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Blue Earth 07
しおりを挟む「3年前に撃ち殺して、狩ってきたアンドロイドを転がして…俺は親父が撃たれるのを見て、それで守ろうとしてそのアンドロイドを撃ったって…」
意外に呆気なく事件は片付き、ソウは政府の児童保護施設に住む形になったらしい。実のところ、平和な都市なんて表向きで、裏ではいくらでもアンドロイド絡みの――そうでない事件も起こっていた。ただ政府の情報管理が厳しいから外に漏れないだけだ。
「そもそも俺の親父じゃない…あいつは」
「え?」
「俺は多分6つの時に遊園地で…あいつに攫われたんだ。それで…そのまま実子として育てられた」
「そんなの…! なんで黙ってたんだよ!」
「言ってどうなる。誰がそんな話を信じるんだよ。酷くなるだけだ…」
「そんなことないだろ!? だって捜索願いとか」
「俺も何もしなかったわけじゃない、ハル。本当に機密な情報でなければ政府の管理データにハッキングするくらいは出来る。その為にコンピュータに強くなったんだ、俺は。それしか頼れるものが無かったからな。…今のポリスは形だけだ。本来の目的の為に機能しているケースなんて…むしろ少ないくらいなんだよ。政府に利益の出ない予算の使い方はしないってわけだ。捜索願いはすぐに取り下げられていた。死んだことにした方がポリスが楽だからさ。帰る場所が無ければ、そこに居るしかない。誰を信じればいいのか、俺には判らなかった」
ソウは乾ききった笑みを口端に浮かべて言った。すべてを諦めている瞳だ。
「幼かった頃には所謂、ストックホルムだったんだ。けど俺が成長するにつれて…扱いが酷くなったんだ。趣味じゃなくなったんだよ。最後のほうはもう…セックスですらなかった…あんなのは…ただの拷問だ」
次の子供を誘拐する前に、俺が殺したんだ。
話はそこまでだった。
ソウがそんな過去を抱えていたことに、僕はまるで気付かなかった。
ソウはなんでもできて、誰からも好かれて、何もかも完璧だった。一体どんな育ち方をすればそんな風になれるんだって、何度言われてきただろう。ソウはクラスメイトや教師からもよく声を掛けられて、周りにはいつも人が居た。
だけど裏腹にソウがどんな家に暮らしていて、どんな生活をしているのか、みんな知らなかった。
誰だってソウと仲良くなりたかったのに。
だから本当は、僕も少し、いい気でいたんだ。ソウが”友達だ”って言うのは僕だけだったから。そう、つまり調子にのってたってわけ。バカだよな。何が友達だ。”その他大勢”よりタチが悪い。失格だ、僕は。きっと一番ソウの近くに、居たのに。
「ソウ、ごめん… 僕…なにも」
僕はどうしようもなく遣る瀬無い気持ちが渦巻いて、どうにもできなくて、だからやっぱりまたソウを抱き締めた。
そんなことで埋まるものなんて、なにもないのに。
「なんでお前が謝る… 俺は犯罪者だぞ…しかも殺人だ。謝るなら、黙ってた俺だ」
「そんなの…罪じゃない…」
罪じゃないよ。
ほとんど呟くようにそう漏らすと、ソウはそっと僕の背中に手を回した。微かな、とても静かな体温だ。いつだって存在感がある、目立つ人なのに、こんなに果敢無い。でも本当は、僕はそれをいつも感じてた。理解していなかったのだ。たしかに感じて、いたのに。
「ねえ、ソウ。どんなことがあっても僕が護るよ。僕はバカだし、ソウがいないと何もできないけど、でも、絶対護るよ…今度は僕が、護るよ」
今まで誰もソウを護らなかった。誰も盾になってくれなかったんだ。ソウはひとりで生きて、ひとりで全部を終わらせてきたんだ。なんの説得力もなくても、僕は、ソウのために盾になりたいと想った。きっと、ひとりになんかしないと。したくないと。
「やっぱり、バカだな。ハルは…」
「そうだよ…ソウがいないと…僕はまともに動けないんだから」
だから腕に閉じ込めたささやかな体温を、絶対に離したりなんかしない。
この細い身体の中に、言葉にならない全てを詰め込んできたんだってことが、触れたところから流れ込んでくる気がした。
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