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1-4 反乱の狼煙
69 招かれざる客・後
そいつはすごい考えているようで、俯いて、黙ってしまった。
いろいろ将来の可能性とかリスクとか……子どもながらに考えているんだろう。
「お前、名前は?」
「……ニア」
「ニアな! なんか心配なことがあるとしても、顔変えたら足もつかないし、妹も金髪碧眼のお姫様にでもなんにもでしてやれるぞ?」
「金髪碧眼――……」
ニアはなにかを思い出したのか、ふふっと小さく笑った。もしかしたら、本当にそうなりたいって妹が言ってたのかもしれない。
「この村は辺境だから。お前がなんなのかはよくわかんないけど、わざわざ誰かが追ってくるようなこともないと思うし、ただの村だから、農民として生きることもできる。正直、俺はお前みたいな子どもが、あんな傷を作ってまで危険な仕事をしなくちゃいけないっていうなら、もはや別人として生きればと思うけど」
「別人としてか……なんでそこまでしてくれるんだ? 俺がお前を殺しにきたやつかもしれないんだぞ」
「俺を殺しに来たやつなら、余計に、恩売っとかないと殺されるだろ」
「はあ??? 今殺しちゃえば、楽じゃん」
「俺は子どもとか、健気なかんじのやつに弱いんだ! だいたいお前はまだ子どもなんだから、軽々しく殺しちゃえば? なんて言うな」
ほかにすげ替えられるだけだし……ということは口にする必要もないだろう。
ニアは理解できないという顔をして、周りにいるオリバーとフェルトの顔を見渡した。二人が困ったように笑っているだけなのを見て、なにかを察したようだった。
「それに、お前の目も髪も普通に黒できれいだけどなー。顔立ちも整ってるし、将来イケメンになると思うけど」
「いけめん?」
「あと、3年くらいたてば、俺好みの――……」
俺はするするとニアの首筋を撫で、そのまま胸筋の間を通りへそまで指を滑らせると、顔を近寄せてニアの耳元で囁いた。
「いい男になりそうだし」
俺は声が低いから、ぞくっとするって言われたことがある。効果を知ってて使う。
ニアは顔を真っ赤にして、毛布をぎゅっと握りしめていた。うんうん、その調子で、フェルトみたいないい男に育ってくれ。そうしたら、俺がぺろりといただいてやるから。
ニアの反応を見て満足げに笑っていたら、横からハアとため息が聞こえた。見ると、フェルトが不機嫌そうな顔で横を向いていて、オリバーは呆れたような顔をしていた。
「あーあ、まだ幼気な子だったのに。こうやって人間は悪魔に唆されるんですね。フェルトさんといい、この子といい、不憫です」
「え、俺も唆されてる?!」
「ああ?俺は素直な感想を伝えただけで、なにも悪いことはしてないだろ」
俺たちが話しているのをニアは呆然と見ていたが、ぶんぶんと頭を振ると、口をひらいた。
「わかった。俺はこのままでいいんだ。ただ、――妹を連れてくるから。そのときは、顔の造りも髪も目も、変えてやってほしい」
「妹はどこでなにしてんだ?」
「俺の上司の屋敷で下働きをしてる。普通の娘だ。ただ……髪を無理矢理染めてるとはいえ黒髪なのはバレてるから、扱いはひどいし、ろくな生活はしてない」
そうか。それでも、兄がこうして身を削って守っているから、通常の黒髪の子よりはましな状態なんだろうな……と、なんとなく思った。
「お前はどうすんだ?」
「俺は、この稼業のままでいいんだ。わりと筋がいいって言われたし、お前の下で働きたい――あッ! ……です」
「はあ? 俺の下で? 妹と一緒に、芋掘って小麦植えてろよ。まだ子どもなんだから。そもそも、お前一体なんの調査でここにいるんだ」
「ああ、上もまだわかってないみたいだった。とにかく、グレンヴィルの様子が最近おかしいから、入り込んでおけとしか言われてない」
――上もまだわかってない?
グレンヴィルっていうのはこの領地の名前だろ? 上もよくわかってないけど、なにかおかしいと考えている人間が誰かいるのか……と俺は眉を顰めた。
それはなにか、怖いことのような気がする。
ゆくゆく、ニアにもいろんなことを確認しなくてはいけない。
――〝なにか〟がおかしい――
なにがおかしいんだ?
おそらく大元の原因は……と、俺の『勘』が指し示す方向を振り向く。
今日は茶色茶目になってはいるが、本来は、ふわふわの薄茶色の毛、新緑の瞳の、精錬な騎士。俺に向かって、フェルトがまた「ん?」と不思議そうに眉をあげた。
リンと酔っぱらいながら話したことを思い出す。物語の主人公なんていう世迷いごとを。
ただ、――俺と関わったことで、ここにいるはずのない人間がいて、ここで起きるはずのないことが起きているから〝 なにかがおかしい〟と考える人間がいるんだ。
これは、ちゃんと覚えておかないといけない。
とにかく、ニアをどうするかはゆくゆく考えよう。
もしかしたら、なにかを頼まなくてはならないときも来るかもしれない。でも一生芋を掘って暮らしてくれたらいいなあとは思う。
「お前、まだ子どもなんだから、ちょっと村に住んでのんびりしてみろ。他のやつとの違いに、嫌な気持ちになることもあるかもしれないけど、でも、あの村の仲間がこれからのお前の仲間だ。俺も含めてな」
「えッ! いいよ! いい! ――です」
「まあ、どちらにしろお前に頼むことなんて当面ないよ。芋掘ってろ」
「いいってばッ!!! で、でも――だ、だ、だから、俺が三年たって、いい男になったら――」
ニアがなにかを言いかけて、え? と俺は驚く。
え、なに? 三年経ったらいただいていいっていう予約できんの? この年で、これだけしなやかな筋肉をして、人間離れした技を持ってる暗殺者だぞ。え、三年後とか……すごくおいしそうなんだけど。
俺がその言葉の続きを目を輝かせながら待っていると、横からスッと腕が伸びてきて、うしろに戻された。
「だめ。レイは俺の先約」
……先約? なんだそれ。
まあ、子どもは許容範囲外だし、三年は待たなくちゃ行けないという意味では……もうおいしくいただかれてしまっているフェルトは、先約もなにも、もうすでに俺のご馳走ではあるけれども。
「お前誰だよ」
「俺のほうが先約だから」
ニアがすごい目つきでフェルトのことを睨んだ。
でもフェルトも譲る様子はないみたいだった。俺はどっちでもいいかなーと思ってあんまり気にしてなかったけど、うしろでオリバーが哀れなものを見る目でフェルトを見ていた。
ま、とにかく、誰かが殺されるとかそういう話じゃなくてよかった……と思った。
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