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元家令の話(ユリウス視点)①
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俺はセレス家の元家令だった男性を訪ねることにした。名をセバスチャンといい、セレス家を去った後は家族と共に静かに暮らしているという。
調べてみると、彼はセレス子爵家の筆頭家令を長く務めており、当主からの信頼も厚い優秀な家人だった。
家令セバスチャンは前子爵夫妻が死亡した後のセレス家を支え、現子爵夫妻に引き継いだ後に職を辞したとされる。退職の理由は、身体を患ったからとのこと。
初めて対面したセバスチャンは穏やかそうな初老の男性だった。シルバーグレイの髪には白いものが混じっているが、身のこなしが優雅で実年齢よりも若々しく見える。
髪色と同じシルバーグレイの瞳をこちらに向けて穏やかに微笑んでいるが……さすがに筆頭家令を務めていただけのことはある。おそらく一癖も二癖もある、やりにくい相手だった。
表面上は穏やかに会話が進むのだが、核心に触れる前に軽やかにかわされてしまうような感覚だ。
優秀な家令は職を辞した後でも、主家の事を他言しない。セバスチャンはまさにそれで、話ぶりからも忠義に厚い家人だったということが伝わる。
案の定、警戒されている。
セレス家と付き合いのない家の令息が、わざわざ話を聞きに来たのだ。代理の者に任せれば良かったのかもしれないが、俺は何故か自分で確かめたいと思ってしまう。
そこで俺は一連の事件の調査であることを示して協力を仰いだ。
というのも捕らえたドロール家の関係者の中に、セレス前子爵夫妻殺害を自供する者が出てきたからだ。
さらに俺がセレス子爵令嬢の身に起こったことを話すと、セバスチャンの雰囲気が変わった。
「そうですか……。
お嬢様がご無事で本当になによりです」
セバスチャンはそれでも渋っていたが、最後には「セレス前子爵夫妻に関わることなら」と重い口を開いた。
「その、幼い頃のセレス嬢はどのような様子だったのですか?」
「……優しくて、利発なお嬢様でした」
「領地の人も、同じ事を言っていました」
「ふふ……身分に関わらず、誰にでも同じ様に接する方でしたから。亡くなった御両親と共に、積極的に領民と交流されていました」
「前子爵夫妻は領民のために尽くした方だったそうですね」
「ええ、王都と領地を忙しく行き来しておりました。いつもお嬢様をお連れでした。お嬢様自ら、御両親についてゆくことを望まれたからです。
そのためお嬢様は、幼い頃から自分の事は自分でなさっていました。御両親の負担にならない様に、陰ながら努力する方でした」
「そうでしたか。前子爵夫妻が亡くなった時も、セレス嬢は一緒だったのですか?」
「いえ、お嬢様は王都におりました。王立学園附属幼稚舎へ入る準備で、初めて御両親と別行動を取られていたのです」
家令セバスチャンは、一人残されたセレス嬢と共にセレス子爵家を支えた。
最愛の両親の突然の死に最初は呆然としていたセレス嬢も、家人や領民の前で気丈に振る舞い、子爵家存続のために自ら動いたのだという。
「失礼ながら、当時8歳の少女には荷が重いと思うのだが…」
俺は思ったことを口に出した。
近しい血縁者のいない未成年の場合、通常なら家令が代理人となって諸々手続きをするところだろう。
「その通りです。ただし当家にはお嬢様にしかできない手続きもございまして…」
「『直系でないとできない手続き』の類ですね?」
「はい……。お嬢様は幼稚舎への進学を取りやめ、手続きのために精励なさいました。亡くなった御両親からは、具体的なことは引き継がれておりませんでしたから」
『直系ではないとできない手続き』とは、貴族の家に伝わる儀式や呪い的なものだ。古い貴族の家には稀にあるが、今はほとんど廃れてしまったと思う。
それがセレス家に残っていたことについて内心驚いたが、同時にストンと腑に落ちた。
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1人視点なので情報が偏っております。全体がわかるまでは読み進めて頂けると嬉しいです。次は夕方投稿します。
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よろしくお願い致します。
調べてみると、彼はセレス子爵家の筆頭家令を長く務めており、当主からの信頼も厚い優秀な家人だった。
家令セバスチャンは前子爵夫妻が死亡した後のセレス家を支え、現子爵夫妻に引き継いだ後に職を辞したとされる。退職の理由は、身体を患ったからとのこと。
初めて対面したセバスチャンは穏やかそうな初老の男性だった。シルバーグレイの髪には白いものが混じっているが、身のこなしが優雅で実年齢よりも若々しく見える。
髪色と同じシルバーグレイの瞳をこちらに向けて穏やかに微笑んでいるが……さすがに筆頭家令を務めていただけのことはある。おそらく一癖も二癖もある、やりにくい相手だった。
表面上は穏やかに会話が進むのだが、核心に触れる前に軽やかにかわされてしまうような感覚だ。
優秀な家令は職を辞した後でも、主家の事を他言しない。セバスチャンはまさにそれで、話ぶりからも忠義に厚い家人だったということが伝わる。
案の定、警戒されている。
セレス家と付き合いのない家の令息が、わざわざ話を聞きに来たのだ。代理の者に任せれば良かったのかもしれないが、俺は何故か自分で確かめたいと思ってしまう。
そこで俺は一連の事件の調査であることを示して協力を仰いだ。
というのも捕らえたドロール家の関係者の中に、セレス前子爵夫妻殺害を自供する者が出てきたからだ。
さらに俺がセレス子爵令嬢の身に起こったことを話すと、セバスチャンの雰囲気が変わった。
「そうですか……。
お嬢様がご無事で本当になによりです」
セバスチャンはそれでも渋っていたが、最後には「セレス前子爵夫妻に関わることなら」と重い口を開いた。
「その、幼い頃のセレス嬢はどのような様子だったのですか?」
「……優しくて、利発なお嬢様でした」
「領地の人も、同じ事を言っていました」
「ふふ……身分に関わらず、誰にでも同じ様に接する方でしたから。亡くなった御両親と共に、積極的に領民と交流されていました」
「前子爵夫妻は領民のために尽くした方だったそうですね」
「ええ、王都と領地を忙しく行き来しておりました。いつもお嬢様をお連れでした。お嬢様自ら、御両親についてゆくことを望まれたからです。
そのためお嬢様は、幼い頃から自分の事は自分でなさっていました。御両親の負担にならない様に、陰ながら努力する方でした」
「そうでしたか。前子爵夫妻が亡くなった時も、セレス嬢は一緒だったのですか?」
「いえ、お嬢様は王都におりました。王立学園附属幼稚舎へ入る準備で、初めて御両親と別行動を取られていたのです」
家令セバスチャンは、一人残されたセレス嬢と共にセレス子爵家を支えた。
最愛の両親の突然の死に最初は呆然としていたセレス嬢も、家人や領民の前で気丈に振る舞い、子爵家存続のために自ら動いたのだという。
「失礼ながら、当時8歳の少女には荷が重いと思うのだが…」
俺は思ったことを口に出した。
近しい血縁者のいない未成年の場合、通常なら家令が代理人となって諸々手続きをするところだろう。
「その通りです。ただし当家にはお嬢様にしかできない手続きもございまして…」
「『直系でないとできない手続き』の類ですね?」
「はい……。お嬢様は幼稚舎への進学を取りやめ、手続きのために精励なさいました。亡くなった御両親からは、具体的なことは引き継がれておりませんでしたから」
『直系ではないとできない手続き』とは、貴族の家に伝わる儀式や呪い的なものだ。古い貴族の家には稀にあるが、今はほとんど廃れてしまったと思う。
それがセレス家に残っていたことについて内心驚いたが、同時にストンと腑に落ちた。
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