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1-3 ラムレイ辺境伯領グレンヴィルより
59 害のない対価・後
「――うん、それも、確かに魅力的なんだけどさ。なんとなーく、レイとは……こっちの方向のほうがいい気がするんだよね」
「こっち?」
「うん、そうだね。うん、友達になろうよ」
「――は?」
ともだち? 誰と? え、……俺と?
それの一体なにがこいつのメリットになるんだ、と一瞬脳が疑念に満ち訝しげな表情を作ってしまったが、しばらくその言葉を噛み締めていたら、俺の中でなんだか明るい感情が浮上してきた。
「友達!」
「そうそう。友達。あ、ほらやっぱり。なんとなく……こっちが正解な気がした」
思いのほか明るい声で言った俺に、自分の要求に納得するかのように、リンがうんうんと頷いた。
異世界に来てからの引きこもり生活で、俺の活動範囲は極端に狭い。関わる人間としては、オリバーやベラもいて、やつらも友達みたいなものだが、仕事仲間でもある。利害関係のない『友達』っていうのはとても魅力的なもののように思った。
土魔法に頼ることもあるかもしれないけど、それは金銭が発生しているわけではないから、仕事仲間にカウントする必要もないだろう。しかも、あんなに簡単にできるなら、少しくらい手伝ってもらったっていいはずなのだ。
だって普通にずるいだろ。
でも、それを言うためだけになんでわざわざ森のほうまで来たんだろう? と不思議に思った
話しはもうそれ以上ないようなので、にまにまとうっかりこぼれてしまう笑みを隠さずに、フェルトのところに戻ると、フェルトはこちらを睨んでいた。
「フェルト……?」
「なに話してたの」
俺の様子を見て、不機嫌を隠す気もないようなフェルトに、リンが横から言った。
「対価の話だよ~。僕だって一応働いたんだから、1つくらい言うこと聞いてもらわないと割りに合わないでしょ?」
「言うことを聞くって、なにを要求したんですか」
「フェルト。別に大したことじゃないから大丈夫だ。心配しなくていい」
「…………」
「レイ、今夜は泊まってってもいい? 実はどちらにしろダンジョン見る予定だったからさ、野宿するつもりだったんだ。レイの家はアッカ村の中? いいお酒持ってるから飲もーよ」
「ああ、それならちょうどいいよ。ついでにダンジョンも案内できるから」
なぜか黙りこんでしまったフェルトをそのままに、ん? と首を傾げるリンに、ことの起こりをざっくりと説明しながら歩いた。もちろんオリバーやフェルトとは違い、詳しい話を全部するつもりはないが、オリバーやフェルトのときと同様に概ね受け入れてくれるといいのだけど。
フェルトは、どうしてこんなにリンを警戒するんだろうか。王都での素行がよほど悪かったのかもしれない。そのわりに信用はしているようだったから、もしかすると女関係だけ悪いとかなのかも。俺に手を出さないか心配してくれているのだとすれば、これも嫉妬……? ということになるのだろうか。
んー? ……嫉妬?
へえ……? もし、そうなんだとしたら、それはなんとなくだけど……嬉しい気がする。
恋愛感情なかったとしても、俺のことを気にかけているって思っていいわけだろうから。リンが横でフェルトの様子を見ながらニヤニヤしているのを見ると、リンはこの不機嫌なフェルトの表情を見るためだけに森のほうまで行き、大した内容でもないのにわざわざ内緒話のように話したのだろう。
性格が悪い。なんか似たようなものを感じる。
でもリンは賢いと思う。
俺の印象はやつの中でそんなに悪くないらしく、おそらくは、俺という人間と利害関係なく、1番自然に長く付き合えそうな関係を要求してきた。それは関係としては損もなければ益もない関係だが、だからこそ、俺の中での自分の価値を……1番あげたとも言える。
男でも女でも俺に近寄ってくる人間は、大概利益を考える。
それは、金銭だけではなく、恋愛関係、肉体関係、仕事関係……その利益は多岐にわたる。
リンはその俺の過去を知っているかのようだ。
要求されれば、俺は応えるかもしれないけど、心を受け渡すことは未来永劫なくなったのだから。
リンはそれを知ってか知らずか、俺との関係をとった。なんだか見透かされているような気分になった。
人間を……よく見ている。
こういうやつと友達になると、多分俺としては楽だろうなと思う。
相手が誰であろうと、自分のことを理解してくれる人間がいるっていうのは、楽だ。見透かされて嫌だと思うこともあるかもしれないが、言わなくてもわかってくれるなら、それは俺みたいな面倒くさがりとは、相性がいいと思った。
「えー まじでダンジョンに住んでるの?」
驚くリンに、フェルトたち調査団のことやラムレイのことも含め、かいつまんで話す。
……長い話になりそうだなー。
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