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第四話 月蝕〜マスカレード・ナイト
#3 生贄をステージに
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妖しい仮面をつけたDの表情はよめない。
優しく笑んだ口から、低く落ち着いた声が続けて言う。
「君には何の恨みもないし、何なら可愛いなって思ってるんだけど。たくさん可愛がっていろいろ教えてあげたかったんだけど」
もう声も出ない。
「でも、君をめちゃめちゃにしてほしいという人がいてね。だから君には悪いけど」
Dの佇まいはいつもと変わらず涼しい。
そして腰に響く低い声音で発せられる、残酷な宣告。
「君にはショーに出てもらうよ。公開プレイ、……いや、公開レイプかな?」
壊れた人形のように全身ががくがくと震える。
「彼女の次は、花、君のステージだ」
まさかそんな。
「どんな風に犯されたい? 指名する? ああ、それともオークションにしようか。それもいいね。いくらで何人に買ってもらえるか」
信じられない。
何を言っているの?
「花? だってこんなあやしいハプニングバーが、ほんとにクリーンに営業してると思ってたの?」
だからって、まさかそんな。
「そうだ、これも取材と思うといい。君の小説に出てくる女性たちのように、陵辱され、調教される、被虐の悦びを体験させてあげる」
私の小説?
まさか。Dが知るわけがない。
だって、ペンネームも本名も、ここでは秘密にしている。
「何なら君の、───の小説のプレイを再現してあげようか?」
頭が真っ白になった。
(嘘、嘘、どうして。そんなはずは…!)
花ばかりではない。
いまや花の中の蝶子が、花以上に衝撃を受けて混乱していた。
Dが口にした名は、蝶子のペンネームだったのだ。
「知ってるよ。知ってるし、読んでるよ。ああ、蝶子さんがこれを書いてるんだなって思いながら」
(嘘、嘘、そんなこと)
蝶子と呼ばれれば蝶子が、花と呼ばれれば花が、意志とはかかわりなく、引きずり出される。いつのまにか、そういう身体になってしまった。いや、Dにそうされた。
「ねえ、花?」
花、と呼ばれて、力づくで花にされてしまう。
「嘘だよ」
嘘? どれが?
「そんなことはしない。けれど、今日はいつもよりちょっとドキドキさせてあげる」
遠慮もなく手が差し込まれ、秘所に触れてきた。
「あっ」
「あんまり濡れてないね。かわいそうに、さすがに怖かった?」
いつのまにかステージは無人になっていた。
ただ煌々と明るい。
前のショーが終わったのだ。
それはつまり、次のステージが始まることを意味する。
次のステージ。そう、花の出番だ。
喉がカラカラに乾いていた。
「花。おいで」
足元がふわふわする。
自分の足で歩いていることが信じられなかった。
『お待たせしました。本日の生贄、駆け出しの官能小説作家、花ちゃんです!』
場違いに明るい声でコールしたのは、舞台袖近くにいる司会だ。
客席に静かな拍手の波が広がった。
『エロスの修行にここに来て、先日初めて中イキを体験しました。まだまだ初々しいですが、わけあって身体はしっかり開発済みです』
期待に沸く客席を向かされ、眩しさに目を細めた。
男性ゲストの声がとんできた。
「ずいぶん震えているが、大丈夫か?」
『今日はちょっと騙しうちでステージに上がってもらったので、びっくりしているのです』
「おい、ひどいな」
「かわいそうなことをしてやるなよ」
『申し訳ありません。どうぞ皆さまで慰めてあげてください』
司会とやりとりするゲスト男性たちの声は鷹揚だ。下卑たいやらしさは感じられない。
だが、もちろん茶番だ。
誰ひとり、本当にそんなふうに案じてなどいない。
そもそもここにいる全員が、生贄の日の祭と知って参加しているのだから。
『そんなわけですので、ジェントルメン、お手柔らかに』
「さあ」、と司会が声を張った。
ショーの始まりを告げる合図だ。
謝肉祭の、残酷なゲーム。
彼女にとって長い長い夜が始まる。
次ページへ続く
読んでくださりありがとうございます!
優しく笑んだ口から、低く落ち着いた声が続けて言う。
「君には何の恨みもないし、何なら可愛いなって思ってるんだけど。たくさん可愛がっていろいろ教えてあげたかったんだけど」
もう声も出ない。
「でも、君をめちゃめちゃにしてほしいという人がいてね。だから君には悪いけど」
Dの佇まいはいつもと変わらず涼しい。
そして腰に響く低い声音で発せられる、残酷な宣告。
「君にはショーに出てもらうよ。公開プレイ、……いや、公開レイプかな?」
壊れた人形のように全身ががくがくと震える。
「彼女の次は、花、君のステージだ」
まさかそんな。
「どんな風に犯されたい? 指名する? ああ、それともオークションにしようか。それもいいね。いくらで何人に買ってもらえるか」
信じられない。
何を言っているの?
「花? だってこんなあやしいハプニングバーが、ほんとにクリーンに営業してると思ってたの?」
だからって、まさかそんな。
「そうだ、これも取材と思うといい。君の小説に出てくる女性たちのように、陵辱され、調教される、被虐の悦びを体験させてあげる」
私の小説?
まさか。Dが知るわけがない。
だって、ペンネームも本名も、ここでは秘密にしている。
「何なら君の、───の小説のプレイを再現してあげようか?」
頭が真っ白になった。
(嘘、嘘、どうして。そんなはずは…!)
花ばかりではない。
いまや花の中の蝶子が、花以上に衝撃を受けて混乱していた。
Dが口にした名は、蝶子のペンネームだったのだ。
「知ってるよ。知ってるし、読んでるよ。ああ、蝶子さんがこれを書いてるんだなって思いながら」
(嘘、嘘、そんなこと)
蝶子と呼ばれれば蝶子が、花と呼ばれれば花が、意志とはかかわりなく、引きずり出される。いつのまにか、そういう身体になってしまった。いや、Dにそうされた。
「ねえ、花?」
花、と呼ばれて、力づくで花にされてしまう。
「嘘だよ」
嘘? どれが?
「そんなことはしない。けれど、今日はいつもよりちょっとドキドキさせてあげる」
遠慮もなく手が差し込まれ、秘所に触れてきた。
「あっ」
「あんまり濡れてないね。かわいそうに、さすがに怖かった?」
いつのまにかステージは無人になっていた。
ただ煌々と明るい。
前のショーが終わったのだ。
それはつまり、次のステージが始まることを意味する。
次のステージ。そう、花の出番だ。
喉がカラカラに乾いていた。
「花。おいで」
足元がふわふわする。
自分の足で歩いていることが信じられなかった。
『お待たせしました。本日の生贄、駆け出しの官能小説作家、花ちゃんです!』
場違いに明るい声でコールしたのは、舞台袖近くにいる司会だ。
客席に静かな拍手の波が広がった。
『エロスの修行にここに来て、先日初めて中イキを体験しました。まだまだ初々しいですが、わけあって身体はしっかり開発済みです』
期待に沸く客席を向かされ、眩しさに目を細めた。
男性ゲストの声がとんできた。
「ずいぶん震えているが、大丈夫か?」
『今日はちょっと騙しうちでステージに上がってもらったので、びっくりしているのです』
「おい、ひどいな」
「かわいそうなことをしてやるなよ」
『申し訳ありません。どうぞ皆さまで慰めてあげてください』
司会とやりとりするゲスト男性たちの声は鷹揚だ。下卑たいやらしさは感じられない。
だが、もちろん茶番だ。
誰ひとり、本当にそんなふうに案じてなどいない。
そもそもここにいる全員が、生贄の日の祭と知って参加しているのだから。
『そんなわけですので、ジェントルメン、お手柔らかに』
「さあ」、と司会が声を張った。
ショーの始まりを告げる合図だ。
謝肉祭の、残酷なゲーム。
彼女にとって長い長い夜が始まる。
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