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町田永人

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2つの世界

廃ホテル「飛鴻亭」

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 ××県○○市△△町。マンションが立ち並び人通りも多い中心街とは打って変わり、町の7割を山間部が占めている。夜になると、町の半分は街頭と点在する民家の明かり以外すべてが隠れる。

町の平野部から車で二十分程曲がりくねった山道を進むと、ある一つの廃墟が暗闇の中に隠れていた。しかし住民の都市部への流出が嘆かれているこの町にとって、廃墟はさほど珍しくない。廃校、廃業したパチンコ屋、廃病院。この町にはそういった遺産のいくつかは撤去されずそのままにされてあるのだ。しかし、この場所は他と比べると少々事情が違うようである。
 

「カメラ大丈夫?」
「少し暗いか。桐田君ライトもう1個点けて」
 
明るさに満足したメガネの男がOKサインを出し、カウントダウンが始まった。
 
「どーも皆さん!今夜もやってまいりました。潜入キャップチャンネルのお時間でございます!今日も張り切っていきたいと思いまっす!」
 
名前通りキャップを被った男が元気よく挨拶を始めた。
 
「ワタクシ“こうじ”が今夜やってまいりましたのは、××県随一といわれている非常に有名な心霊スポット、『ホテル飛鴻亭』でございます。いや~ついに来てしまいましたね!
コメント欄でも多くのリクエストをいただいてましたが、曽根君なんでこんなに有名なんでしょうか。」
 
こうじはカメラを持ったメガネ、曽根に話しかけた。彼がこの3人組におけるストーリーテリングを担っているようだ。
 
「ここはですね。1976年に開業しまして自然豊かなホテルとして賑わっていたそうなのですが、1990年代後半にですね、宿泊していたカップルの女の方が彼氏を殺してしまったようで。その後女も部屋で首を括ってしまったという事件があったらしいです。」
 
話を聞きながら、こうじが苦々しい顔をカメラに見せていく
 
「そこから、このホテルでは様々な心霊現象が相次ぐようになり、女のすすり泣く声が聞こえる、ガシャーンとガラスが割れる音だけ聞こえる、夜中に扉をノックされるが誰もいないなどが起きるようになっていって、客足が減り廃業してしまったのだとか。」
「すすり泣く声なんかかなり不気味
ですねぇ。」

「で、その現象が一番多く起きるのが、3階にある『水仙306号室』だそうです。今回はこの部屋を目指して、心霊現象を激写してほしいなと。」
「いやぁ任せてくださいよ!ばっちり撮ってみせましょう!では張り切って潜入と行きますか!!」
 
そう息巻くと、3人組は正面から飛鴻亭へと足を踏み入れた。
 

中に入ると、外見に反し非常にこぢんまりとした印象を受けた。入ってすぐ左側にカウンターがあり、奥にはいくつかの事務机が置きっぱなしになっている。そしてカウンターを挟んで反対側にはソファが4つ置かれている。一見何の変哲もないような受付、しかしこの飛鴻亭が県下随一といわれるだけあって、他とは明らかに異質だというイメージを植え付けられた。
 
その原因となっているのは山と積み上げられた書類やごみである。廃業となる際にもっていかなかったのだろうか、あるいは廃業後に捨てられたものなのかは定かではないが、異常な量のゴミが各所に積み上げられていて、先ほど見た事務机やソファはその機能を果たせなくなっている。床にはガラスや床から剥がれた白色の塗装が散乱し、所によっては壁が崩れている場所もある。
 
ロビーを進むとT字に廊下が分かれており、正面は2階へ続く階段となっている。その階段のそばには案内板がついており、
右矢印の下には「101~110」、
左矢印の下には「111~120」と記されていた。
 
「まずは一階から探索していこうか。」
「オーケー」
 
一行は101から捜索を開始していった。


 ここで彼らの紹介をしておこう。彼ら「潜入キャップチャンネル」はとある動画サイトで人気の実況者である。内容は今日のように心霊スポットへ赴き、そこで一番やばいと言われている場所へ潜入するというものである。彼らが訪れる場所はこのホテルのように気味が悪い場所がほとんどであるが、なかなかに人気を博しており、15万人もの物好きが彼らの視聴者となっている。
 幾度か危ない目にも合っているが、視聴者のために体を張り続けている。そんな彼らでも今回の相手には少々たじろいでいるようだ。どの場所よりも散乱しているゴミ達を見れば無理もないだろう。
 

「この部屋一つ一つに名前があるんだよな」
「ほんとだ。菖蒲、菫、鳳仙花・・・。
 なんで花の名前がついてるんだ。」
「オーナーの趣味らしいよ。このホテルの客室全部に花の名前ついているらしい。」
「洒落てるけど、もうその面影もないな。」
「ですね・・・ん?」
「桐田くん、どうしたの」
 
照明を持っている桐田が、何かを感じたようだ。
 
「なんか聞こえませんでした?」
「いや何にも聞こえてないけど。何か聞こえたの。」
「女の人?のうめき声みたいなのが・・・。」
 


 ウッ
 



聞こえた。カメラにも入るような声を聴いた3人は、たじろいだ。
 
「・・・1階でこれかよ。」
 
まだまだ探索は始まったばかりである。
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