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1-2 騎士団員フェルト
29 第三階層
「うっわ、これはまたえげつない階層になりましたね」
「ダンジョンって……こうやって作られてるんだ……」
俺はオリバーとフェルトと一緒に、新しくできた第三階層に来ていた。
新しくベラが用意した紺色の騎士服に身を包んだフェルトは、感嘆の声をあげた。騎士の制服っていうのは、清廉で気高い印象があってすごくいい。前に着てた爽やかな青い騎士服もよく似合ってたけど、落ち着いた色もまたいい。
黒がよかった……と、ベラが嘆いていたけど、オリバーが倫理的に避けたんだって。
「水と土のモンスターでそろえるって言ってましたよね?」
「オークも……見たことがない個体がうようよいる」
モンスターには一応属性のようなものがある、とフェルトから聞いた俺は、水っぽいモンスターと土っぽいモンスターで第三階層を作ることに決めた。
人間の魔法にも精霊の属性が影響しており、全属性使える人間はほぼいないということを聞いて、ではモンスターもそれに対応しよう、と思った。
出てくるモンスターに対応して、特化した魔法のパーティを作る人間がいた場合(水モンスターが出るから雷強い人でいこう、みたいな)土属性がそれに対応する。逆もしかり。
基本的に俺の改良したモンスターがメインだが、外からやってきて住み着く場合もあるらしい。
『ダンジョン』の仕様としては、召還陣を通して特定のモンスターをスカウトして、OKが出たら移送できるようにする……ということも設定できると本に書いてあった。
たしかに第一階層や第二階層のうちはいいけど、もっとダンジョンが深くなった場合、わざわざ引っ越してきてまで住み着いてくれるモンスターがいない! という状況にもなりかねないから、そのための措置なんだと思う。
そして、その合間にオークと毒系のモンスターを配置する。
オークの繁殖はゴブリン同様、魔力の高そうな冒険者にお願いするつもりだ。毒系は基本的に既存のモンスターの生体改造をしてる。
「ほかのダンジョンにも、俺みたいなのがいんのかなー?」
「どうだろ。俺が行ったことあるダンジョンは、ここほど作り込まれてなかったけど」
……と言いながら、フェルトがなにか嫌なことでも思い出したみたいに、眉間に皺をよせた。
「え、なに?」
「いや、このダンジョンは入ったときから嫌なかんじがした。あんなねっとり追い込まれてる気になったのは、ここだけだよ」
と、渋い顔で続けた。
「レイ様の性格がよく出てますよね。熟成された変態嗜虐ジジイみたいな」
「オリバー? お前、どうなりたいの?」
「こほん、それでこの階層の目玉はどこにいるんですか?」
「…………」
なんだか、オリバーがどんどん図太くなっていく。
第三階層の立地は、足場の悪いどろどろの階層を作っている。
オークたちはそういう足場でもまったく問題ないモンスターだし、泥っていうのは意外と体力を消耗するし、普通に服が汚れると嫌だし。
それから、第三階層の目玉としては、なんと言ってもスカウトしてきた『セイレーン』だ。
かなり高低差のある階にしたため、場所によっては水の中を通らないと進めない場所がある。甲冑や鎧なんて着てる人も多くいるし、そうでなくても防具は絶対つけてるから、みんなすごく嫌だと思う。
もう少し階層が増えてくれば、冒険者のことも考えて易しく作ってあげられるけど、まだ第三階層までしかない状態で気を緩めれば、文字通り、俺の命とりになる。
「わあ! これがセイレーン、俺、はじめて見ました。歌声を聞くと、死んでしまうんでしたっけ?」
「お、俺もはじめて見た」
「でも結構いいやつらだったよ。笑うと八重歯が見えてかわいかった」
「それは……牙ですね。……人間を……噛み殺すための」
こんなにのんびりと危機感もなく、モンスターを見ることなど普通の人間にはないのだろう。
オリバーもフェルトも興味津々でセイレーンを見ていたし、セイレーンも気さくにニコニコと手を振ったりしていた。
「モンスターと意思疎通ができるなんて、考えたこともなかった。自分で選んだ道とはいえ、ちょっと複雑かも」
「フェルトさん完全に正義の味方サイドだったのに、悪魔に捕まったせいで……本当に不憫です。ようこそ極悪人サイドへ」
「おい、オリバー。お前よほどセイレーンの歌声が聴きたいみたいだな」
「さ、次行きましょ。次」
本当に失礼だな、最近。
……で、さっきの続きだが、『ダンジョン』は、いわゆる〝客商売〟だ。
つらいことばかりの場所に、喜んで飛び込む人間などいない。
しかし、今のところまだ俺に余裕がなく、命を守るために、飴と鞭の『鞭』ばかりのダンジョンになってしまっている。
そこで最近、とりあえず、苦肉の策として『宝箱』を設置した。
なんと、この宝箱の中身……驚くことなかれ、自腹だ!!!
俺の少ないゲームの知識で、宝箱の中身になりそうなものを生成したり、あるいはベラから買ったりしている。
正直、ビアズリー商会の売買履歴から足がつくのではないかと懸念しているのだが、ベラが「大丈夫よ」と言うので、どうにか手を回してくれてるのかもしれない。
同時に、収入を上げないと立ち行かないので、現存のモンスターの素材の売買・特許に加えて、害のないモンスター自体を商品化することもはじめた。
当面は『グリーンスライム』『パラスライム』『ピンクスライム』を売るつもりだ。
当たり前のことだが、初期投資が低ければ低いほど、ビジネスは成功する。なんせ元手が0なら、プラスにしかならないからな。
だからこれは経営者としてはかなりの愚作だ。広告費として諦めるしかない。
本当に、早めにレベルをあげないと、いろんな意味でまずい。
異世界に来て、金欠に悩まされるなんて絶対にやだった。
それに、さすがにビアズリー商会と癒着しすぎると、なにか問題があったときにベラんちが矢面になりかねない。
今は細々とした商売だからいいものの、先々は、この領地とはまったく関わりのなさそうな商会に伝手を作らないとやばい。これは、インターネットがない引きこもりという……かなり原始的な状態を考えると、自分で外に行くことを考えなければだめだ。
フェルトという護衛ができた今、外に行くことを視野に入れることができるのは、非常に心強い。
なんつーか、色々まだ問題は山積みだけど、動くべきときに使うべき駒は、わりと手元にそろってきている。
それがとてもありがたい。
「なんか懸念点あった?」
「そうですね。せっかく毒虫系のモンスターがいるんだから、水の中にも放したらどうですか?」
「えーと、水蜘蛛とか?」
「や、ヒルとかですよ。気づかない間に吸いつかれていたら、おぞましいですよ。水中で防具も脱げないから、微妙な吸血のダメージを延々くらうはめになるし」
それを聞いたフェルトが声にならない悲鳴をあげた。
「~~~~~ッッ!!!!!」
「………………………オリバー、お前…………」
「……………あ」
ということで、水中には、吸血ヒルが追加されることになった。
もうみなさんご存知、冒険者の敵は――オリバーである。
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