不死の妖

アリエッティ

文字の大きさ
3 / 11

狼狽える事無きけだもの

しおりを挟む
 少し、違和感は感じていた。隊士の数は目に見えずとも気配で分かる。人数や位置に至るまで大概表面的な上澄みの感覚ではあるが理解出来る。

「..何処かへ消えたうちの一人か、何があった?」

「わからねぇが、タダじゃ済んでねぇだろうぜ。
お前らは先に小屋の中へ入っていろ!
念のため用心をしろよ、常に警戒を忘れるな!」

「御意!!」
副隊長が威厳を示し残りの隊士に促す。戦闘力としてやはり隊士が減るのは痛い、皆剣の腕は確かの侍達に他ならない為に強い信頼常に置いているが野放しにすれば平然と油断しかねない。咄嗟の判断となれば、いつでも人数の非合理性が仇となる。

「早助、解るか?」

「..ああ」
何かが来る、重く強大な鈍い力が徐々に近付いて来るのが分かる。

「構えろ」「わかってるよ。」
足音が一歩ずつこちらへ、ゆっくりと姿を現したのは見た事のある顔だった。

「た..隊長....。」

「お前..! 左近寺か!?
どうしたその傷、誰にやられた!!」
辛うじて刀を握ってはいるが腕が切り裂かれ、足からも血が流れている。

「大変なんですよ...あいつが、あいつがっ..!」

「取り敢えず、中に入れ。医療班に手当てをして貰おうぜ、このままじゃ余りにも危ねぇ」
吾太郎が肩を貸しながら小屋へと誘う。
早助は二人を目で追う事もなく、正面をじっと見つめている。

「……お前は誰だ?」
 もう一つの足跡、聞き逃さずにしっかりと鼓膜に捉えていた。左近寺を追いかけていたのも、遠くで響いた悲鳴の元凶であろう事も察しながら冷静に様子を伺っていた。

「……」

「赤鬼..にしてはでかいな。かといって他の妖でもあるまい、どちらにせよ..斬る事には変わりないがな」
刀を抜いて走る、鬼とは幾度となく剣を交えてきた。
武器は単純明快な力、金棒を携えようと動きは変わらない。取るに足らない戦闘だ、いつもと同じならば。

「……!」
金棒を振り上げる、重量から察するに刀では止めきれないと判断し後ろへ踏み込みカラダを退げる。金棒は誰もいない山の土へと振り落とされ、平面の床に傷を付け深く抉る。

「あの様子であれば、動きは遅いか..だが金棒の大きさを見れば機動力がありそうだ。迂闊に近付けば深手を追う可能性があるな..」
幅の大きな金棒は打撃を与える範囲が大きく、振り方によって様々な打撃を生み出せる。最悪投げ飛ばし、飛び道具にする事すらあり得る、確実に今までの赤鬼とは異なる強靭な種だ。

「おそらく一撃でも受ければ致命傷だろう。
ならばこちらも一太刀に力を込めるとするか..」
鬼の振り回す金棒をギリギリで躱しつつ懐に潜り込む

「……?」

「..やはりな、金棒の振り幅に合わせると近接がお留守だ。臨機応変は不可能だったか」
鬼の土手っ腹目掛けて鋒を突き立てる。肌は金棒のように耐久は効かず、飛び道具刃を簡単に受け入れた。

「……!」
刀に腹を貫かれた鬼は金棒を手放し吐血して動きを止めた。

「..所詮は鬼か」
胸を蹴飛ばし刃抜いた。支えを失った鬼の身体はゆっくりと崩れ音を立てて床へ落ちた。

「他愛も無い..」
隊士の保全に戻る、本域は今では無い。

「……」「…!?」
気配が逆立つ、腹から血を流し尚も息をしている。

「..何故生きている?」
金棒を握り直し地に再び足を付け、鼻息荒くこちらを睨みつけている。鬼ではない、酷く成り下がった野性の獣《けだもの》だ。

「……!」「くっ..!」
甘くみていた訳では無い。ただ不覚にも、あの一撃で仕留めたと思っていた

「いつまでやってんだ!?
..っておい、こっち向かって来てるじゃねぇかっ!」
文字通り鬼気迫るタイミングで吾太郎が口を挟む。その勢いのまま吾太郎は一切怯む事なく剣を抜き、駆け寄る鬼の片足の甲を突き刺し地面に固定した。

「さっさとやれ!」

「..言われなくてもだ」
刀を構え疾る早助にカーソルを合わせるように鬼が金棒を振る。このまま近付き相対すれば確実に当たる軌道だが、速さの利が勝る。金棒の一撃を受けるより前に赤鬼の首を斬り落とし、身体の機能を停止させる。結局は妖、その辺の河童とさして変わらない。

「死んだか?」

「首はねりゃ大概死ぬだろ、それより早く来てくれ!
左近寺の様子がおかしいんだ!」

「今度は何だ..」
慌てる吾太郎と共に小屋へ入ると、椅子に縄で身体を括り付けられた左近寺が唸りを上げ暴れていた。

「..何だこれは」

「イカれてるだろ?
医療班が傷の治療をしようと近付いたら突然騒ぎ出して襲い掛かって来たんだ。」

「..狂気だな、鬼のようだ」
声にならない声を上げ、狂乱に身を委ねている。

「仕方ない、斬るか..!」
左近寺の頭上に振り下ろす。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

不倫の味

麻実
恋愛
夫に裏切られた妻。彼女は家族を大事にしていて見失っていたものに気付く・・・。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...