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1-3 ラムレイ辺境伯領グレンヴィルより
64 デート(フェルト視点)・前
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※※フェルト視点です
「フェルト様、揺れるので……手をつないでいてもいいですか?」
俺の股の間に座った、超絶美少女が俺のことを上目遣いで振り返りながら尋ねた。
馬上で揺れる銀色の髪は午前中の太陽に透けて、一筋一筋が硝子細工のように煌めいていた。森の緑の中の小道を走りながら馬上に2人でいる俺たちは、遠くから見れば、1枚の絵画のように見えるかもしれない。
たとえそれが演技であろうと、心なしか涙目で、弱々しく縋るように差し出された手を、振りほどく術を俺は知らない。濡れたアメジストの瞳に吸いこまれてしまいそうだ。差し出された白魚のような美しい手を優しく握ると、きゅっと確かめるように弱く握り返され、俺の心臓はドキンと脈打った。
「フェルト様の手、あったかいです」
繋がれた手に滑らかな頬をすりっと寄せながら、あなたのことを愛しています……みたいな表情で微笑まれ、トンと背中を胸に当てられると、そのまま抱きしめて連れさってしまいたいような気持ちになる。
薄くひらかれたピンク色の艶やかな唇を貪って、己の欲望のまま、どこかに2人で――。
「フェルト様……」
俺の思考を読み取ったかのように、目の前の美少女が上目遣いでこちらを見つめ、そっと目を閉じた。
ぱさりと音をたてそうなほど長いまつ毛が、不安げに伏せられていて。俺は吸い寄せられるように顔を寄せ、その唇に、自分の唇を重ねた。
柔らかい感触が自分の唇から伝わり、ドクドクと心臓が激しく鳴った。
いつもはもっと深いキスも、それ以上のことも……したことはあるけど、純真無垢に見える今のレイ相手に、そんな無理矢理なことはできない。俺がそっと唇を離そうとすると、羽根ペン以上に重いものを持ったこともないようなその美しい両手が俺のうなじにまわり、ぐいっと考えられない力で引き寄せた。
「んんッ!」
熱い舌が俺の口内の弱いところを撫であげ、1番弱い上顎に舌先を当てられたかと思うと、じらすように動かなくなった。んっと思わず甘い声を上げてしまい目を開けると、挑むようにこちらを見ている紫の瞳と目があった。
それからにやりと意地悪くその瞳が歪み……
「――なあ、もっとえろいことしよ」
と、その容姿からは想像もつかない下品な挑発を紡ぎだした。
途端、俺の体温は一気に上昇した。おそらく……顔も耳も真っ赤になっているだろう。俺は馬を止め、顔を片手で隠すと、制止の言葉を発した。
「待って。ちょっと……待って。ほんと、お願い……待って!」
「なんですか?」
「レイ、俺をどうしたいの?! もう……だめ。そんなかわいい格好で、そんなこと言わないで!」
俺は極力、その美少女――今日のレイのほうを見ないようにしながら、どうにか言い切った。
レイは一瞬きょとんとした顔をしていたが、いつものにやにやとした意地悪そうな顔になると、俺の耳元に唇を寄せひどい言葉を口にした。
「俺のこと……好きにしていいよ。……ふぇるとさま」
ドクンッと心臓がすごい勢いで跳ねた。
胸にしなだれかかってくるレイの肩を掴んでガッと引き離すと、俺はその性格の悪い悪魔を睨んだ。だが……睨んでいる俺の目は、もはや涙目だ。
「レイは俺のことどうしたいわけーッ?!」
必死で叫ぶ俺を見て、レイが、あはは! といつものように声を上げて笑った。
う……か、かわいい。こんなにかわいいのに……性格があんなだなんてひどい。
「どうしたいわけって言われてもなー? 俺がこうやってかわいくしてたら、フェルト……めろめろになる?」
「……めろめろって」
俺はがっくりと項垂れた。
レイには言ったことはないけど、俺はもうすでに……大概レイにはめろめろだと思う。ただ、なんとなく、俺が好きと言ったところで受け入れてもらえないだろうなあと思うだけで。それで、どうやってもっと仲良くなればいいのかも、わからないだけで。
本当はもう言ってしまいたい。もうとっくにレイのことばっかり考えてるよって。
「せっかく今日は女だからさー? どうせなら、フェルトが喜ぶ女してあげたいじゃん? よくない? えろかわ」
レイは自分のかわいさを理解しているかもしれないし、中身が変態なことは身を以て知っているけれども、でも、そのかわいさでエロさをプラスしてしまった場合、男は我慢できなくなるってことをレイは知らない。主に、圧倒的に〝自分のかわいさへの理解度〟が足りてない。
レイはとても強い人間だと俺は思ってて。
自分の容姿のことも理解しているし自信はあるみたいだけど、本当のかわいさは容姿だけじゃないってことを、本人はわかってない。
人はきっとレイのことをかわいいと思うだろうし、綺麗だと思うだろうし、美しいと思うだろうけど、それは外見の話で、本当にかわいいのはレイの無邪気なところだと、俺は思う。
どうしてあんなに非道なことをしながらその無邪気さを保てるのかは、本当に不思議だけど。レイが屈託なく笑っている姿を見ると、俺はもう、結局……なんでも許してしまいたい気持ちになる。
今日はルナティックのために絵画を描いてもらうってことで、レイと俺はレンベルグのお店に向かっているところだ。レイは女性として描かれるわけだから、それで朝から女の子の格好をしている。
朝、レイを見たときの衝撃ったらなかった。
以前、女の子の体になっていたときはいつものスウェットだったから、そこまで違和感もなかった。でも、イザベラ嬢が用意したドレスに身を包んだレイは、本当に絶世の美少女だった。
微笑まれて、ピシッと硬直してしまった。
黙り込んでいる俺を見て不思議に思ったレイが、訝しげに下から覗いてくる。
うう、かわいい。
眉尻を下げ、困ったような表情を作りながら言った。
「レイ、楽しみにしてたんです。今日はデートなんだから、フェルト様……怒らないで?」
「……ッ! だから……お、怒ってないよ! レイもふざけてないで、馬上なんだからしっかり前見てて」
ドクドクと忙しなく脈打つ自身の心臓を叱咤しながら、俺はレンベルグの街へと再び馬を走らせた。
レイは俺のことをからかうけど、俺に好意はあるとは思う。
キスは……俺としかしたことがないって言ってたから、さすがに鈍い俺だって、少しは好意があるって思いたい。それから、とても……嬉しかった。
だから、キスを要求されるとふらふらと近づいてしまう。
本当はだめなのかも、しれないんだけど。
(だって、俺としかしないんだって思うと……だめで)
俺は経験が少なすぎて、レイがなにを気にしていて、なにを不安に思っていて、それでどうして好きなのにうまくいかない気がするのかって俺にはまだわからない。でも、いつかその不安を取り除いてあげられる方法が見つかったら、俺は……レイが安心できるまでなんでもしてあげたいって……思うんだけどなあ。
って、――あれ?
「……え、ちょっと待って。これってデートだったの?」
「だって2人で出かけてんじゃん。ベラとの約束まで街ふらふらしようって言っただろ」
――あ。
し、しまった……! もっとちゃんと行くとことか考えとけばよかった!!!
でも、レイのことだから、きっとこの前みたいに……どこでも楽しそうにするんだろうな。こないだ市井の食べ物であんなにはしゃいでたし、人気のあるお菓子屋さんにでも連れてってあげよう。
「そうだった」
と言ってにっこり笑ったら、レイがちらりとこちらを見て、ぷいと目を反らした。後ろから見てると、耳が少し赤くなっているような気がした。不貞腐れたように、ドンッと胸に体重をかけられたけど……どうしたんだろ。
ああ、俺の腕の中にある少し低めの温もりが……愛おしい。
いつか俺がレイの不安を取り去ることができて、いつだって笑顔にしてあげることができたら、きっとすごく……すごく、大切にするのになあ。
俺はレイのことが、本当に、好きなんだろうな……
「フェルト様、揺れるので……手をつないでいてもいいですか?」
俺の股の間に座った、超絶美少女が俺のことを上目遣いで振り返りながら尋ねた。
馬上で揺れる銀色の髪は午前中の太陽に透けて、一筋一筋が硝子細工のように煌めいていた。森の緑の中の小道を走りながら馬上に2人でいる俺たちは、遠くから見れば、1枚の絵画のように見えるかもしれない。
たとえそれが演技であろうと、心なしか涙目で、弱々しく縋るように差し出された手を、振りほどく術を俺は知らない。濡れたアメジストの瞳に吸いこまれてしまいそうだ。差し出された白魚のような美しい手を優しく握ると、きゅっと確かめるように弱く握り返され、俺の心臓はドキンと脈打った。
「フェルト様の手、あったかいです」
繋がれた手に滑らかな頬をすりっと寄せながら、あなたのことを愛しています……みたいな表情で微笑まれ、トンと背中を胸に当てられると、そのまま抱きしめて連れさってしまいたいような気持ちになる。
薄くひらかれたピンク色の艶やかな唇を貪って、己の欲望のまま、どこかに2人で――。
「フェルト様……」
俺の思考を読み取ったかのように、目の前の美少女が上目遣いでこちらを見つめ、そっと目を閉じた。
ぱさりと音をたてそうなほど長いまつ毛が、不安げに伏せられていて。俺は吸い寄せられるように顔を寄せ、その唇に、自分の唇を重ねた。
柔らかい感触が自分の唇から伝わり、ドクドクと心臓が激しく鳴った。
いつもはもっと深いキスも、それ以上のことも……したことはあるけど、純真無垢に見える今のレイ相手に、そんな無理矢理なことはできない。俺がそっと唇を離そうとすると、羽根ペン以上に重いものを持ったこともないようなその美しい両手が俺のうなじにまわり、ぐいっと考えられない力で引き寄せた。
「んんッ!」
熱い舌が俺の口内の弱いところを撫であげ、1番弱い上顎に舌先を当てられたかと思うと、じらすように動かなくなった。んっと思わず甘い声を上げてしまい目を開けると、挑むようにこちらを見ている紫の瞳と目があった。
それからにやりと意地悪くその瞳が歪み……
「――なあ、もっとえろいことしよ」
と、その容姿からは想像もつかない下品な挑発を紡ぎだした。
途端、俺の体温は一気に上昇した。おそらく……顔も耳も真っ赤になっているだろう。俺は馬を止め、顔を片手で隠すと、制止の言葉を発した。
「待って。ちょっと……待って。ほんと、お願い……待って!」
「なんですか?」
「レイ、俺をどうしたいの?! もう……だめ。そんなかわいい格好で、そんなこと言わないで!」
俺は極力、その美少女――今日のレイのほうを見ないようにしながら、どうにか言い切った。
レイは一瞬きょとんとした顔をしていたが、いつものにやにやとした意地悪そうな顔になると、俺の耳元に唇を寄せひどい言葉を口にした。
「俺のこと……好きにしていいよ。……ふぇるとさま」
ドクンッと心臓がすごい勢いで跳ねた。
胸にしなだれかかってくるレイの肩を掴んでガッと引き離すと、俺はその性格の悪い悪魔を睨んだ。だが……睨んでいる俺の目は、もはや涙目だ。
「レイは俺のことどうしたいわけーッ?!」
必死で叫ぶ俺を見て、レイが、あはは! といつものように声を上げて笑った。
う……か、かわいい。こんなにかわいいのに……性格があんなだなんてひどい。
「どうしたいわけって言われてもなー? 俺がこうやってかわいくしてたら、フェルト……めろめろになる?」
「……めろめろって」
俺はがっくりと項垂れた。
レイには言ったことはないけど、俺はもうすでに……大概レイにはめろめろだと思う。ただ、なんとなく、俺が好きと言ったところで受け入れてもらえないだろうなあと思うだけで。それで、どうやってもっと仲良くなればいいのかも、わからないだけで。
本当はもう言ってしまいたい。もうとっくにレイのことばっかり考えてるよって。
「せっかく今日は女だからさー? どうせなら、フェルトが喜ぶ女してあげたいじゃん? よくない? えろかわ」
レイは自分のかわいさを理解しているかもしれないし、中身が変態なことは身を以て知っているけれども、でも、そのかわいさでエロさをプラスしてしまった場合、男は我慢できなくなるってことをレイは知らない。主に、圧倒的に〝自分のかわいさへの理解度〟が足りてない。
レイはとても強い人間だと俺は思ってて。
自分の容姿のことも理解しているし自信はあるみたいだけど、本当のかわいさは容姿だけじゃないってことを、本人はわかってない。
人はきっとレイのことをかわいいと思うだろうし、綺麗だと思うだろうし、美しいと思うだろうけど、それは外見の話で、本当にかわいいのはレイの無邪気なところだと、俺は思う。
どうしてあんなに非道なことをしながらその無邪気さを保てるのかは、本当に不思議だけど。レイが屈託なく笑っている姿を見ると、俺はもう、結局……なんでも許してしまいたい気持ちになる。
今日はルナティックのために絵画を描いてもらうってことで、レイと俺はレンベルグのお店に向かっているところだ。レイは女性として描かれるわけだから、それで朝から女の子の格好をしている。
朝、レイを見たときの衝撃ったらなかった。
以前、女の子の体になっていたときはいつものスウェットだったから、そこまで違和感もなかった。でも、イザベラ嬢が用意したドレスに身を包んだレイは、本当に絶世の美少女だった。
微笑まれて、ピシッと硬直してしまった。
黙り込んでいる俺を見て不思議に思ったレイが、訝しげに下から覗いてくる。
うう、かわいい。
眉尻を下げ、困ったような表情を作りながら言った。
「レイ、楽しみにしてたんです。今日はデートなんだから、フェルト様……怒らないで?」
「……ッ! だから……お、怒ってないよ! レイもふざけてないで、馬上なんだからしっかり前見てて」
ドクドクと忙しなく脈打つ自身の心臓を叱咤しながら、俺はレンベルグの街へと再び馬を走らせた。
レイは俺のことをからかうけど、俺に好意はあるとは思う。
キスは……俺としかしたことがないって言ってたから、さすがに鈍い俺だって、少しは好意があるって思いたい。それから、とても……嬉しかった。
だから、キスを要求されるとふらふらと近づいてしまう。
本当はだめなのかも、しれないんだけど。
(だって、俺としかしないんだって思うと……だめで)
俺は経験が少なすぎて、レイがなにを気にしていて、なにを不安に思っていて、それでどうして好きなのにうまくいかない気がするのかって俺にはまだわからない。でも、いつかその不安を取り除いてあげられる方法が見つかったら、俺は……レイが安心できるまでなんでもしてあげたいって……思うんだけどなあ。
って、――あれ?
「……え、ちょっと待って。これってデートだったの?」
「だって2人で出かけてんじゃん。ベラとの約束まで街ふらふらしようって言っただろ」
――あ。
し、しまった……! もっとちゃんと行くとことか考えとけばよかった!!!
でも、レイのことだから、きっとこの前みたいに……どこでも楽しそうにするんだろうな。こないだ市井の食べ物であんなにはしゃいでたし、人気のあるお菓子屋さんにでも連れてってあげよう。
「そうだった」
と言ってにっこり笑ったら、レイがちらりとこちらを見て、ぷいと目を反らした。後ろから見てると、耳が少し赤くなっているような気がした。不貞腐れたように、ドンッと胸に体重をかけられたけど……どうしたんだろ。
ああ、俺の腕の中にある少し低めの温もりが……愛おしい。
いつか俺がレイの不安を取り去ることができて、いつだって笑顔にしてあげることができたら、きっとすごく……すごく、大切にするのになあ。
俺はレイのことが、本当に、好きなんだろうな……
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