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セレス子爵の話(ユリウス視点)②
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セレス子爵家に関する資料によると、前子爵夫妻が死亡した後、前子爵夫人の妹夫婦がセレス家を継いだ。
今のセレス子爵は、セレス家傍流の男爵家の次男であった。彼は夫人と結婚して2児の子に恵まれ、慎ましく幸せに暮らしていたという。
セレス子爵家の歴史は古く、時の王家から宝石が下賜された程の家柄なので、セレス夫妻が亡くなった時は後継者問題が取り沙汰された。
色々と大変だったようだが、今のセレス子爵を据えることで家門は何とか存続できた。
領地で新しい産業を興し、王都へ販路を開拓し、領内を豊かにして税収を増やした。さらに王都でも事業を興し、堅実な手腕で成功を収めつつある。
加えてセレス夫妻の誠実な人柄もあり、社交界での影響力は確実に大きくなっている。
存続が危ぶまれた時期からみれば、セレス家を建て直したといえるだろう。
✳︎
ブロウ伯爵家とドロール男爵家の処分について、俺は王太子殿下からの内示をセレス子爵に告げる。
さらにセレス嬢が誘拐された件については緘口令を敷き、令嬢としての名誉を守る方針であることを伝えた。
足りない情報があればオリバー上級騎士が子爵に内容を補足するだろうが、彼は騎士団の仕事でしばらく家に帰れないだろう。
ドロール男爵家繋がりで余罪のある貴族を一掃するため、王太子殿下は騎士団に新たな命令を出したはずだ。
セレス子爵は俺の話に納得したようだった。
本来ならここで話は終わりになるのだが、俺は子爵に幼い頃のセレス嬢のことを聞いてみた。
するとセレス子爵は少し目を細めて、懐かしそうに口を開いた。
「アレキサンドライトの亡くなった両親は身分に関係なく、どんな人とも仲良くなれる方々でした。そのためか幼いあの子も誰とでもすぐに仲良くなる、輝く魅力のある子でした」
アレキサンドライトの父親は領地のために尽くす人で、アレキサンドライトの母親はそんな夫を献身的に支えた才女であった。幼馴染でもある2人はセレス家を継ぎ、仲睦まじい夫婦になった。
セレス家は代々同門の家の者と婚姻を結ぶそうだ。前子爵夫人と現子爵夫人の生家も同門であり、前子爵夫人は幼くしてセレス家に嫁ぐことが決まっていたのだという。
若くしてセレス家を継いだ当主夫妻は、王都での社交や領地の発展に寄与するべく、いつも忙しく過ごしていた。
家業が落ち着いた頃にアレキサンドライトが生まれ、当主一家は時間を作っては妹夫婦の家に遊びに来るようになった。
アレキサンドライトの祖父母は既に亡く、彼女にとって叔母家族は数少ない親族だった。年に数度の交流ではあったが、アレキサンドライトは従兄弟と本当の兄弟のように過ごしたという。
「アレキサンドライトは派手な容姿ではないのですが人目を引く子で、彼女の周りには自然と人が集まるのです。良く笑い表情豊かなので、見ていて飽きないのですよ。加えて人に優しく、気遣いのできる聡い子なので、彼女はすぐに他人と打ち解けてしまう。彼女のいる場は和気藹々としていて、いつも楽しそうでした」
俺は少し意外だった。
学園での、大人しく目立たない令嬢のイメージとは違うと感じたからだ。
そしてセレス子爵は軽く口を閉じる。
少しの間があいて、申し訳なさそうに話を続けた。
「しかし両親亡き後、この屋敷で再会したあの子は随分と変わっておりました。貴族令嬢として懸命に振る舞い、家人や領民を守ろうと努力した末の、今の姿でした」
久しぶりに会ったアレキサンドライトは別人のようだった。
感情豊かな少女の面影はなく、感情を消して微笑む小さな令嬢になっていた。両親を亡くしてまもないというのに人前で泣くこともできず、子供ながら淡々と葬儀の指示をする彼女の姿は、とても痛々しく見えたそうだ。
未成年の女児では家督が継げないため、アレキサンドライトが叔母夫婦に襲爵を願い出た。
突然のことに戸惑う叔母夫婦に対して、アレキサンドライトは自ら説得した。感情論ではなく淡々と理由を述べる様子に、夫妻は気圧されたそうだ。
さらにアレキサンドライトは葬儀に参列した同門の家長達を同じ様に説得し、セレス子爵家を速やかに引き継げるように自ら差配した。
セレス夫妻の遺児というだけではない、貴族令嬢に相応しい堂々とした振る舞いで大人達を従わせたのである。
そして彼女は全ての手続きを終えた後、平民になるつもりだったという。
セレス子爵は一人残されたアレキサンドライトを、家族に迎えようと決めていたそうだ。
彼女は「セレス家のためになるなら」と養女になることを承知したという。
おそらく彼女は自分が政略結婚の道具としてなら役に立てると考えたのだろう。
当時8歳の少女が、両親を亡くした悲しみも癒えないだろうに、どうしてこのように振る舞えるのか?
俺はセレス子爵令嬢にますます興味を持った。
「セレス子爵、ところでセレス嬢は魔術が使えるのですか?」
俺はさりげなく聞いてみる。
攫われた子供達を何年もかけて探すなんて、魔術師が協力しないと難しいだろう。
しかし子爵によるとセレス子爵家は魔術師の系統ではなく、セレス嬢はおろか、使用人にも魔術が使えるものはいないとのことだった。
「魔術かどうか、詳しくはわかりませんが、以前は使える者がいたそうです。この屋敷の家令で、長くセレス家に仕えていたと聞いています」
「その方は今どちらに?」
「故郷に戻ったと聞いております」
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1人視点なので情報が偏っております。全体がわかるまでは読み進めて頂けると嬉しいです。
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よろしくお願い致します。
今のセレス子爵は、セレス家傍流の男爵家の次男であった。彼は夫人と結婚して2児の子に恵まれ、慎ましく幸せに暮らしていたという。
セレス子爵家の歴史は古く、時の王家から宝石が下賜された程の家柄なので、セレス夫妻が亡くなった時は後継者問題が取り沙汰された。
色々と大変だったようだが、今のセレス子爵を据えることで家門は何とか存続できた。
領地で新しい産業を興し、王都へ販路を開拓し、領内を豊かにして税収を増やした。さらに王都でも事業を興し、堅実な手腕で成功を収めつつある。
加えてセレス夫妻の誠実な人柄もあり、社交界での影響力は確実に大きくなっている。
存続が危ぶまれた時期からみれば、セレス家を建て直したといえるだろう。
✳︎
ブロウ伯爵家とドロール男爵家の処分について、俺は王太子殿下からの内示をセレス子爵に告げる。
さらにセレス嬢が誘拐された件については緘口令を敷き、令嬢としての名誉を守る方針であることを伝えた。
足りない情報があればオリバー上級騎士が子爵に内容を補足するだろうが、彼は騎士団の仕事でしばらく家に帰れないだろう。
ドロール男爵家繋がりで余罪のある貴族を一掃するため、王太子殿下は騎士団に新たな命令を出したはずだ。
セレス子爵は俺の話に納得したようだった。
本来ならここで話は終わりになるのだが、俺は子爵に幼い頃のセレス嬢のことを聞いてみた。
するとセレス子爵は少し目を細めて、懐かしそうに口を開いた。
「アレキサンドライトの亡くなった両親は身分に関係なく、どんな人とも仲良くなれる方々でした。そのためか幼いあの子も誰とでもすぐに仲良くなる、輝く魅力のある子でした」
アレキサンドライトの父親は領地のために尽くす人で、アレキサンドライトの母親はそんな夫を献身的に支えた才女であった。幼馴染でもある2人はセレス家を継ぎ、仲睦まじい夫婦になった。
セレス家は代々同門の家の者と婚姻を結ぶそうだ。前子爵夫人と現子爵夫人の生家も同門であり、前子爵夫人は幼くしてセレス家に嫁ぐことが決まっていたのだという。
若くしてセレス家を継いだ当主夫妻は、王都での社交や領地の発展に寄与するべく、いつも忙しく過ごしていた。
家業が落ち着いた頃にアレキサンドライトが生まれ、当主一家は時間を作っては妹夫婦の家に遊びに来るようになった。
アレキサンドライトの祖父母は既に亡く、彼女にとって叔母家族は数少ない親族だった。年に数度の交流ではあったが、アレキサンドライトは従兄弟と本当の兄弟のように過ごしたという。
「アレキサンドライトは派手な容姿ではないのですが人目を引く子で、彼女の周りには自然と人が集まるのです。良く笑い表情豊かなので、見ていて飽きないのですよ。加えて人に優しく、気遣いのできる聡い子なので、彼女はすぐに他人と打ち解けてしまう。彼女のいる場は和気藹々としていて、いつも楽しそうでした」
俺は少し意外だった。
学園での、大人しく目立たない令嬢のイメージとは違うと感じたからだ。
そしてセレス子爵は軽く口を閉じる。
少しの間があいて、申し訳なさそうに話を続けた。
「しかし両親亡き後、この屋敷で再会したあの子は随分と変わっておりました。貴族令嬢として懸命に振る舞い、家人や領民を守ろうと努力した末の、今の姿でした」
久しぶりに会ったアレキサンドライトは別人のようだった。
感情豊かな少女の面影はなく、感情を消して微笑む小さな令嬢になっていた。両親を亡くしてまもないというのに人前で泣くこともできず、子供ながら淡々と葬儀の指示をする彼女の姿は、とても痛々しく見えたそうだ。
未成年の女児では家督が継げないため、アレキサンドライトが叔母夫婦に襲爵を願い出た。
突然のことに戸惑う叔母夫婦に対して、アレキサンドライトは自ら説得した。感情論ではなく淡々と理由を述べる様子に、夫妻は気圧されたそうだ。
さらにアレキサンドライトは葬儀に参列した同門の家長達を同じ様に説得し、セレス子爵家を速やかに引き継げるように自ら差配した。
セレス夫妻の遺児というだけではない、貴族令嬢に相応しい堂々とした振る舞いで大人達を従わせたのである。
そして彼女は全ての手続きを終えた後、平民になるつもりだったという。
セレス子爵は一人残されたアレキサンドライトを、家族に迎えようと決めていたそうだ。
彼女は「セレス家のためになるなら」と養女になることを承知したという。
おそらく彼女は自分が政略結婚の道具としてなら役に立てると考えたのだろう。
当時8歳の少女が、両親を亡くした悲しみも癒えないだろうに、どうしてこのように振る舞えるのか?
俺はセレス子爵令嬢にますます興味を持った。
「セレス子爵、ところでセレス嬢は魔術が使えるのですか?」
俺はさりげなく聞いてみる。
攫われた子供達を何年もかけて探すなんて、魔術師が協力しないと難しいだろう。
しかし子爵によるとセレス子爵家は魔術師の系統ではなく、セレス嬢はおろか、使用人にも魔術が使えるものはいないとのことだった。
「魔術かどうか、詳しくはわかりませんが、以前は使える者がいたそうです。この屋敷の家令で、長くセレス家に仕えていたと聞いています」
「その方は今どちらに?」
「故郷に戻ったと聞いております」
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