婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜

みのすけ

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セレス領にて(ユリウス視点)①

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「ユリウスが自分から女性に興味を示すなんて珍しいね。良い傾向だよ」

第二王子ライオール殿下が金色の髪を揺らしながら笑う。エメラルドを思わせる碧眼を少し細めて、人懐っこい笑顔を向けてくる。
そして昔から変わらない口調で、俺に話しかけるのだ。

「私達はまだ学生なのに働きすぎだよねー。学園があるから長く休めないけど、できるだけゆっくりしてくるといいよ」

ライオール殿下とは同い年のため、幼い頃から遊び相手だった。
側近となり主従関係になった今でも、殿下は「気心知れた仲だから」と何かと揶揄してくる。


王族が王立学園に在籍する場合、自治を学ぶために生徒会に入ることが慣例となっている。生徒会長である殿下は、生徒が事件に遭ったことに心を痛めていた。

「セレス嬢のその後の様子が心配だ。ユリウス、頼むぞ」

ライオール殿下に許可をもらい、転移魔法で飛ぶ。
転移先で公爵家の護衛騎士と合流し、馬でセレス領に入った。



セレス領は大きな街道から離れているので、王都から馬車で一日圏内という好立地でありながら長閑なところだった。

酪農が主で目ぼしい産業がなかったが、近年紡績業で成功し、王都へ販路を得てから税収増が著しい。

我がクローディア領はセレス領の東隣だが、俺がセレス領を訪れたのは初めてだった。




領内に入ると傭兵に呼び止められる。
セレス領に侵入したドロール家の残党を捕縛した傭兵集団だろう。

俺の身分を明かしたら隊長らしき男性が出てきて、俺の顔を見てにやっとした。

「呼び止めて失礼した。どうぞお通り下さい」

「貴殿がセレス子爵に雇われた護衛の隊長か?賊を捕らえたそうだな」

「まぁ、嬢ちゃんに頼まれたからな」

話ぶりからして、セレス子爵令嬢と懇意にしているようだ。彼女とどういう関係なのか気になったが、隊長ははぐらかして去ってしまった。



領主館に行き用件を伝えると家令が対応した。
予想通り「お嬢様への面会は取り次げない」とのこと。

いつなら面会が可能か尋ねると「お嬢様は外出していて判断を仰げない」と答えた。

外出できるくらいに気持ちが回復したのなら、一安心かもしれない。

さらに聞けば、侍従も連れずに一人で外出したという。「お嬢様は昔からそうでして」と家令も苦笑していた。


一人で外出したと聞き、セレス嬢は前子爵の墓参り行ったのではないかと思った。今日は前子爵夫妻の月命日だと把握していたが、セレス嬢の行き先に確信はなかった。

俺は一旦護衛と別れ、領内の教会に一人で向かう。領主館に到着するまでの道中で、教会の位置は把握していた。


だがセレス嬢は教会にいなかった。

教会を出て裏手にまわると墓地があり、一カ所だけ花が添えられているところを見つける。
墓石を確認すると前セレス子爵夫妻の名が刻まれていた。俺はセレス嬢がここに居たのだと確信する。

今は近くに人影は見当たらない。
彼女に会えるかと思ったが、少し遅かったようだ。


彼女なら、この後どうするだろうか?


最近セレス嬢のことを良く考えるので、彼女の思考を追ってみたくなった。合理的な思考なら、ある程度推測が可能だ。

彼女は領主館に戻るか、あるいは彼女にとって落ち着ける場所に行くか….…?

俺は見晴らしの良い場所を探して移動する。そして辿り着いた先に、彼女を見つけた。


久しぶりに見た彼女は、今日も質素な装いだった。だが長い黒髪が風に靡いて、遠目にも存在感がある。

俺が声をかけると深い緑の瞳が驚いたようにこちらを見たので、なんだか嬉しくなった。

彼女と並んで歩く。女性は歩幅が小さいのだなと改めて気付いた。

彼女との当たり障りのない会話も楽しい。

誘拐された影響で人を怖がるかと思ったが、今のところそれを感じさせない。無理して振る舞っているのかと注意して観察したが、どうも違うようだ。

俺はもっと彼女のことを知りたいと思った。

しかし彼女は巧みに悟らせない。
そのため俺はとっておきのカードを切ることにした。


「クローディア家が前子爵夫妻殺害の犯人ではないと考えたのはなぜ?」


瞬間、彼女の纏う雰囲気が変わる。

例えるなら動物が毛を逆立てるような警戒感。

しかしながらそれは一瞬のことで、直ぐ様、元通りに収める。


そこには目立たない子爵令嬢がいるだけだ。

俺から見ると、彼女は老成した貴族の様だった。先ほど自分に生じた微かな綻びを、一瞬で修正してみせた。年下とは思えない。


俺は宰相の息子として、様々な貴族に会う機会があった。特に王宮は伏魔殿で、感情を隠して腹の探り合いをするのは日常茶飯事。
貴族は感情を御せて一人前、僅かに動揺しても老成する程に悟らせない。


俺が出したカードは強手で相手の警戒感は上がってしまった。
彼女は次にどう動くだろうか?


幾つか選択肢を思い浮かべて待つと、あろうことか想定していたギリギリの積極的な選択をした。

『知らぬ存ぜぬで通す』のではなく『他所に身を隠す』選択だった。

大人しい令嬢のすることではない。
しかも行動が早すぎる。

俺は転移魔法で彼女のところに飛ぶ。
昼間会った時に、念の為マーキングしておいたからできたことだ。


転移先の森で会った彼女は男装をしていた。女性的な身体つきをローブで隠せば、まさに少年の様に見える。

顔が整っていて中性的なのだ。


あまりに似合っていて違和感がなく、マーキングしていなければわからなかったかもしれない。

身のこなしも様になっていた。
何というか『慣れている』。
たぶん初めてではないのだろう。

一人で行動することも、
男装することも、
森にいることも、
転移魔法を使うことも、

俺の知っている『貴族令嬢』とは全く異なる一面。


俺は彼女を確かめたくなった。
自分が考えたような人物か、
自分が予想した通りの能力があるのか、
何を隠しているのか?
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