婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜

みのすけ

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セレス領にて(ユリウス視点) ②

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だから彼女と話をしたかった。
男装している今夜の彼女と話す方が、俺の知りたいことを確かめられるのではないかと思った。

彼女を引き留めてまで話をして感じたのは、彼女の能力が想像以上に高いということ。

短い会話から推察する力、
優れた状況判断と迅速な決断力、
躊躇わず実行する度胸、
それらを支える合理的な思考。


彼女は間違いなく優秀だ。
こんな人材が学園にいたなんて……シルフィーユが気に掛けるわけだ。


しかも転移魔法まで使えるとは!

魔術師ではなく魔法だけが使える人と会うのは初めてだ。今の王宮魔術師は全員が魔術師の系統の家の出身で、そのうち転移魔法を使えるのは半分くらいしかいない。それくらい魔法を使える人は貴重だ。

セレス嬢本人は探知魔法も使えると言ったが……きっと他にも使える魔法があるだろう。

もしかするとドロール家の隠された別荘で捕らえた男達の様子も、魔法が関係しているのか?彼女が監禁されていた現場だ。

明らかに破落戸とわかる男達が、今は牢の中で背中を丸めて異常に怯えている。錯乱し意味不明な言葉を呟く者も多い中で、皆一様に同じ事を口にする。「扉から出られない」と。
明らかに普通ではない。だが魔術の痕跡はなかった。


彼女がどんな魔法を習得しているのか想像できないが、少なくとも女性が一人で行動できるくらいの腕前なのだろう。

ここで彼女に逃げられてしまったら、もう捕まえられないような気がする……。



そのため俺は彼女の警戒を解くために手札を見せた。他人に腹の中を打ち明けるなんて、なかなかないことだ。

俺らしくないと思うが、彼女相手だと気にならなかった。



そう、俺らしくない。



彼女といると、つい近付きたくなってしまう。彼女のことをもっと知りたくなってしまう。

興味があるから当然かと思うが、今まで女性を避けてきた俺にとっては『らしくない』ことばかりだった。

女性を家まで送ることも、
自分から手を引いて一緒に歩くことも、
自分から触れたくなって手を伸ばすことも、
誰かを追いかけることも。


いつもの自分らしくないことに戸惑うも……彼女と話していると俺らしくないことが全く気にならない。むしろ自然体でいられるような心地よさだ。

どうしてだろうか?

彼女と話していると、
彼女が何を考えているのか
知りたいと思ってしまう。

何を見ているのか、
何を感じているのか、
何を大事に思っているのか、
何を必要としているのか。


今まで様々な人に会ってきたのに、こんなにも興味を引かれたのは初めてだ。


彼女と話して感じるのは、
彼女は感情をあらわにしないということ。淑女教育の末に感情を抑えているのかと思うが、徹底している。

自分の気持ちを口にしても、どこか淡々としていた。
婚約者と友人の不貞に関しても、婚家に入るために卒業を諦めることも、ひどく客観的に聞こえた。
セレス嬢は諦めの境地なのかと思ったが、それも違うようだった。


彼女は物事を俯瞰して見ているようだ。

だからなのか、とても現実的に考える。

だから今回のような結果を導くことができたのだろうか?



また彼女との会話の中で、セレス家の家族に関することには引っ掛かりを感じた。

今の家族であるセレス子爵夫妻と、
兄であるオリバー上級騎士と、
王立学園の幼稚舎に通う弟。

おそらくセレス嬢は彼らのことをとても大切に思っている。なぜなら行動の結果で示している。

学園の噂を広げないように退学したり、
両親のために自分を社交的な緩衝材にしたり、
そして兄には全幅の信頼を置いている。


ならばなぜ彼女は会話の中で、家族に対する思いを直接的な言葉で表さないのか?

たぶん家族を自分の弱味として利用されないようにするためだ。ブロウ伯爵がセレス嬢の待遇を盾にセレス夫妻に迫ったようなことを防ぐために。彼女は同じようなことを怖れている。


貴族は自分の弱点を見せない。隙になり付け込まれるからだ。
それでも家族に対してまで徹底している人は珍しい。身内を溺愛して隠さない老貴族もいる中で、16歳でこんなにもしっかり自己管理できるなんて……。



さらに思いがけない事もあった。

「……クローディア公爵子息が心配される様な、公爵家からの情報漏洩ではありません」
 
今夜彼女が俺に応じたのは、自分の保身のためではなく、俺の疑いが他に向かわないように打ち明けるためだった。
これは予想していなかった。

大胆なことをするのに、繊細なことを大事にするようなアンバランスな感覚。
矛盾するような感覚を内包するなんて、より興味深い。



一方で彼女が危機管理に気を配るのは、大切なもののためだけだった。
自分の保身や身の安全は後回し。自分の事を全く顧みていないようだ。

彼女は自分が狙われている危険を承知していた。わざと攫われる隙を作り、犯人を捕縛させるように動いたようにも見える。
誘拐された事件の影響を感じさせないのは、本人が覚悟していたからだろうか?まさかとは思うが、予め予想していたことだったなら……?


貴族令嬢なのに令嬢らしくない一面といい、何が彼女をそのようにさせたのだろうか?
彼女が変わったきっかけは、両親を亡くしたことだけではないのだろうか?



またセレス嬢への印象が変わる。

夕方に手を引いてセレス領の丘を下った時の彼女と、夜の森で向かい合った彼女。
それは宝石アレキサンドライトのような異なる輝き。

陽の下では緑色、夜の灯りの下では赤色、
どちらにも惹かれて、それ以上に本質を知りたくなる。


俺はあの夜の最後の会話を思い出す。


「知りたいことは、聞けましたか?」


彼女は微笑んだ。
月明かりに照らされた顔が、美しいと思った。
たぶんこの姿は今だけのもの。

儚く、魅力的で、危うい。
近付けば、元には戻れない。


「ああ、ありがとう」


俺の知りたかった答えは得られたと思う。
さらに彼女への興味は深まったけれど。

そして自分でも知らなかった感情まで、抱いてしまったけれど。


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引き続き楽しんでいただけると幸いです。
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