悪役令息の僕とツレない従者の、愛しい世界の歩き方

ばつ森⚡️8/22新刊

文字の大きさ
65 / 72
リスティアーナ女王国編

38 悪役主従の仲直り・前

しおりを挟む

「え……ここ……どこ?」

 もはや、はあはあと肩で息をしている僕を横抱きにしたケイトが、漆黒の廊下を歩きながらなんともないことのように答えた。

「暗黒竜の神殿です」
 
 あのあと、ケイトの着ていた黒いローブでぐるぐる巻きにされた僕は、ケイトの闇魔法に包まれたと思った瞬間――この漆黒の廊下を歩いていた。先ほどまでのかわいい竜の姿はなく、どうやら黒い大理石でできている廊下にケイトの足音だけが響く。
 妖精王が使っていた転移魔法のように、突然違う場所に放り出された僕は目を瞬いた。
 砂漠のど真ん中にあった暗黒竜の神殿に一瞬で来てしまったのだろうか。ケイトが妖精王と同じく『王』の名を冠する者であるのだから、ケイトがそんなすごいことをできるようになっても不思議ではないかもしれないが、さすがに驚く。
 たとえここが本当に暗黒竜の神殿だとしても、あの巨大な柱がずらりと並んでいた場所とは印象がまったく違う。
 だけど頭の中がぽやんとしてしまっている僕はうまく情報が処理できずに、くったりと体を預け、ケイトを見上げるのが精一杯だった。

「ここがなんなのかってことは、あとで教えてあげますけど……生贄を捧げられるのにはピッタリでしょう?」

 妙に色気のある笑顔を浮かべたケイトにそう言われて、僕は辺りにもう一度目をやった。
 天井から下がっているのは漆黒に塗られた薄暗いシャンデリア。廊下の両壁にはおどろおどろしい絵画が所狭しと並べられて、窓ひとつないその廊下を薄笑いを浮かべながら歩くケイトは――

(本当に魔王みたいだ……)

 そして僕の体は限界を迎えていた。ケイトの着ているシャツに、さっきから無意識で頬をすがるように擦りつけてしまう。いろんなことがあって忘れていた欲望の火種が体の中でくすぶっているのがわかる。なぜかケイトが縄を解いてくれないので、荷物のようになす術もなく運ばれるしかない。
 さっきからケイトが口にしている「生贄」の意味すらもよくわからずに、ぽやんとしたまま服越しにケイトのうなじに唇をあてた。
 
「……もしかして、言葉も通じませんか」
「ん……ぁッ」

 耳元に熱い息を吹き込まれた僕は、それだけで震えてしまった。
 声色からケイトの怒りが伝わってくる。
 笑顔で僕のことを見下ろしているケイトの目がさっきから全然笑っていないことにも気がついていた。その頬に手を伸ばし引き寄せたいと思うのに、縛られた体ではなにもできなくて、緊張した空気だけがひりひりと肌を痺れさせた。
 ギィッと突き当たりにあった黒い扉が重そうな音を立ててひらいた。そして、そこには天蓋まで黒く塗られた大きなベッドが置かれていて、僕はその上に転がされてしまった。ケイトが僕を巻いていた黒いローブを取り去ると、ベッドに置かれた黒いクッションの山にドスンと背を預けた。
 転がったままそれを見ていた僕に、ケイトがゆっくりと無言で視線を流してきた。

(すごい……怒ってる)

 魔王の怒りだなんて冗談を言っていたが、これはどうやら本当に逆鱗に触れてしまったみたいんだなと思って僕は唇を噛みしめた。
 ケイトはいつも僕に怒ってくるけど、こんなにも威圧的な態度を取ることはない。縛られた手首を解放してくれないのも、きっとすごく怒っているからなんだろうなと思う。僕はおずおずと肩で体を起こし、膝立ちになってケイトの近くに寄った。
 するりと男らしい腕が伸びてきて、僕の腰にまわった。そっと引き寄せられて、僕は座ったケイト脚をまたぐように膝立ちになった。

「正直……許す気はないです」
「けいと……」
「オレもエマ様に悪いことしたなって……それはわかってるんですけど。他の男に触れられたと思うと、だめそうです」

 だめそうってどういうことだろうと思ったら、じわっと視界が潤んだ。
 ケイトの綺麗な指先が僕の着ている薄い白い布をゆっくりと割っていく。滑るように下まで伝った指先が僕の下腹で動きを止める。そこには戒められた僕の中心と、小さな下着があるのがわかって、僕はぎゅっと目をつぶった。
 だけど、ケイトの指がゆっくりと下から僕のペニスを布ごしに撫であげたので、パチッと目を開けた。震える僕に、ケイトが深く静かな声で言った。
 
「ひどいこと、したい気持ちになります」
「……ひどいこと」
「エマ様が知らないこと、全部、この体に教えてあげたいくらいで」

 ん? と、首をかしげたケイトに下から覗かれて、僕の目から涙がぶわっと込み上げる。
 そんなにいい状況じゃないことは僕にだってわかってた。だって本当に生贄にされそうになっていたんだから。でも、でも――僕だって怖い思いをして、それでもケイトに会えて嬉しかったのに……! 精神的にも身体的にも追い詰められて、僕はどうしていいかわからなくなって、ただ愛しい人にキスがしたくて、勢いよくケイトの顔にぶつかった。

「うわ! ……っいてッ……」
「うう、ご、ごめん~~~! けいとぉ……」

 ゴンッと鈍い音がした。思いっきりぶつかった僕の頭がケイトの額に致命的な打撃を与えたことにはもちろん気がついた。キスしたかっただけなのに、結局また頭突きをしてしまったことで、僕の涙腺は崩壊した。ぼろぼろ涙を流しながら、ケイトに必死に謝るしかなかった。
 ひぐっぶぎっといつぞやの汚い泣き声をあげながら、ケイトの肩口をぐちょぐちょに濡らしていく。そんな僕の背中を、ゆっくりとケイトが抱きしめた。

「だから、許しませんよ。何回頭突きされるんですか、オレ」
「……っぐぅ。やだ。許してくれないとやだ」
「そんなのずるいですよ。こんな格好のエマ様を目の前に出されたオレの気持ちは……」

 口ではいつもの小言を続けているのに、抱きしめてくれる腕が優しくて、涙が止まらなかった。
 自分の無力さはちゃんと痛感した。それでもただ、ケイトの役に立ちたかったのだ。ぽろぽろ涙を流しながら、僕はケイトに許してほしい一心で口にする。

「ひどくしていいから」
「…………それ、絶対、その格好で言っちゃだめなやつですよ」
「けいとぉ……好き。愛してるんだ」
「…………」

 どうしたら許してくれるんだろうと涙目のままケイトを見上げたら、むうっと唇を噛みしめたケイトが不貞腐れたような顔をしているのが目に入った。僕がぽやんとその様子を見ていると、ケイトの手が僕のペニスをぐっと掴んだのでビクゥッと大きく震えてしまった。
 ケイトがむっとした顔のまま尋ねた。

「これ、あの黒装束がやったんですか……?」
「ち、違……で、でもみんな手袋してたから……ちょ、直接、さワッられたわけじゃ」

「ひぁッ……ん、ぁ、け、ケイト……だめ」

 縛られたままのペニスをケイトに扱かれて、ただでさえ薬を塗り込まれている僕の体は、またすぐに火照り出した。
 快感を逃がそうとしてケイトの上で背を反らせていたら、体を差し出しているような格好になってしまって、ぶわわっと顔に熱が集まる。ケイトの指に翻弄されてビクビク震えていると、僕の罪ごと舐めるようにケイトの視線が僕のことを見上げた。

「ゆ、許して……けいと」
「だめですよ。オレの生贄なんだから」

 ちらっと下に目をやったら、ケイトの手のひらの中で僕のペニスが紐で縛られた小さな布をギチギチに押し上げているのが見えた。ぐりっと親指で布ごしに先端を擦られて、じわじわと布が湿っていくのが見える。
 ケイトは相変わらず怖い顔をしていて、泣きたくなる。本当に僕のことを生贄として抱くつもりなんだろうかと思うと、いろんな思いが駆け巡った。そんな抱き方をされたいわけじゃなかったけど、ケイトがそうしたいなら僕は従うべきなのかなっていう考えがぐるぐると巡る。
 よくわからないけど、元からそういう役割として選出されてた僕のことである。もういいやという気持ちになって、僕は泣きながら口にした。
 
「ま、魔王陛下ぁ……」
「…………は?」
「魔お……さま」
「え……今それ言うかんじですか? この状況で」

 だってケイトがさっきから生贄だって言って縄も解いてくれないからだろうと思う。
 ケイトが怒っているのはわかるけど、僕だって限界だった。いい加減許してくれたっていいと思うのだ。僕はじとっとケイトを睨みながら言った。

「い、怒りをしずめ……たまえ~……」
「ほんとに怒りますよ」
「ぁ……んん、け、ケイト……うそ。嘘だからっ! 好き。愛してる……抱きしめさせて」

 ケイトの上で身悶えていたら、ケイトがはああ~~~と深くて長いため息をついた。そして、ようやく腕の縄を解いてくれたのだった。
 ようやくこの手でケイトに抱きつくことができて、僕の胸はいっぱいになった。頬を擦りつけながらケイトの耳元で囁いた。

「好き」
「ほんと、ずるいですよ……」

 
しおりを挟む
感想 55

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

過労死転生した公務員、魔力がないだけで辺境に追放されたので、忠犬騎士と知識チートでざまぁしながら領地経営はじめます

水凪しおん
BL
過労死した元公務員の俺が転生したのは、魔法と剣が存在する異世界の、どうしようもない貧乏貴族の三男だった。 家族からは能無しと蔑まれ、与えられたのは「ゴミ捨て場」と揶揄される荒れ果てた辺境の領地。これは、事実上の追放だ。 絶望的な状況の中、俺に付き従ったのは、無口で無骨だが、その瞳に確かな忠誠を宿す一人の護衛騎士だけだった。 「大丈夫だ。俺がいる」 彼の言葉を胸に、俺は決意する。公務員として培った知識と経験、そして持ち前のしぶとさで、この最悪な領地を最高の楽園に変えてみせると。 これは、不遇な貴族と忠実な騎士が織りなす、絶望の淵から始まる領地改革ファンタジー。そして、固い絆で結ばれた二人が、やがて王国を揺るがす運命に立ち向かう物語。 無能と罵った家族に、見て見ぬふりをした者たちに、最高の「ざまぁ」をお見舞いしてやろうじゃないか!

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

【土壌改良】スキルで追放された俺、辺境で奇跡の野菜を作ってたら、聖剣の呪いに苦しむ伝説の英雄がやってきて胃袋と心を掴んでしまった

水凪しおん
BL
戦闘にも魔法にも役立たない【土壌改良】スキルを授かった伯爵家三男のフィンは、実家から追放され、痩せ果てた辺境の地へと送られる。しかし、彼は全くめげていなかった。「美味しい野菜が育てばそれでいいや」と、のんびり畑を耕し始める。 そんな彼の作る野菜は、文献にしか存在しない幻の品種だったり、食べた者の体調を回復させたりと、とんでもない奇跡の作物だった。 ある嵐の夜、フィンは一人の男と出会う。彼の名はアッシュ。魔王を倒した伝説の英雄だが、聖剣の呪いに蝕まれ、死を待つ身だった。 フィンの作る野菜スープを口にし、初めて呪いの痛みから解放されたアッシュは、フィンに宣言する。「君の作る野菜が毎日食べたい。……夫もできる」と。 ハズレスキルだと思っていた力は、実は世界を浄化する『創生の力』だった!? 無自覚な追放貴族と、彼に胃袋と心を掴まれた最強の元英雄。二人の甘くて美味しい辺境開拓スローライフが、今、始まる。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。