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リスティアーナ女王国編
36 悪役主従とイカ・前
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「へ?」
衝撃に備えてぎゅっとつぶっていた目を僕は恐る恐る開けた。
僕の目の前には、いつもとなんら変わらない愛しい人の姿があって、僕の目からぶわっと涙が溢れた。今すぐにでもその男らしい首に抱きつきたくて手を広げ……ようとしたら、後ろで縛られていたために、イカがうねうねと生にしがみつくような動作になってしまった。
それはまさに生贄の祭壇の上のイカのようで、ひやっと背筋が凍る。
久しぶりの再会だというのに、相変わらずの死んだ魚のような目をしたケイトが言った。
「ねえ、エマ様……こんなところで一体なにしてるんですか?」
「け、ケイト~~~!」
いつもなら戸惑ってしまうその生気のない目に、僕の胸はぶわっと愛しい気持ちでいっぱいになった僕は、それしかできないのでうねることで喜びを表した。
こんなところで一体なにをしている度合いで言えば、ケイトも同じである。ケイトの姿をよく見れば、魔王崇拝者の黒いローブを着ている。先ほどまでそこにいたはずの怪物の姿もなく、僕が首をかしげていると、せっかくの感動の再会に喜んだ様子もまったくないケイトが、僕の両頬を掴みながら詰め寄ってきた。
「どうなってます? ねえ、そんな格好して、こんな台座に転がされて……」
「え、あ……えーと……」
正直に告白すると、生贄になっていました。
きっとケイトだってもしや……と勘づいているかもしれないが、そう告げるべきなのかそわそわと目を泳がしていると、ケイトが魔王みたいな顔で叫んだ。
「生贄じゃないですかッ!!!」
「ヒッ……!」
バレてた! そ、そうです。生贄です。
あれだけ「生贄じゃない」と泣き叫んでケンカ別れした記憶が思い返されて、ぶわわと僕の顔に熱が集まる。そうでなくても怒涛のようにいろんなことが起こって僕はもう限界だった。プシューと湯気が出ている気配を感じながら、だいぶ生気のなくなったまな板のイカ程度に、ひたひたと動いているとケイトがむにっと僕の真っ赤になっているであろう頬をつねった。
「ほんとに丸呑みにしますよ。そのためにそこに転がってるんですよね? ねえ、そうですよね?」
「ヒィッ」
相手は魔王である。
生贄として完璧なまでに準備されてしまった僕は、体をうねうねさせながら笑ってごまかすしかなかった。
「……あ、あはは。ケイト、魔王みたいな顔だぞ」
「恋人が生贄みたいな顔で転がされてたら、そんな顔にもなりますよ」
にこにこと笑顔を浮かべているのにも関わらず、ケイトの目は死んだ魚のような色のままだった。僕はもう、魔王に丸呑みにされる覚悟を決めるべきなのかもしれないと思い、くっと眉間に皺を寄せた。だが、丸呑みの前に僕には聞きたいことが山ほどあった。
そして、僕はハッと息を止めた。
うっかりケイトとの再会に感動してうねってしまったが、そうだ、そういえば――僕を捧げようとしていた彼は……と僕は振り返った。
僕のすぐ後ろに立っていた初老の声の黒装束の男……は、ぱさりとその黒装束のフードを落とされ、喉元に大剣を突きつけられているところだった。
「そこまでだ。――アントン」
「……は? い、一体どうやって……」
そこにいたのはそばかすの優しそうな顔立ちの男とその幼なじみである勇者の姿だった。
どうやって抜け出したのか、そこには元気そうなライナスの姿があって、僕の目にじわっと涙が浮かんだ。
(アントン……やっぱり)
アントンの足元にはケイトと一緒にレツィオーネで見た変声の魔導具がぽつんと落ちていた。
どうして口布までしないといけないんだろうと不思議に思っていたが、もしかしたらこれを咥えているのを隠すためだったんだろうか。幼なじみでありずっと一緒に旅をしてきたアントンがこの場にいて、さっきまでライナスにしたことや言っていたことを思い出すと胸が痛んだ。
ものすごーく嫌そうな顔になったライナスが言った。
「言いたくない!」
「は???」
駄々をこねる子どものような様子でそう言い切ったライナスに、アントンは目を瞬かせた。
どういうことだ? と、ケイトに視線をやれば、僕の隣でによによと勝ち誇ったような笑顔を浮かべているのが見えた。
「はッ……ていうか魔王様は一体どこへ……? なんでエマさんの恋人がこんなとこに」
そうアントンが口にするのを聞いて、たしかにさっきの怪物はどこへ行ってしまったんだろうと僕はきょろきょろと辺りを見渡した。
バサバサと黒い羽をはためかせ、小さな黒いドラゴンがケイトの肩に舞い降りたのはそのときだった。
「この御方が魔王陛下だ。愚かな人間め」
小さなドラゴンなど見たことがなかった僕は、そのかわいらしい姿に息を呑んだ。言っているセリフはまずい。
でも――。
(え、声すごくかわいい……!)
衝撃に備えてぎゅっとつぶっていた目を僕は恐る恐る開けた。
僕の目の前には、いつもとなんら変わらない愛しい人の姿があって、僕の目からぶわっと涙が溢れた。今すぐにでもその男らしい首に抱きつきたくて手を広げ……ようとしたら、後ろで縛られていたために、イカがうねうねと生にしがみつくような動作になってしまった。
それはまさに生贄の祭壇の上のイカのようで、ひやっと背筋が凍る。
久しぶりの再会だというのに、相変わらずの死んだ魚のような目をしたケイトが言った。
「ねえ、エマ様……こんなところで一体なにしてるんですか?」
「け、ケイト~~~!」
いつもなら戸惑ってしまうその生気のない目に、僕の胸はぶわっと愛しい気持ちでいっぱいになった僕は、それしかできないのでうねることで喜びを表した。
こんなところで一体なにをしている度合いで言えば、ケイトも同じである。ケイトの姿をよく見れば、魔王崇拝者の黒いローブを着ている。先ほどまでそこにいたはずの怪物の姿もなく、僕が首をかしげていると、せっかくの感動の再会に喜んだ様子もまったくないケイトが、僕の両頬を掴みながら詰め寄ってきた。
「どうなってます? ねえ、そんな格好して、こんな台座に転がされて……」
「え、あ……えーと……」
正直に告白すると、生贄になっていました。
きっとケイトだってもしや……と勘づいているかもしれないが、そう告げるべきなのかそわそわと目を泳がしていると、ケイトが魔王みたいな顔で叫んだ。
「生贄じゃないですかッ!!!」
「ヒッ……!」
バレてた! そ、そうです。生贄です。
あれだけ「生贄じゃない」と泣き叫んでケンカ別れした記憶が思い返されて、ぶわわと僕の顔に熱が集まる。そうでなくても怒涛のようにいろんなことが起こって僕はもう限界だった。プシューと湯気が出ている気配を感じながら、だいぶ生気のなくなったまな板のイカ程度に、ひたひたと動いているとケイトがむにっと僕の真っ赤になっているであろう頬をつねった。
「ほんとに丸呑みにしますよ。そのためにそこに転がってるんですよね? ねえ、そうですよね?」
「ヒィッ」
相手は魔王である。
生贄として完璧なまでに準備されてしまった僕は、体をうねうねさせながら笑ってごまかすしかなかった。
「……あ、あはは。ケイト、魔王みたいな顔だぞ」
「恋人が生贄みたいな顔で転がされてたら、そんな顔にもなりますよ」
にこにこと笑顔を浮かべているのにも関わらず、ケイトの目は死んだ魚のような色のままだった。僕はもう、魔王に丸呑みにされる覚悟を決めるべきなのかもしれないと思い、くっと眉間に皺を寄せた。だが、丸呑みの前に僕には聞きたいことが山ほどあった。
そして、僕はハッと息を止めた。
うっかりケイトとの再会に感動してうねってしまったが、そうだ、そういえば――僕を捧げようとしていた彼は……と僕は振り返った。
僕のすぐ後ろに立っていた初老の声の黒装束の男……は、ぱさりとその黒装束のフードを落とされ、喉元に大剣を突きつけられているところだった。
「そこまでだ。――アントン」
「……は? い、一体どうやって……」
そこにいたのはそばかすの優しそうな顔立ちの男とその幼なじみである勇者の姿だった。
どうやって抜け出したのか、そこには元気そうなライナスの姿があって、僕の目にじわっと涙が浮かんだ。
(アントン……やっぱり)
アントンの足元にはケイトと一緒にレツィオーネで見た変声の魔導具がぽつんと落ちていた。
どうして口布までしないといけないんだろうと不思議に思っていたが、もしかしたらこれを咥えているのを隠すためだったんだろうか。幼なじみでありずっと一緒に旅をしてきたアントンがこの場にいて、さっきまでライナスにしたことや言っていたことを思い出すと胸が痛んだ。
ものすごーく嫌そうな顔になったライナスが言った。
「言いたくない!」
「は???」
駄々をこねる子どものような様子でそう言い切ったライナスに、アントンは目を瞬かせた。
どういうことだ? と、ケイトに視線をやれば、僕の隣でによによと勝ち誇ったような笑顔を浮かべているのが見えた。
「はッ……ていうか魔王様は一体どこへ……? なんでエマさんの恋人がこんなとこに」
そうアントンが口にするのを聞いて、たしかにさっきの怪物はどこへ行ってしまったんだろうと僕はきょろきょろと辺りを見渡した。
バサバサと黒い羽をはためかせ、小さな黒いドラゴンがケイトの肩に舞い降りたのはそのときだった。
「この御方が魔王陛下だ。愚かな人間め」
小さなドラゴンなど見たことがなかった僕は、そのかわいらしい姿に息を呑んだ。言っているセリフはまずい。
でも――。
(え、声すごくかわいい……!)
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