竜人になった使い魔

蓼食う虫も好き好き

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第一章 出会い

1話

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この世界は4つの大陸に分かれていた。アーシャス大陸、ユーラシル大陸、ノースタリダム大陸、イスカンダ大陸である。ノースタリダム大陸は資源に恵まれており、多くの国に無数の炭坑がある。その中でも、とても小さな炭坑で事件が起きたのであった……。

「ドカーン」

炭坑から爆発音とともに真っ黒な煙が噴き出し、炎が噴き出した。
炭坑の出口からは炎に包まれた人間が走って出てくる。
その光景はまさに地獄だった。
肉が焼ける匂い、絶叫と悲鳴が轟き、辺りは混沌としていた。

その異様な光景は内なる恐怖を掻き立て、運搬用の手押し車から手を放してしまった。手押し車が倒れると中身の石炭は散らばった。目の前の恐怖でその場にとどまることができず、走り出した。何も考えずとにかく走った。

近くにいた人間も走り出し、炭坑から逃げ出し始めた。
それを見ていた大男の兵士が剣を抜き叫んだ。
「お前たち、逃げるな!」
その声は響き渡ったが誰も足を止めない。

坂を駆け下り、森の中に逃げ込んだ。
とにかく走った。息は荒くなり、ボロボロの靴に肌着同然の服だったが構わず走った。
奴隷の身で炭鉱夫になってから、逃げ出す最大のチャンスだった。

ここがどこなのか、町は近くにあるのか、兵士が近くにいるのか全く分からなかったがとにかく森の獣道を走った。少し考えれば、土地勘のない森の中を走って逃げたところでいずれ兵士につかまるのは時間の問題だった。例え逃げられたとしても、森の中で生きていく術はなく、危険な獣やもっと恐ろしい魔獣に襲われて命を落とすのは目に見えていた。

どれくらい走ったのだろうか。
周りの景色は生茂った木々に囲まれていた。朝明けだった太陽は夕暮れ時になり、辺りは薄暗い。
草は膝元まで伸びていて、起伏の激しい道中で残り少ない体力はほとんどなくなっていた。
息が苦しく、もう足を動かすことすら必死でフラフラしながら歩いていた。
登り斜面を必死に上っていくと、正面から木洩れ日がさしている。
その先に開けた景色が見えそうだった。確信があったわけではなかったが、当てもなく森を彷徨っていたため開けた場所に出たかった。空の体力を振り絞り上っていく、足の感覚はほとんどなく棒のように地面を蹴っていく。
だんだんと木々が少なくなり、ところどころ岩肌が見え夕焼けに染まった空が見えてくる。
もう少しと自分に言い聞かせ、登る。

木々がなくようやっと開けた場所にたどり着くと前方は急斜面になっており一面の空が見え、綺麗な夕日が目に飛び込んでくる。今まで張りつめていた緊張が和らぐ。
最後に前に出した足を岩肌に乗せようした時、足の裏についていた泥で滑り、前方にバランスを崩してしまう。
バランスを必死に戻そうとしたが、どうにもならなかった。
急斜面に体がたたきつけられ勢いが衰えることなく転げ落ちていく。四肢に激痛が次々と襲い、天と地が引っ切り無しに切り替わる。
勢いそのまま転がっていくと四肢の激痛がなくなり体が宙に浮いた。

その瞬間、死を覚悟した。

目に映る天地はグルグル回り、景色など認識できない。ただ体だけが、宙に放り出され落下していくのを感じていた。長かったのか短かったのか、どれくらい落下していたかはわからないが次の瞬間背中に激痛が走る。
「グチャッ」
何かがつぶれるような音がした。
体中に真っ赤な血を被り、何が起きたのかわからなかった。
辺りを確認しようと顔についた血を手でぬぐおうとした時、全身の血流が沸騰するよう感覚に襲われた。
そして、血液が頭めがけて昇っていくのを感じ、ものすごい頭痛と嘔吐感が襲った。まるで、頭の中を素手でこねくり回されているような感覚でとても耐えられるものではなかった。地獄のような痛みに涙があふれ、両腕で頭を抱えた。そして、ただただ心の中で助けを求めた。そうすると、首に焼き付けられるような痛みが走ったが徐々に頭の痛みと嘔吐感が消えていった。

顔中血でべっとりで、目が見えなかったが、どこからか若い女性の声が聞こえた。
「嘘でしょう」
その言葉にどのような意味があるかわからなかったが、その声の主が誰なのか気になり、顔についた血を手でぬぐい、得体のしれない生物の上で立ち上がった。
そこには地面に座り込んでしまった少女がいた。少女は紺色のローブを羽織っており、ローブの下には絹でできている白い上着と膝丈まである紺色のスカートに黒いタイツを履き、上品な皮でできた靴を履いていた。
「どうしてこんなことに…」
少女の黒い瞳は落胆していた。しかし、こちらと目が合うと眉を細め目つきは鋭くなり、勢いよく立ち上がった。黒くサラサラした髪をなびかせながら、足取り荒くこちらに近づいてきてこちらの手が届きそうな位置まで来ると歩みを止めた。

「あなた何者!!」

少女の声なので、凄味はないが怒り満ちた声はこちらを委縮させる。そして、説明しようにも、先ほど炭坑から脱走してきた奴隷などと口が裂けても言えない。
相手の服装を見ればどう見ても身分の高い者に見える。なぜ一人でいるかわからないが、下手したら貴族かもしれない。しかし、この場で嘘をついたとしてもお腹につけられた奴隷の焼き印ですぐにばれてしまう。嘘をつくのは得策ではないが、真実言うわけにもいかない。
うまい解決策がなくそのまま黙り込んでしまった。

「早く答えなさい!!」
少女は怒り狂ったような大きな声で返答を催促する。何年にもわたる奴隷生活で染みついた行動は条件反射のように真実を喋らされてしまった。
「ど、奴隷です」
なんとも情けない回答だった。骨の髄まで奴隷根性が染みついてしまっていた。

「そんなことを聞いてないわよ!どうして、あんたみたいなのが空から降ってくるのよ。それも儀式中に!どうして?!なんで?あなたもしかして、私の邪魔をしようとしたの?まさかアルバート家の回し者?それとも、私を狙った暗殺者?ちゃんと答えなさい!!」

彼女の質問に答えたはずだが、どうも望んだ答えになっていないらしい。
彼女も状況が分からず、パニックになっていることだけは理解できたが彼女の間髪入れない言葉に思考が回らない。頭が真っ白になり、また黙ってしまった。
「そう、答えないなら……」
彼女はそういうとローブの内側から短い棒状の杖を取り出し、喉元に突き付けられた。
「あなたの首から上吹き飛ぶけど構わないかしら?」
とても少女が発するとは思えない物騒な言葉で脅迫される。もはや一刻の猶予もなかった。
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