引きこもりの俺の『冒険』がはじまらない!〜乙女ゲー最凶ダンジョン経営〜

ばつ森⚡️8/22新刊

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1-4 反乱の狼煙

68 招かれざる客・中



 
「え、暗殺?」

 こくこくと頷きながら、フェルトはそいつの着ていたシャツの腹のあたりをめくって、筋肉のつき方とかが……と首をかしげる。
 靴を脱がせズボンの裾をめくると、案の定、凶器を収納するための布を脚に巻いていて、その中には仕込み針のような武器やナイフが数本入っていた。
 引きずっていたほうの足には深い切り傷があって、面倒なのでズボンもシャツも脱がせると、体中鞭で打たれたみたいな跡だらけだった。
 俺が手を翳して、ひとつずつ治しているのを見ながら、オリバーが、哀れむような目をして言った。

「黒髪黒目の子は忌み嫌われる風習ですから。うしろ暗い組織に引き取られて、そういった教育をされることもあります。幸か不幸か、黒髪黒目は暗闇に紛れますし、孤児に多いですからね。逃げてきたんでしょうか?」
「――でも、刃物の手入れがすごく丁寧だ。所作は素人だったけど、現役の可能性を考えたほうがいいよ」

 フェルトは刃物を回収して、じっと見ながらそう言うと、治療を終えた俺を近づけないようにそっと背にかばった。

「誰かを暗殺するために、ここにいるってことか?」
「それか、なにかしらの調査か……関係ない任務の遂行中かもしれないし」
「ふうん。畑を耕してたことを考えると、この村に定住する気だろ? そうだとしたら、俺かベラか、あるいはフェルトか……の調査だろうな」
「あと、メルヴィル卿の可能性もありますね。毎週来てますから」

 そこまで話したところで、ポーラが水差しとコップを持って来てくれて、にこにこと会釈して出てった。

「――……ううん」

 寝てたやつが起きる気配がして、そっちを見ると、ちょうど目を開けたところだった。俺たちを見てハッとすると、無意識なんだろうが、さっきの布が巻いてあった脚に手をやった。
 もう武器は取り上げたあとだが、その行動が……そいつが現役の暗殺者である証拠でもあった。
 自分が裸なことに気づくと、慌てた様子で毛布をたぐりよせた。やっぱり瞳も黒だった。顔は幼く、まだ十二才くらいだろうな……と思った。

「お前……とにかく水飲め」
「イッいい! いいですッ!!!」
「怪我は治したから、もう普通に歩けるはずだ」
「へ?」

 そいつはきょろきょろと自分の体を見回し、あったはずの傷が全部消えているのを見て、唖然とした表情を浮かべた。自分が暗殺者だと気づかれたと思ったんだろう。

「……こ、殺すのか」
「アホか。殺すなら怪我治さねーし、さっき殺しておくだろ」

 その子どもからピリピリと殺気を向けられて、フェルトも負けじと怖いオーラを放ちながら、悪態をつく俺の前に立っている。少し考えればわかることなはずだけど、おそらく子どもは気が動転しているんだろう。

「……拷問したって無駄だ。なにも話さないからな」
「別に、お前に聞くこともねーよ」
「じゃ、じゃあッ! ど、どうする気なんだ!!!」
「別に。小麦がんばって作ってくれたら、俺はそれでいいけど」
「――……は? 小麦??」

 とにかく水を飲んで落ち着け、とコップを渡す。子どもはしばらく警戒していたが、喉が乾きすぎていたのか渋々口にしていた。そういう判断の甘さは、子どもっぽいなーと思う。
 ごくごくと水を飲み干しながらも、俺をじろじろと睨んでいるのを見て、ハアとため息が出る。

 仕方がないので、自分の髪と目を黒に戻して、ついでにオリバーの顔をグランの顔に変えてみた。
 得体のしれないやつに手のうちをあっさりと明かす俺を見て、「レイ……」とフェルトが不満げな声をあげた。でもさ、あんな怪我して鞭打たれてまでやってる仕事を、楽しいと思ってるやつはいないと思うよ。

「お前さ、髪と目の色を変えて欲しかったら変えてやるけど、どうする? 容姿も変えたいなら、見ての通り――それもできる。俺、そういう変な魔法できるから」

 俺の魔法を見て呆然としているそいつは、まだ頭が働かないのか、目をぱちぱちと瞬かせるだけだった。

「黒髪ってこの国だと大変なんだろ? 俺は別に困ったことないけど。そのせいでやらなくちゃいけないことしてるなら、こういう選択肢もあるぞってことだけ」
「……い、いらない」

 ああ、なにか、抜けられない契約……人質か。なにかしらの理由がありそうだ。

「そう、これからどうする気なんだ?」
「別に。黒髪のやつができることなんて、限られてるから」
「ふうん、変えてやるって言ってんのに変えない。黒髪だからって諦める。俺、そういうの嫌いだわ。じゃあ勝手にしろ」
「――れ、れい様」

 俺は自分の髪と目を銀と紫に戻して、オリバーの顔も戻してやった。そいつは、また目をまんまるにして、それを見ていた。

「そ、その、――それって……俺以外の人間にもできるのか?」
「ほかの黒髪のやつってこと? できるし、なんの労力もいらないし、一生そのままでいることもできる。対価も特に要らない。ただの魔法だからなー」

 同じ黒髪の仲間か、人質を取られてるか、の二択だろうな……これは。でも、興味はひけたみたいだ。こうなると、後は交渉だけだから、話は早い。そいつは、とぎれとぎれに話を続けた。

「お、俺はいいんだ。このままで。どちらにしろ、俺にできることなんて限られてるから。その……い、妹がいて……妹も黒髪なんだ」

 ――妹か。黒髪の女はどんな仕打ちを受けるものなんだろう。暗殺者であろうとなかろうと、いい待遇はされていないだろうな、という気がして嫌な気持ちになった。

「妹でも、弟でも、仲間でも、別に何人だって俺は構わないけど」
「何人でも?! ど、どうしてそんな――」
「いや、だから……俺も黒髪だし。別に毛がなに色でも俺の性格は変わらないし。お前だって、あんな怪我してまでやりたい仕事をやってるってわけじゃないんだろ?」
「――……それは」

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