不死の妖

アリエッティ

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死装束の武士

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 「…傷口からか」
 頭上スレスレで刀身を止め、考え直してみる。危険を考慮した先行だが殺めるより方法はある。

「主な病の系統は解るか?」

「..感染症や病原菌の影響など様々頭を悩ませました。しかし大概それらは潜伏期間が在り、ここまで直ぐには病状として現れない..通常の場合は。」
未知の病原か、はたまた何かの災いか
考えるほど思考を巡り現実から遠のいていく。

「他に怪我人はいないか!?
憶測ではあるがおそらくは傷口から精神を変換する作用がある、少しでも傷が有る者は医療班の元で直ぐに治療を受けろ。放置すれば死に繋がる可能性が高い」

「翳李《かざり》、頼めるか?」

「はい、皆さん! 一人ずつ身体を確認します!
小屋に着くまでの道中で傷を付けた心当たりがある方は予め申告して下さい!」
医療班の班長である翳李が隊士を集め保全に徹する。後は左近寺、彼をどうするかだ。

「ウッ..ウゥッ...!!」「……」

「..滅多な事言いたかねぇが、こりゃあ多分助からねぇぞ。始末を付けるなら、あいつらの見えねぇ処の方がいいんじゃねぇのか?」

「..解っている。」
妖の巣窟に向かうのであれば、犠牲が幾つも生まれる事は容易に想像が出来た。しかし死に方というものは想定していた物事を遥かに歪ませ実現される。

「..吾太郎、運ぶを手伝ってくれ。」

「ああ、いいぜ..」
まるで斬首刑のようだ。罪人でも無い一侍が、山の中で椅子に縛られ天の下で葬られる。

「まさか、コイツにまで河童のやり方遣うとはな。
覚悟は出来てるか?」

「死に際に聞いてどうする」

「左近寺じゃねぇ、お前だ早助。
仮にもてめぇの部下なんだぞ? 目瞑っててやるよ」

「..いや、よく見ておけ。
これからこの様な事が日常になる」
残忍に慣れなければ妖は討てぬ、心は身体と切り離す

「いつか俺もこうなるのか?」

「その時は..潔く斬ってやる、友としてな」

「..〝友として〟か。」
隊長として、と言われたかった。責任ではなく感情で押し殺す、そんな惨めな友の姿を見るなど御免だ。


「…よし、傷は無いみたいですね。」

「うっし! やったぜ!」

「嘘だろ? 
お前思いっきり襲われてたじゃねぇか!」

「なんだよ見て無かったのか?
アイツのクチバシをオレは全部躱してたんだよ!」
それに伴う戦利品とやらが背中のそれだ。悪運の強い奴ほど長く生き延びるものなのだ。

「ゴホゴホッ!」

「なんだよ班長さん、風邪か?」

「...ええ、少し朝から崩し気味で。」
軽く咳をして顔色も薄い、山という環境の仕業もあるだろうが万全では無さそうだ。

「気を付けろよ、倒れたら大変だぜ?」

「ええ、お気遣い有難う御座います。」

「へへっ。」「調子乗るなよな、テメェ」
命拾いに体調を心配されるとは治療者としては滑稽な話だが、取り敢えずは親切として受け止める。

「班長、代わりましょうか? 少し休んでいて下さい視診なら僕達でも簡単に出来ますから。」

「..そうかな、ならお言葉に甘えようかな。」
残りの隊士の確認を部下に任せ、小屋奥の倉庫に近い小さな部屋へ。規模は最早屋敷だが、あくまでも存在は山小屋に留まる。

「…はぁ。」
皆のいる広間へ続く扉を閉めて溜息を一つ、着ている薄い和服をめくると右の胸部に大きな切り傷が。

「....流石に、医療班がケガしたなんて言えないよな」
左近寺を止めようと近付いた処に一撃をくらった。単なる爪の引っ掻き傷が深く残り、今も尚血が止まらない。放っておけば、肌に滴る程だ。

「取り敢えず、応急処置だ..。」
箱からさらしを取り出し、肌にきつく巻き付ける。
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