離を取って通り過ぎようと歩いていたが、突然扉が開き、馬車からブロウ伯爵子息と家人が出てくる。
待ち合わせというよりは、待ち伏せのようだ。
話の様子から、女性はブロウ伯爵子息の元婚約者のようだ。学園内でも噂になっている元婚約者についても、もちろん俺は事前に調べていた。
アレキサンドライト・セレス子爵令嬢。
セレス子爵家長女、ブロウ伯爵子息より3学年下、学園の成績は中の上、大人しくて学園では目立たない存在。
ただ……同じ生徒会役員のシルフィーユが「セレス嬢を生徒会にスカウトしたい」と言っていた。
そしてあっさり断られたらしい。
シルフィーユと俺は親戚で昔からの付き合いだが、彼女は人を見る目がある。
シルフィーユの話では、セレス嬢は子爵・男爵令嬢の間で人望が高いそうだ。後輩からも慕われているらしい。
そのシルフィーユが見込んだのだから、セレス嬢は何か光るものを持っているのだろう。
もしくは光るものを隠しているのか。
そして……セレス嬢は学園に入学して3年目の今年、初めて飛び級試験を受けて一発で卒業資格を取得してしまった。
加えて「彼女の卒論が素晴らしい」とあのニール教授が賞賛。厳しくて有名な教授が褒めるくらいだから、実力は本物なのだろう。
✳︎
俺はセレス嬢を「大人しくて目立たない令嬢」だと思っていた。しかし今日実際に目にした彼女は、思っていたイメージと違っていた。
ブロウ伯爵子息に対し、一人で堂々と対峙する姿に驚いた。またセレス嬢の言っていることは筋が通っており、理知的で整理されていた。
俺は女性は感情的に話すものと思っていた。
少なくとも、今まで俺の周りにいた女性はそうだったと思う。
それを避ける様にしてきた俺にとって、セレス嬢の姿は新鮮だった。
女性自体を遠ざけてきた俺が、女性を家まで送るのも初めてだ。自分でも自分らしくないと思いつつ「セレス嬢は王太子殿下護衛のオリバー上級騎士の妹だから当然だ」と内心言い訳をする。
馬車にエスコートした時、自分より小さくて華奢な手にどきりとした。
馬車に乗り込んで向かい合って座ると、俺はセレス嬢を観察した。彼女は長い黒髪を後ろで束ね、化粧はせず、装飾品もない。平民の様な質素な格好をしている。
よく見ると髪は艶やかで整った顔をしているし、深い緑の瞳は綺麗だった。それなりの装いをすれば、印象も変わるのではないかと思う。
彼女は馬車から外を見ている。
俺はそんな彼女の横顔をずっと見ていた。
「クローディア公爵子息、この辺りで下ろして頂きたく、お願い致します」
突然彼女がこちらを向いたので、驚いて我に返った。
「セレス子爵家はまだ先かと思うが…」
「我が家はもう近くです。この辺りで結構です」
「家の前まで送ろう」
「クローディア公爵子息に送られたら、家人を驚かせてしまいます。できればこの辺りで…」
彼女は困った様に笑った。
「わかった」
「送ってくださり、ありがとうございました。このお礼は改めて」
彼女はさっと馬車を下りて行った。
今頃気づいたのだが、彼女は殆ど俺の方を見なかった。
この容姿のせいか、他人からはいつも視線を向けられているので新鮮だった。
ブロウ家の馬車は、孤児院の近くの通りで止まった。そのまま数時間動かなかった。
ブロウ伯爵子息は馬車から下りていない。
また誰かが馬車に乗り込むでもない。
誰かと待ち合わせか?
それとも誰かを待ち伏せか?
ブロウ伯爵子息の動向を監視するように、王太子殿下から第二王子殿下に命令があった。
ブロウ伯爵子息は王立学園に在籍しているので、同じ学園で同学年の第二王子殿下が監視の責任者として適任だ。
そして第二王子ライオール殿下が命を完遂するよう補佐するのが、俺ユリウス・クローディアの役目である。
ブロウ伯爵子息には、俺以外にもライオール殿下の手の者が複数監視に当たっている。
目立つ動きのなかったブロウ伯爵子息が身分を隠す様に馬車で出かけたとなれば、警戒度が上がるのは当然だ。
孤児院近くの通りは、夕方になると人通りが少なくなる。しばらくして、馬車が止まっている通りを誰かが歩いて来た。
待ち合わせか?
若い女性が1人、質素な身なりだが平民ではない様子だ。
所作が美しいので、おそらく貴族令嬢だろう。
令嬢は馬車と距離を取って通り過ぎようと歩いていたが、突然扉が開き、馬車からブロウ伯爵子息と家人が出てくる。
待ち合わせというよりは、待ち伏せのようだ。
話の様子から、女性はブロウ伯爵子息の元婚約者のようだ。学園内でも噂になっている元婚約者についても、もちろん俺は事前に調べていた。
アレキサンドライト・セレス子爵令嬢。
セレス子爵家長女、ブロウ伯爵子息より3学年下、学園の成績は中の上、大人しくて学園では目立たない存在。
ただ……同じ生徒会役員のシルフィーユが「セレス嬢を生徒会にスカウトしたい」と言っていた。
そしてあっさり断られたらしい。
シルフィーユと俺は親戚で昔からの付き合いだが、彼女は人を見る目がある。
シルフィーユの話では、セレス嬢は子爵・男爵令嬢の間で人望が高いそうだ。後輩からも慕われているらしい。
そのシルフィーユが見込んだのだから、セレス嬢は何か光るものを持っているのだろう。
もしくは光るものを隠しているのか。
そして……セレス嬢は学園に入学して3年目の今年、初めて飛び級試験を受けて一発で卒業資格を取得してしまった。
加えて「彼女の卒論が素晴らしい」とあのニール教授が賞賛。厳しくて有名な教授が褒めるくらいだから、実力は本物なのだろう。
✳︎
俺はセレス嬢を「大人しくて目立たない令嬢」だと思っていた。しかし今日実際に目にした彼女は、思っていたイメージと違っていた。
ブロウ伯爵子息に対し、一人で堂々と対峙する姿に驚いた。またセレス嬢の言っていることは筋が通っており、理知的で整理されていた。
俺は女性は感情的に話すものと思っていた。
少なくとも、今まで俺の周りにいた女性はそうだったと思う。
それを避ける様にしてきた俺にとって、セレス嬢の姿は新鮮だった。
女性自体を遠ざけてきた俺が、女性を家まで送るのも初めてだ。自分でも自分らしくないと思いつつ「セレス嬢は王太子殿下護衛のオリバー上級騎士の妹だから当然だ」と内心言い訳をする。
馬車にエスコートした時、自分より小さくて華奢な手にどきりとした。
馬車に乗り込んで向かい合って座ると、俺はセレス嬢を観察した。彼女は長い黒髪を後ろで束ね、化粧はせず、装飾品もない。平民の様な質素な格好をしている。
よく見ると髪は艶やかで整った顔をしているし、深い緑の瞳は綺麗だった。それなりの装いをすれば、印象も変わるのではないかと思う。
彼女は馬車から外を見ている。
俺はそんな彼女の横顔をずっと見ていた。
「クローディア公爵子息、この辺りで下ろして頂きたく、お願い致します」
突然彼女がこちらを向いたので、驚いて我に返った。
「セレス子爵家はまだ先かと思うが…」
「我が家はもう近くです。この辺りで結構です」
「家の前まで送ろう」
「クローディア公爵子息に送られたら、家人を驚かせてしまいます。できればこの辺りで…」
彼女は困った様に笑った。
「わかった」
「送ってくださり、ありがとうございました。このお礼は改めて」
彼女はさっと馬車を下りて行った。
今頃気づいたのだが、彼女は殆ど俺の方を見なかった。
この容姿のせいか、他人からはいつも視線を向けられているので新鮮だった。
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