婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜

みのすけ

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婚約破棄?その言葉待っていました!

夜会(裏)①

大広間の煌めくシャンデリアは会場を隅々まで照らし、磨き上げられた床は光を冷たく反射する。その明るさで今が夜であることを忘れてしまうほどに。
だが眩しい程の明るさに、陽の光のような温かさはない。降り注ぐ人工的な光は、影を濃くする。

微笑み合う人々を照らし出す一方で、その下に隠した醜悪さを浮かび上がらせるようだ。


「貴方、ユリウス様とどういうご関係ですの?」

私が学園の級友たちと歓談していたところ、突然後ろから声を掛けられた。

振り返ると、ピンク色のチュールを重ねたドレスに身を包んだご令嬢がいた。隣には黄色のプリーツドレスを着たご令嬢と、水色のシフォンドレスを着たご令嬢が控えている。

敵意を隠さないなんて、用件がわかりやすくて助かる。

「麗しいご令嬢方にご挨拶申し上げます。私はセレス伯爵家が娘、アレキサンドライトと申します。失礼ですが、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

私は丁寧に挨拶することを心掛ける。立場が下の者から名乗るのがマナー、たとえ相手が伯爵家の方でも、昇爵したばかりの我が家の方が立場は下だろう。

「ユリウス様とどういう関係なのか聞いているのよ!」

相手は名前を教えてくださらないようだ。どの家の方か把握しているから別に困らないけど。

「貴方様にはどのように見えますか?」

私は微笑んで、敢えてピンクのチュールドレスのご令嬢に問いかける。

「家の後ろ盾になって下さっているだけでしょう?調子に乗らないでよ!」

すると黄色のプリーツドレスのご令嬢がズバッと言う。この方は口調がきつい。でも乗ってくれてよかった。

「ご指摘の通りですから、私から申し上げることはございません。失礼致します」

私はカーテシーで礼を取る。これで場を辞しても失礼にはならないだろう。

「ちょっと!話は終わっていないわよ!」

黄色のプリーツドレスのご令嬢が焦ったように返してくる。私は扇を広げて口元を隠した。

「貴方方がクローディア公爵子息をお名前で呼べる関係なら、私から申し上げることはございません」

「それはっ……ちょっと待ちなさいよ!」

「ぽっと出の傷物相手に何を焦っていらっしゃるのかわかりませんが、どうぞ自信をお持ち下さい」

私は目礼してその場を去る。相手は言い返して来なかった。

このくらいで済むなら可愛いもの。あの令嬢達の力では、セレス家に圧力をかけるまでには至らないだろう。


警戒すべきは実質的な力を持つ者達だ。


此処は華やかな戦場だ。
情報戦の最前線、今日この一時で隆盛が決まってしまうことすらある。


「貴重な……出し惜しみするなんて……」

耳に入ったのは貴族夫人の誰かの声。決して大きな声ではない。しかし相手を貶めようとする響きがある。

「それは……」

母の困惑した声を耳にし、私は方向転換して歩を進める。

「それとも相応しくないからなのかしら?だって継母なのでしょう?」

一様に扇を広げて口元を隠している複数の女性……あれは古い伯爵家のご婦人方だ。私は迷わず踏み入れる。


「お話中、失礼致します」

そして私は自分にできる最上の礼を執る。



✳︎



「お母様、申し訳ございませんでした。歓談中に割り込むような真似をして」

私は母に素直に謝罪する。年上の方のお話に割り込むのは褒められたことではない。

「いいのよ、レイ。貴方が無理をしていないのであれば……」

母は優しく私を慰めてくれるが、半分は呆れているかもしれない。場の話題を勝手にすり替えた上、終いには母を連れ出したからだ。

「お母様こそ、ああいう方々と無理をしてお付き合いをなさらなくても大丈夫ですよ」

母を蔑む時に『継母』や『相応しくない』と言う輩は大概あの話題を出す。そういう人と付き合う必要はない。

「そういうわけにもいかないわ。同じ伯爵家の方ですもの」

母が半ば諦めたように言うので、私は扇を広げて口元を隠し、母に顔を寄せる。

「大丈夫ですよ。あの方々はこれから忙しくてお目にかかる機会も少なくなるでしょうから」

母は少し驚いたように目を見開いた。

「そうなの?ならば今日ご挨拶できて良かったわ」

「はい」

母のホッとした顔を見て私もホッとする。

近々あのご婦人達のお家の中が少し騒がしくなって、ご本人は社交どころじゃなくなるだけだから。




私が商人と懇意にしているのは、事業のためだけではない。彼らは情報を扱うプロでもあるからだ。

貴族は大なり小なり商人にお世話になっている。特に王都にある貴族家は日用品から高級品まで、商人が卸している。
そのため取引のある家に頻繁に出入りすることから、商人のもとへは情報が集まりやすい。貴族の愛人や隠し子、お家騒動や不法行為の揉み消しなどのスキャンダルまで。

貴族の家の中には、他家を探るために諜報要員を抱えるところもあると聞く。しかし我が家にはその様な余裕がないし、使用人達に危ないことはさせられない。

そのため取引を通じて、商人から力を借りる。

何かを成そうとする時、情報は不可欠だ。信頼性の高い、鮮度の良い情報。だから商人や商会とのやり取りの場に、私はなるべく立ち会うようにしている。

もちろん彼らにメリットがなければ取引は成立しない。そのため商談に時間をかけてでも、双方の落とし所を探す。

今回は商会に利のある取引を持ち掛け、祝賀会前に貴族家の最新情報を入手した。それを元にすぐ手を打てる。

このことを母は知らない。

知っているのは父と王都の屋敷の家令だけ。この地盤を父と家令に引き継げば、セレス家の王都での事業を全て父に任せられる。セレス領の事業は既にモランに任せてあるから、私が家を出る準備も順調だ。



✳︎



先程のような言い掛かりもどきは置いておくとして、セレス伯爵家は予想よりすんなりと受け入れられているようだ。養父母の人柄のおかげだろう。

もしくは先刻まで子爵家だったからか、少なくとも脅威ではないと思われているようだ。


「セレス様、少しよろしいですか?」

ご令嬢の輪に加わり微笑んでいた私に、王宮の給仕の制服を着た男性が小さく声をかけた。

私は丁寧にご挨拶をしてその場を離れる。給仕の男性は周りの目を気にしながら、小声で言った。

「弟のクリス様から、お姉様を呼んできてほしいと……」

確かに、クリスの姿は大広間のどこにも見当たらない。

「まあ、教えていただきありがとうございます。それでどちらに……?」

私は彼について会場をそっと抜け出した。

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