不死の妖

アリエッティ

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死して尚獣

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 木は本物、匂いも自然、しかしその場は存在しない
妖の妖術により造られた幻想の空間。

「..居心地が悪いな」

「お前の墓場だ! 
死に場所をつくってやったんだ、喜べよ!」
自ら生み出した木の上で見下ろしながら独り占めした獲物を見つめニタニタと笑う。

「……」

「‥なんだよ? お前のその目ッ!
遭ったときから気に入らねぇ、反抗的な目だ!!」
温度を持たない鋒のような眼。
その眼は常に相手を定め勘繰っている。

「…はっきりと問うが、貴様は何者だ?」

「あぁ? 見てわかんねぇか!? 鵺様よっ!
鴨の祖、大地の支配者!!」
爪を穿ち迫り来る。鬼の金棒であの威力だ、獣の祖と詠う拳は相当なものだろう。

「..そんな事をいつ聞いた」「あぁ?」

「私は〝貴様は何者だ?〟と聞いたのだ..!」
拡がる虎の掌に刃を入れ腕を裂く、刀身は肩まで達し鵺の一部を崩し棄てた。

「てめぇ何しやがんだっ!!」

「..やはり無事か、致命傷にすらならん。」
与えた傷は残り腕も裂けたままだがまるで息が上がらない。痛みを感じていないように平常に振る舞う。

「鬼と同じか..おい、森の主!
先程不死の呪いと云っていたな、詳しく話せ!」

「質問が多いな、てめぇ..」
考えても分からない、だとすれば聞くしかない。
あくまでも目的は妖討伐、山の謎解きではない。

「道中で遭遇した鬼も様子がおかしかった。力を増し致命傷を与えても息をしていた、山の異様な風と何か関係があるのか?」

「..鬼まで影響を受けてんのか?」

「何、どういう意味だ」
首を傾げるのは侍達だけでは無い、という事だ。

「思ってるより被害がでかそうだな。
冥土の土産に教えてやるぜ、俺達は死んだ事で死ななくなったんだよ!」

「…何を云っている?」

「理解出来ねぇか! 
俺達は死体に喰い殺されたんだよ!」
死肉が生にまで〝腐り〟を与え境を消した。
人も獣も何も無い、そこにあるのは理性無き魂の権化

「獣にはハナから理性などありゃしねぇ!
あの死人は言葉を発する事も無くなってたが、こちとら還って力が増したってもんだっ!!」

「死人..貴様に力を与えたのは人間なのか?」

「違ぇなっ! これは元々俺が持っていたもんだ!」
太い爪の応酬、後ろに大きく距離を取り刀で受ける。かなり衝撃が強いがまともに食らえば刀身が砕けていた。幸い造られた森の中、距離の制限は無い。受け身は幾らでも取れそうだ。

「無茶苦茶してくれる..」

「はっ! てめぇが脆いだけだろ!
それよりいい事を聞いた、鬼が変化してたって!?
だとすりゃてめぇの仲間も無事とは言えねぇなぁ!」

「..なんだと?」

「当たり前めぇだろ! ここは山中、妖の巣窟だぞ?
何処に行ったって化け物がウジャウジャ湧いてくる」

「…ここに長居は出来ない訳か..」
鬼の如く、不死の影響を受けた妖が常に睨みを効かしては獲物を狙う。敵は最早山全体、自然そのものが信用ならない要塞と化している。


「吾太郎さん、隊長何処行っちゃったんですかね..」

「正直わかんねぇが、此処を動く訳にも行かねぇよ」

「ですよねぇ..。」
早助はこの先一本道だと言ったが、妖の巣にて隊長を抜きにした戦力で賄える自信も無い。

「隊士の連中を信用してない訳では無ぇが、やはりアイツがいねぇとな。..そもそもアイツ一人でさっきの奴に勝てるかどうかも…」

「うわぁっ!」「なんだ!?」
隊列の後ろのほうで悲鳴が聞こえる。吾太郎が駆けつけるとそこには小さな子供のような妖の姿が。

「..んだよ、たかが一つ目だろ?
町で何度も遭ってるじゃねぇか。」
人の家の畑に侵入しては野菜を獲っていくコソ泥のよつな低級の妖、基本は山にいるのだろうが振る舞いはコソコソとやはり町と変わらず下級に見える。

「放っとけ、勝手にどっか行くだろうぜ。」
頭に被った傘で大きな目を隠しつつ怯えている、確実に戦意は無いので放置に限る。

「ったく、脅かしやがって。」

「お前が勝手に怯えただけだろ?」
再び列の先頭に戻ろうと背を向けた瞬間、背後から肩に小さな衝撃を受ける。

「…ん、なんだ?」
振り返ると一つ目の小僧が睨みつけて小石を握っている、見落としていたが戦意はあるようだ。

「そうか、ここお前ん家だもんな。」
このまま小さくとも攻撃してくるのなら脅かす意味でも刀を振るうべきか、それとも無駄な体力と放置を続けるべきか。睨む一つ目を見てよく考える。

「..まぁ大した傷にはならねぇけど、いてもらっても邪魔っちゃ邪魔だから…」

「てめぇっ! 副隊長に何しやがる!!」

「あ、待てっ..!」
行動を決めるより前に、腹を立てた隊士の一人が一つ目目掛けて刀を振るう。

「はっは! やりましたよ副隊長!」

「馬鹿お前..よく考えろって...。」
血を流して倒れる一つ目、結局刀を振るう事になったかと溜息を吐きつつ再び隊列の先頭へと身体を回した

『……ミ....』「……ん?」
声が聞こえた。もう一度向き直ると、一つ目の身体は肥大化し成人程の大きさに成長していた。

「‥なんだアリャ?」

「まだ生きてたか! この野郎っ!」「あ、おい!」
隊士の一人がもう一度刀を振るい、一つ目の腹を刺す

「………うわぁっ!!」
腹を貫かれた一つ目の身体は更に巨大化し、鬼を二体ほど重ねた厚みを誇る強靭な成長を遂げた。

『…ミッ..!』「ぐふっ!」
目の前の隊士を殴打で吹き飛ばし、腹に刺さった刀を抜いて踏み潰す。

『ミィィィィーッ!!!』

「どうなってやがる!? やっぱこの山変だぞ!」
鬼の時点で悟っていたが、異変は一部だけじゃない。

「山全体がこうなのか?
..だとすりゃあ、早助は無事なのか!?」
一人で木々の向こうに消えた早助の元にも確実に異変が起きている。

「こりゃ予想以上にマズイ場所かもな。
各隊士戦闘配置につけ! 医療班は傷の手当てを!」

「はいっ!」
殴り飛ばされ苦しむ隊士を必死に看病する。

「早助、絶対死ぬなよ..?」
戦い方は知っている、いわゆる〝河童作法〟だ。

「皆の者、かかれっ!」

『「はっ!」』
幻想と現像の戦いが始まる。






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