【R18】眩惑の蝶と花──また墓穴を掘りました?!

umi

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第四話 月蝕〜マスカレード・ナイト

#3 生贄をステージに

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 妖しい仮面をつけたDの表情はよめない。
 優しく笑んだ口から、低く落ち着いた声が続けて言う。

「君には何の恨みもないし、何なら可愛いなって思ってるんだけど。たくさん可愛がっていろいろ教えてあげたかったんだけど」

 もう声も出ない。

「でも、君をめちゃめちゃにしてほしいという人がいてね。だから君には悪いけど」

 Dの佇まいはいつもと変わらず涼しい。
 そして腰に響く低い声音で発せられる、残酷な宣告。

「君にはショーに出てもらうよ。公開プレイ、……いや、公開レイプかな?」

 壊れた人形のように全身ががくがくと震える。

「彼女の次は、花、君のステージだ」

 まさかそんな。

「どんな風に犯されたい? 指名する? ああ、それともオークションにしようか。それもいいね。いくらで何人に買ってもらえるか」

 信じられない。
 何を言っているの?

「花? だってこんなあやしいハプニングバーが、ほんとにクリーンに営業してると思ってたの?」

 だからって、まさかそんな。

「そうだ、これも取材と思うといい。君の小説に出てくる女性たちのように、陵辱され、調教される、被虐の悦びを体験させてあげる」

 私の小説?
 まさか。Dが知るわけがない。
 だって、ペンネームも本名も、ここでは秘密にしている。

「何なら君の、───の小説のプレイを再現してあげようか?」

 頭が真っ白になった。

(嘘、嘘、どうして。そんなはずは…!)

 花ばかりではない。
 いまや花の中の蝶子が、花以上に衝撃を受けて混乱していた。
 Dが口にした名は、蝶子のペンネームだったのだ。

「知ってるよ。知ってるし、読んでるよ。ああ、蝶子さんがこれを書いてるんだなって思いながら」

(嘘、嘘、そんなこと)

 蝶子と呼ばれれば蝶子が、花と呼ばれれば花が、意志とはかかわりなく、引きずり出される。いつのまにか、そういう身体になってしまった。いや、Dにそうされた。

「ねえ、花?」

 花、と呼ばれて、力づくで花にされてしまう。

「嘘だよ」

 嘘? どれが?

「そんなことはしない。けれど、今日はいつもよりちょっとドキドキさせてあげる」

 遠慮もなく手が差し込まれ、秘所に触れてきた。

「あっ」
「あんまり濡れてないね。かわいそうに、さすがに怖かった?」

 いつのまにかステージは無人になっていた。
 ただ煌々と明るい。

 前のショーが終わったのだ。
 それはつまり、次のステージが始まることを意味する。

 次のステージ。そう、花の出番だ。

 喉がカラカラに乾いていた。

「花。おいで」

 足元がふわふわする。
 自分の足で歩いていることが信じられなかった。

『お待たせしました。本日の生贄、駆け出しの官能小説作家、花ちゃんです!』

 場違いに明るい声でコールしたのは、舞台袖近くにいる司会だ。
 客席に静かな拍手の波が広がった。

『エロスの修行にここに来て、先日初めて中イキを体験しました。まだまだ初々しいですが、わけあって身体はしっかり開発済みです』

 期待に沸く客席を向かされ、眩しさに目を細めた。
 男性ゲストの声がとんできた。

「ずいぶん震えているが、大丈夫か?」
『今日はちょっと騙しうちでステージに上がってもらったので、びっくりしているのです』
「おい、ひどいな」
「かわいそうなことをしてやるなよ」
『申し訳ありません。どうぞ皆さまで慰めてあげてください』

 司会とやりとりするゲスト男性たちの声は鷹揚だ。下卑たいやらしさは感じられない。
 だが、もちろん茶番だ。
 誰ひとり、本当にそんなふうに案じてなどいない。
 そもそもここにいる全員が、生贄の日の祭と知って参加しているのだから。

『そんなわけですので、ジェントルメン、お手柔らかに』

 「さあ」、と司会が声を張った。

 ショーの始まりを告げる合図だ。

 謝肉祭の、残酷なゲーム。
 彼女にとって長い長い夜が始まる。



次ページへ続く


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