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第四話 月蝕〜マスカレード・ナイト
#2 生贄に仮面を
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その日、入店した花は、初めての時に似たニットのワンピースを着せられた。無論、ノーブラだ。しかもあの日よりも薄地で、あの日よりもぴたぴた。ジッパーもない完全なチューブタイプで、あの日よりさらに赤裸々に身体のラインが浮き彫りになっていた。豊満な胸がことさらに強調され、屹立した乳首はもちろんのこと、先端のわずかなくぼみすら見てとれそうなほどくっきりと透けていた。
(こんな格好で人前に出るなんて)
着替えが終わったところへ、Dが迎えにきた。
Dは黒い仮面をつけていた。美しい装飾の施されたベネチアンマスク。目元が妖しく覆われ表情がわからない。鼻筋の通った顔立ちの美しさが、いっそう妖艶に際立っていた。
心臓がどきんと跳ねた。
「花、おいで。今日はマスカレード・ナイトだ。特別なプレイをしてあげる」
心なしか、声もいつもと違う。
いつもより深く、静かで、そして刃物のような鋭さ。危険な男の色気だ。
ぞくぞくと肌が震える。
Dの手で花にも黒いレースの仮面が着けられ、さらに緊張が高まった。
顔の上半分をまるごと覆うマスカレードマスクによって、視界は大きく遮られ、レースの隙間から多少の様子がうかがえる程度だ。
「見えにくいでしょ。足元に気をつけて」
よく見えないという不安感。
その緊張に、身体が反応しているのがわかる。
固く尖った乳首の先端が気になって仕方がない。
小さな下着がまたじゅわりと濡れていく。
「今日はね、裏の営業日なんだ」
花の手を引いて廊下を進みながら、Dが優しく言う。
「満月の夜は表のハプニングバーIlinx(イリンクス)。新月の夜は裏サロンeclipse(エクリプス)。Ilinxは健全営業だけど、eclipseは何でもありだ。すごく刺激的な遊びを提供している。すごくね」
このサロンは、さまざまな性格のフロアがあり、多様な設定でシチュエーションプレイを楽しめるのが特長だった。バーカウンター、オープンラウンジ、個室、イベントフロアなど、ライトプレイ用からディーププレイ用まで多彩だ。
連れていかれたのは、イベントフロアである。
照明を落とした淫靡な暗がりのなか、ステージ上だけが煌々と明るい。
「ここ、使ってるのは初めて見るよね」
その光景が目に飛び込んできた瞬間、花はぎくりと立ち竦んで動けなくなった。
そこで繰り広げられている情景は、花にとってあまりにも衝撃的だったのだ。
スポットライトのなか、ステージ中央では、一人の女に数人の男が群がっていた。全裸の女は咽び泣くような悲鳴をあげて悶えながら、仮面をつけた男達に寄ってたかって犯されている。
(嘘……)
どう見ても演技やショーではない。
あの女性は本当に犯されているのだ。何人もの男に、何度もくりかえし。それが一巡や二巡でなく、しかもノースキンであることは、脚の間に飛び散る白濁とその量を見ればいやでもわかる。
(嘘でしょ? 何なの、これ……)
がくがくと震える花に、Dが優しく言う。
「あの女性は、見られながら輪姦されるのがお好きでね。Ilinx(イリンクス)では満足いただけない。そう、あの人もゲストだよ。望んで登壇されている。常連様だ」
口調こそ優しいが、語られる内容はあまりにとんでもない。
「男性達もほとんどがゲストだね。男性も女性も、花を捧げればステージに上がることができる」
見ればステージ上にいくつもの花束が積まれている。
「花一本が三万円。ああやってプレイに参加するには、そこそこの花束じゃないと受けてもらえない。ステージ上のプレイには必ずソムリエが立ち会うし、進行役のキャストもつく。だからそんなに滅茶苦茶なことにはならない」
そんなに滅茶苦茶なことにはならない?
この状況が?
ちょっと何を言ってるかわからない。
花は、崩れそうになる膝をこらえて、なんとか立っていた。
「ゲスト審査もIlinx以上に厳しいからね。お客様の人数はぐっと少ない」
見れば、客席はゆったりとラウンジのようなソファー席がいくつか。たしかに、十数人もいないだろうか。女性はいない。身なりのいい紳士ばかりだ。皆、大小のマスクで目元や顔が隠れているが、もしかしたらIlinxの客もいるのかもしれない。ステージ上の数人を足しても二十人強か。
「これでも多いんだよ。今日はマスカレード・ナイト。“生贄の日”のカーニバルだから」
生贄の日?
「不定期に開催する人気イベントでね。何も知らない女の子がステージ上で仮面の男達の生贄にされる。狂乱のカーニバルだ」
黒いマスクの妖しい目元がキラキラと光を反射する。
「贄にされる女の子には可哀そうだよね。でも男はそういうのが好きなんだ。残酷なゲームがね。だから登壇者以外の女性ゲストはいない」
どくんと心臓が跳ねた。
登壇者以外の女性ゲストはいない?
何も知らない女の子がステージ上で仮面の男達の生贄にされる──
その生贄の日に、何も知らない自分が呼ばれた意味とは。
いやだ、考えたくない。
「ごめんね、花。君にはちょっと怖い目にあってもらう」
ざぁっと音を立てて血が逆流した。
次ページへ続く
読んでくださりありがとうございます!
(こんな格好で人前に出るなんて)
着替えが終わったところへ、Dが迎えにきた。
Dは黒い仮面をつけていた。美しい装飾の施されたベネチアンマスク。目元が妖しく覆われ表情がわからない。鼻筋の通った顔立ちの美しさが、いっそう妖艶に際立っていた。
心臓がどきんと跳ねた。
「花、おいで。今日はマスカレード・ナイトだ。特別なプレイをしてあげる」
心なしか、声もいつもと違う。
いつもより深く、静かで、そして刃物のような鋭さ。危険な男の色気だ。
ぞくぞくと肌が震える。
Dの手で花にも黒いレースの仮面が着けられ、さらに緊張が高まった。
顔の上半分をまるごと覆うマスカレードマスクによって、視界は大きく遮られ、レースの隙間から多少の様子がうかがえる程度だ。
「見えにくいでしょ。足元に気をつけて」
よく見えないという不安感。
その緊張に、身体が反応しているのがわかる。
固く尖った乳首の先端が気になって仕方がない。
小さな下着がまたじゅわりと濡れていく。
「今日はね、裏の営業日なんだ」
花の手を引いて廊下を進みながら、Dが優しく言う。
「満月の夜は表のハプニングバーIlinx(イリンクス)。新月の夜は裏サロンeclipse(エクリプス)。Ilinxは健全営業だけど、eclipseは何でもありだ。すごく刺激的な遊びを提供している。すごくね」
このサロンは、さまざまな性格のフロアがあり、多様な設定でシチュエーションプレイを楽しめるのが特長だった。バーカウンター、オープンラウンジ、個室、イベントフロアなど、ライトプレイ用からディーププレイ用まで多彩だ。
連れていかれたのは、イベントフロアである。
照明を落とした淫靡な暗がりのなか、ステージ上だけが煌々と明るい。
「ここ、使ってるのは初めて見るよね」
その光景が目に飛び込んできた瞬間、花はぎくりと立ち竦んで動けなくなった。
そこで繰り広げられている情景は、花にとってあまりにも衝撃的だったのだ。
スポットライトのなか、ステージ中央では、一人の女に数人の男が群がっていた。全裸の女は咽び泣くような悲鳴をあげて悶えながら、仮面をつけた男達に寄ってたかって犯されている。
(嘘……)
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あの女性は本当に犯されているのだ。何人もの男に、何度もくりかえし。それが一巡や二巡でなく、しかもノースキンであることは、脚の間に飛び散る白濁とその量を見ればいやでもわかる。
(嘘でしょ? 何なの、これ……)
がくがくと震える花に、Dが優しく言う。
「あの女性は、見られながら輪姦されるのがお好きでね。Ilinx(イリンクス)では満足いただけない。そう、あの人もゲストだよ。望んで登壇されている。常連様だ」
口調こそ優しいが、語られる内容はあまりにとんでもない。
「男性達もほとんどがゲストだね。男性も女性も、花を捧げればステージに上がることができる」
見ればステージ上にいくつもの花束が積まれている。
「花一本が三万円。ああやってプレイに参加するには、そこそこの花束じゃないと受けてもらえない。ステージ上のプレイには必ずソムリエが立ち会うし、進行役のキャストもつく。だからそんなに滅茶苦茶なことにはならない」
そんなに滅茶苦茶なことにはならない?
この状況が?
ちょっと何を言ってるかわからない。
花は、崩れそうになる膝をこらえて、なんとか立っていた。
「ゲスト審査もIlinx以上に厳しいからね。お客様の人数はぐっと少ない」
見れば、客席はゆったりとラウンジのようなソファー席がいくつか。たしかに、十数人もいないだろうか。女性はいない。身なりのいい紳士ばかりだ。皆、大小のマスクで目元や顔が隠れているが、もしかしたらIlinxの客もいるのかもしれない。ステージ上の数人を足しても二十人強か。
「これでも多いんだよ。今日はマスカレード・ナイト。“生贄の日”のカーニバルだから」
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どくんと心臓が跳ねた。
登壇者以外の女性ゲストはいない?
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その生贄の日に、何も知らない自分が呼ばれた意味とは。
いやだ、考えたくない。
「ごめんね、花。君にはちょっと怖い目にあってもらう」
ざぁっと音を立てて血が逆流した。
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