不死の妖

アリエッティ

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魂の実体

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 幻想と現実の狭間で激闘が続き、隊士達は尚も苦戦を強いられていた。

 「首筋を狙え! 頭を落とすぞ!」

「刀が届きません、何か策を練らないと!」
刃が首元に届くよりも前に拳が飛んでくる。牽制しつつ狙いたいものだが大きさの割に動きが素早い。身体がどれだけ成長しようと身のこなしは小僧と変わらない訳だ、そのくせに腕力は増加している。

「違うが良過ぎるぞ..」

『ミィィッ!!』「うるせぇぞ!」
身体を土に滑らせ一気に距離を縮める、現代でいうところの〝スライディング〟である。

「ふんっ!」『ミッ?』
腿に刀を食い込ませ、脚で刃を押して更に深く刺し込んでいく。脚を斬り落として体勢を崩させるつもりだ

「分厚いな...こいつの脚っ..!」

『ミ..ミィィィィッ!!』

「副隊長!!」
鉄球のような拳が、吾太郎目掛けて振り下ろされる。
直ぐに隊士達が駆け寄るも、一つ目の身体を斬れば更に肥大化し被害を拡げる。ならばどうすればいいか?

「ふぐぅっ!」「はっ..!!」「おっらぁ...!」

「お前達..!」
吾太郎に向けられた拳に隊士達が束となり、幾つもの刀を重ねて構える。一枚では簡単に砕けるであろう刀も多く重ねる事で強度を増し充分な縦となる。

「大丈夫ですか....吾太郎さん...?」

「..ああ、お陰さんでピンピンしてら!」
隊士達の肩を借り、跳び上がる。

「その刀、絶対に止めるなよ!?」
横筋一閃
大きな身体に生えた小さな頭を吹っ飛ばし、山の景色を一瞬見栄え悪く阻害した。

「……お前はもう、何も見るな。」
転がる顔、見つめる強い自然の眼を突き刺し潰す。

「お前も被害者だろ?
山の悪戯にしてやられた、哀れな妖風情さね。」
木々の奥の暗闇を見つめ吾太郎は何を思う?
言わずとも、それは向こうで体現される事だろう。


「......何だこれは?」

『見てわかんねぇかよ、全部俺だ! 
魂がカラダに一つずつなんて、誰が決めたよ?』

「...さぁな、知った事か」
鵺の身体を構成する四つの要素が分離して個々で現れた。腕、脚の虎、顔の猿、腹の狸、尾の蟒蛇《うわばみ》。

『卑怯だとか言うなよ侍? 
正々堂々なんて根性があるみてぇだが関係はねぇぞ、殺せりゃなんだってアリだ! それが戦だっ!!』

「...貴様、何か勘違いをしているな。
侍に必要なのは迅速は判断力、臨機応変な対応性だ」

『……何が云いてぇ?』

「..多対一など、取るにたらん。」

『面白ぇじゃねぇかっ!!』
虎による爪の応酬、続けざまに蛇の牙が飛ぶ。当然交わし迎撃しようと刀を振るうも一瞬体の動きが止まる

「…?‥」

『余所見すんなよなぁっ!』「くっ..」
間一髪刃を立て迫り来る爪の直撃を防ぐ、多少の斬り傷を負ったがそれよりも疑問は動きの違和感。

「..何故動きが止まった、妖術か?」
鵺の肉体は四分割され別々に動いている。一つ一つに意識があるのか一つの意識で動かしているのかは分からないが、それらは野性味を帯びた物理攻撃が主だ。

「妖術が出ているとすればどれか..」
虎と蛇は棄てられる、近接的に前に立ち直接的な攻撃をしている。これらを意識で動かしているのなら相当な労力がいるだろう。分体が野性的なら本能も野性の筈、だとすれば同時に妖術を放つ程器用な真似は出来ないだろう。

「そうなれば...猿か、狸か。」

『どっちだろうなぁっ!』
猿が雄叫びをあげる
同時に狸が腹を打ち、音波で声を共鳴させ森中に大きく響かせる。

「くっ..やかましい!」

『俺達もいるぜっ!』『忘れんなよなっ!』
虎と蛇が音に混じり、爪と牙による攻撃を繰り出す。

「忙しい連中だ..」
応戦しようと刀を強く握った途端、再び体が硬直する

「なっ..」『もらったぁ!!』
虎の爪が胸に食い込む。
血が流れ、傷も付いたが何故だか無事だ

「はぁ..はぁ...成程な..。」

『なんだぁ? 
随分と余裕かましてそうじゃねぇか』

『腹抉られてんのによっ!』

「..まったくおかしな話だ、腹を削られているのに何故私は息をしていられる?」

『あぁ!?』
答えは単純、咄嗟に刀で防ぐ事が出来たからだ。

「貴様が爪を突き立てる瞬間、硬直が緩み体が動くようになった。..生憎完全に防ぎ切る事は出来なかったが遣り方は理解した」
分体は四つ、音を放ち阻害する猿と狸に直接傷を与える虎と蛇。

「しかしそれらは同時に稼働が出来ない、というよりは..する事がかなり困難だ。」

『さっきっから一人でベラベラと、理屈っぽい奴だ』

「貴様、先程自らの事を主張して攻撃を仕掛けたな?
それは貴様自身に意識があるという事だ。」
自ら個々に意識を持ち、己の出番で力を振う。
いくら出番が異なるといえ動きも考えも疎らな連中を纏めあげ操るのは非常に根気がいる。

「猿が声を上げそれを狸が増幅させたように見えたがそれは偽り、何故なら鵺の声は....鳥だ」
刀を背後の空間へ振り下ろす。すると暗い闇の中から小さな影が音を立てて倒れた。

『グエッ....!』

「..やはりな。」
猿の声はフェイク、文字通りの〝言わ猿〟だ。
鳴いていたのは鳥の声、猿が鳴いたようにみせかけ鳥が鳴ききった後で余韻を狸が増幅させた。

『アァ、ハァ..いつからわかってやがった!?』

「そしてこれが本体、成程な
わかってなどいるものか、賭け事もいい所だ。これほど疎らな連中を操っているとすれば広く見渡し大幅に空間を使って見ている筈、私も含め見渡すとすれば背後かもしくはずっと後ろに隠れているだろう。」

『なんだよ、当てずっぽうか..?』

「..運は、恵まれたようだな。」
森の幻想が解かれ、山の一部に還される。鵺の姿も元の混合物に戻っていた。

「貴様の原理も読み解いた、もう何も無いな?」

『少し..違ぇな、同時に操れない訳じゃねぇ。
ただうるせぇし面倒くせぇから順番決めてるだけだ』

「..同じ事だ」

『だから違ぇっていってんだろうがっ!』
総て一緒くたにすれば同時に操れるのだろうがそこまでの起点は効かず、相変わらずの虎の爪による打撃。
当たれば斬撃に昇華するが、意味はない。

『ちく..しょう...。』

「……」
元より居合の斬撃は侍の所業、相対すれば首は無し。

「哀れな..眠れ、愚かな獣《けだもの》よ」
闇の中でも刃は光る、血肉に汚れた爪牙とは違う。


 
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