竜人になった使い魔

蓼食う虫も好き好き

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第一章 出会い

2話

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「ほ、本当にただの奴隷です。崖の上で足を滑らせて落ちてきたのです」
彼女をまっすぐ見ながら両腕を上げ、右手の指で上を指し、必死に回答をした。
こちらの回答が彼女の予想してないものだったのか、彼女は目が点になり、その場で固まってしまった。しかし、次の瞬間彼女はお腹を抱えて笑い出した。
「あはははは、崖の上で足を滑らせて落ちてきたですって、なにそれ、私を馬鹿にしてるの?」
彼女は笑っているが、目が笑っていない。言葉にも強い怒りを感じる。
彼女は笑うのをやめると、喉元に突き付けている杖をさらに前に突き出しながら、すごい剣幕で怒りをぶつけて来た。
「どんな偶然よ。この瞬間、今まさに儀式が終わる瞬間、天から、空からあなたが降ってくるのよ」

彼女は喉元に突き付けている杖をおもむろに下に向けていく。
「あなたの足元を見て」
彼女は声のトーンを下げて言った。
ゆっくりと下に向かう杖を目で追い、足元を見るとそこには大の大人と同じぐらいの大きさがある赤いトカゲのような死体があった。その上に乗かっていたことが分かり、慌てて飛び降りる。彼女に言われるまで、まったく周りを見る余裕がなかった。

「この生き物は……」
初めて見る生き物だった。大きなしっぽに赤いうろこが夕日に照らされ輝いている。
「サラマンダーよ」

サラマンダー、小さいころ魔獣大図鑑で読んだことがあった。
四大精霊の使いと評され、火を司る精霊の化身といわれる魔獣である。数十メートルの体格に分厚い赤いうろこで覆われており、うろこ自体に魔力が宿り魔法耐性もある。火袋という器官から魔力がこもった灼熱の炎を吐き出し辺り一面を焼け野原に変えてしまう。そのすさまじい攻撃力は戦争に利用され、戦略兵器として軍事利用されている。

しかし、目の前にある生き物はサラマンダーに比べてあまりにも小さく、うろこも柔らかい。
「この生き物がサラマンダーなのですか?」
彼女に向かって訝しげに問う。
「そうよ、この子はサラマンダーの幼体。この子を使い魔にするために、半年間探し続けこんな森まで来て、ようやく動けなくさせたのよ。そして、今まさに契約を結ぶ儀式の最中だったの。それがどうして……」
彼女はまた怒りが込み上げてきたのだろうか、手に持つ杖の柄をギュッと握り締めながら言う。
「あなた本当にただの奴隷なの?」
彼女は杖をまたこちらに向けて、今度は静かに問いかけてくる。

ここで回答を間違えればたぶん死ぬだろう。だが、奴隷だと確実に証明する方法はある。血がべっとりとついた服をめくってお腹を彼女に見せた。
「これが証拠です。見てください」
痩せこけた体で好き好んで見せるものではないが、なりふり構っていられなかった。
彼女は焼き印されたお腹をまじまじと見ていた。
「犯罪奴隷ね」
頭から血の気が引く。軽率だった。焼き印の形を見ればどんな奴隷かわかってしまう。借金の肩代わりになる借金奴隷、戦争で負けて連れてこられた戦争奴隷、そして犯罪をおこなってなる犯罪奴隷…。奴隷の中で一番印象が悪い。

「イスカンダ大陸から仕事を求めて、ノースタリダム大陸に来たのです。お金がなく密航したため捕まって奴隷として働いていたのです。信じてください」
手に汗を握りながら必死に懇願した。その瞬間、首筋じりじりと焼かれるような痛みに襲われる。
「う、ぐあ」
痛みでうめき声が出て、その場で膝をつき首筋に手を当てながら蹲る。
「本当のことを喋った方が良いわよ。そうしないとあなた多分死ぬわよ」
彼女が何をしたのかわからないが、首筋の痛みは尋常じゃなかった。
「密航したのは本当です。国から逃げるためでした」
彼女がどうして嘘が分かったのかわからないが、正直に話すと首筋の痛みは消えた。
「そう」
彼女は無表情で一言いうと、杖を下ろした。正直すぐに殺されると思ったが、そうでもないみたいだった。ゆっくりと顔を上げ、座ったまま彼女の方を向いた。
「あなたはどれだけの事をしでかしたか理解している?」

彼女の質問の意味が良くわからなかった。わかっていることは自分が崖から落ちて、落ちた先に彼女が使い魔にしようとしたサラマンダーが居て、殺してしまったことだった。
「サラマンダーを殺してしまったことですか?」
彼女の顔色をうかがいながら答える。

しかし、彼女は眉をしかめて、ため息をつきながら言う。
「こんな悪夢みたいなこと初めてよ。この指輪を見て」
彼女は左手を前に出し、左手の中指につけている指輪を突き出した。突起している部分はなく、銀でできており、中央には赤い宝石が埋め込まれていた。

「この指輪は魔獣を使役するために特別に作られたもの。但し、一度使ってしまえば黒い宝石は使い魔の血と同じ色になり二度は使えないわ。これ一つで国が傾くほど貴重なものよ。あなたが一生かけて働いても絶対に手に入れることはできない」

彼女は反応が鈍いのを見て、不愉快そうな顔になった。

「良い? こういえばわかるかしら。これ一つであなたみたいな奴隷を何千人と雇えるわ。ただの奴隷のためにわざわざ使い魔の指輪使って、言うことを聞かせようなんて誰も考えない。これを手に入れたら、四大精霊の化身を使い魔にしようと皆躍起になるわ。それなのになんで……。最初はサラマンダーが使い魔になったと思ったわ。でも、あんたが落ちてきた後、サラマンダーから全く魔力を感じなかった。使い魔が死ねば宝石は壊れる。でも壊れてない……なんであんたみたいな奴隷を使い魔に……。こんなの悪夢以外の何もでもないわ」

彼女の落胆と怒りが伝わってくる。そして、自分が矮小で取るに足らない存在だということを今一度認識させられるのであった。
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