グリムキラーズ〜失われし童話〜

アリエッティ

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迷いの森

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 この世界は変わってしまった。
混沌に満ち、空の青すら失ってしまった。
海ですら山ですら、自然の快適を無くし息絶えた。

それは森でも同じ事..。

『ヴォヴオ..ヴオオッ!!』

「..ちっ、ライカンか。」
木々の隙間から弾丸を放ち迫る獣を撃ち倒す。一体を落とそうと二体、三体目が牙を爪を突き立て向き寄ってくる。

「バァさん一人じゃ物足りないか?
..話したところでわからんだろうがな。」
森で人を喰らう狼男、元は彼らも人だったのだろうが面影は無し。顔はモノを言うと聞くが皆が獣に成り果てば区別など無い、ただ人を喰らうだけの化物である

『ヴオォ!!』「ちっ、前からもか。」
背後のを一体葬ったと思えば前方にも一体、しかし少しおかしい。ライカンはこちらに背を向けている

「なんだアイツ。
上の空だとしてもあんな余所見は....なんだと?」
ライカンの傍らに、うずくまり震える少女の姿が。

「最初から目的は俺じゃないってワケか。
..まだ人間が残っていたとは驚きだな」
目の前のライカンに銃口を向け弾丸を放つ。音を立て頭に命中し倒れたのを確認すると、そのまま立ち止まる事なく少女の手を掴み森を駆ける。

「ちょっ、何処行くの!?」

「まだ連中が追ってきている、身を隠せる場所まで我慢しろ。大体何でこんな森の中に居る?」

「…私の家なの。」

「家だと?」
俯き悲しげな表情で言う。何か訳有りなのだろうと察したが今は獣達から逃げる事が先だ。

「...あの草木の影に隠れるぞ!」
大きく生い茂った樹木と雑草の壁を見つけた。あそこに隠れればどうにか目を眩ませそうだ。

「……大丈夫そうだ、漸く休めるな。」

「本当に大丈夫なの? こんな場所で..」

「奴らは脚が速く、力も強いが頭が悪い。
少し工夫をすればどうにか隙は生まれやすい」
慣れた素振りで軽快に話す。昨日今日戦いを始めた様子では無さそうだ。

「あなた何者?」

「.....戦い方は随分覚えた。
狼男や悪魔は銀の弾丸、ミイラは火が有効だ。初めはまぁ戸惑うが、慣れてしまえば大概はどうにかなる」
質問を無視して独自の解答をしてやり過ごす。
詳細を教えたくは無いのだろうか、己の素性は話さなかった。暫く間を開けぼそりと一言、追加で教える。

「……ジョンだ。」

「..そう、私はグレーテル」

「グレーテル?
...成程、お前も結局〝被害者〟の一人か。」
聞けば随分前にはぐれた兄を探していると、しかし森の周りはライカンばかりで身動きが取れない。意を決して外へ飛び出し襲われていたところをジョンに救われたそうだ。

「..無謀な事を、だがこれで機会が出来た。
直ぐにこの森を出るぞ、もう兄はここにはいない」

「わかってるわ、だけど無理なの。
この森からは...出られないの!」

「…どういう意味だ?」
グレーテル曰く、何度か危険を承知で森を出ようとした事があるらしい。しかしとある箇所に差し掛かると元来た道に戻され、抜け出す事が出来なくなるらしい

「迷路のように、同じ道に戻ってるの。
どの道を進んでもよ? 一度来た道の入り口に戻る」

「影響はライカンだけじゃ無いらしいな。
その道に案内してくれ、出口を見つけ脱出する」

「そんな事、出来るの?」

「やらなければ、お前の兄も戻らない。」
迷路に敢えて迷い込み進路を見出さなければ森の呪縛は解かれない。

「..わかったわ、来て。」
ライカンに警戒をしつつ、迷路と化した森の奥へと入っていく。

「…霧が深いな。」
入り口と思われる植物の壁にぽっかりと空く大きな穴の周囲には、深く視界を遮る霧が。まるで穴の中の連中が〝中へ入るな〟と諭しているようだ。

「前にはこんな道はなかった、こんな植物の壁も。この先は平らな道で、街へと繋がっていたわ」

「思ったより影響を受けているらしいな、行くぞ。
より一層この先に進む理由が出来た」
穴の中へ入ると十字の道が広がっており、元きた道を合わせると四つの進路が存在している。

「霧がより酷いな、道を誤魔化しているつもりか。
先へ進んだら道筋は変わるのか?」

「..少しだけ進んだ事があるけど、幾ら進んでもこの十字路のまま。霧もずっと深いままで進むのを諦めて元の道を戻ったら穴から出られた。」

「成程な、出られないというよりは〝進めない〟といったところか。」

「途中まで案内するわ、といっても本当に初めの方だけど。..兄さんを探すつもりはあったのよ?」

「わかっている、わからない道は誰でも躊躇する。それよりも疑問なのは〝兄がこの道を抜けられた〟という事だ。」
暫く街には立ち寄らず、兄が失踪するより以前にこの道が出来ていたとするならば、グレーテルの兄は自力でこの森を抜けた事になる。

「私が進んだのはここまで」

「充分だ。」
十字の道を右、上と進んだ入り口から数えて二段階目の進路。景色は変わらず霧の十字路、特段変わった箇所も無く前に進んだ気配も無い。

「一応は二度前に前進したのだがな、これで正しい道を歩んでいるのかすらわからん。」
わからないのも無理はない、元々森に住んでいて慣れ親しんだグレーテルですら理解出来ない難解な道だ。

「..取り敢えず、光を灯すか。」
ふざけた顔の彫られた小さなカボチャにナイフを突き刺す、カボチャは黄色く輝き光を放つ。

「何それ?」

「どこぞの魔女からくすねた玩具《おもちゃ》だ」

『…グエッ..!』
おかしな声を上げカボチャが放つ鋭い光は、迷路の霧を一層し掻き消した。

「...そこか」
カボチャに刺したナイフを左の進路の方へ飛ばすと何かにヒットし、遠くで小さく音を立てる。

「ひっ、や..やべぇっ...!」 「え..何?」
音のした方へ近付くと、長い帽子に白い口髭を蓄えた小さな人間が震えながら木にしがみついていた。

「おじ..さん?」

「小人だ、先ずは一人というところか。
おい、他の六人はどうした」

「し..知らねぇっ!!」

「言え、ここに閉じ込められたいか?」
シラを切る小人に銃を構えて更に問いかける。

「はっ、騙されるかよ..!
その銃は狼用だろ? 銀なんか俺には効かねぇぞ!」

「何を云ってる?
狼用に銀を装填しているだけだ、撃てる銃弾は幾らでもある。勿論お前を狙う手段もな。」

「..ちっ、わかったよ。観念するよ」
最早敵わないと頭を下げながらお手上げの態度を見せ力に屈する。

「訳有り..みたいですね」

「おお、あんたグレーテルか。よく森を歩いてるのを見かけてた。俺たちだって、この森をどうにかしたい訳じゃないんだ」
話を聞けば、彼らは〝とあるもの〟を隠す為に森を迷い道にする必要があったそうだ。

「霧で隠れて来た人を惑わして出口とは違う道に誘導させる、そうやって森から出さないようにしてんだ」

「七人の小人が必死に守るもの..眠れる森の美女か」

「そう、だがあの日から彼女は変わってしまわれた。
王子の力で目覚めたはいいが、心は強く歪んでしまったのだ。」
童話の歪みが森に生まれた。本来ならば王子の力で目覚めた彼女は幸福に笑う筈だった。

「何故そうならなかった?」

「目の前で王子が死んだんだ、マレフィセントに殺された。しかしおかしい、確かにあの魔女は残忍だったが、人を殺める奴じゃない。そんな安易で頭の悪い事をするような女じゃない筈なんだ」

「マレフィセントか、確かに崇高な魔女だ。
..まさか奴にまで影響が及んでいるのか?」
善も悪も見境無く侵食する謎の歪みの力、一体何処から湧き出る魔力なのだろう。

「あなた達は何故迷わずに道がわかるの?」

「俺たちも初めはわからなかった、何せ美女様が無理矢理つくった道だからな。わかる訳無ぇ、そこで鍵になったのがこれだ。」
小人が手元で見せたのは小さなパンクズ、食パンのようなものを更に小さく刻んだような四角状のもの。

「これが落ちてる道を辿って進んだら美女様の元へ辿り着いたんだ、それから俺たちはこのパンクズを一つずつ持って他の奴が出れねぇよう道を塞いでんだ。」

「そのパン...!!」

「..間違いないな。
道を教えたのはお前の兄、ヘンゼルだ」


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