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隊長ヴェルト 仕事を回される
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いろいろあったが、俺は群狼武風の団長ローガに拾われた。行き場のない子供を哀れんだのだろう。最初の頃は「俺は未来から来た貴族だ」と言っていたが、当然誰も取り合ってくれなかった。
そしてこの世界にルングーザ王国はなく、ディグマイヤーという貴族も存在しないという事を緩やかに受け入れていき。いつしか俺は、自分はここでは何の力も持たない無力な子供だという事を自覚する様になった。
吹っ切れた……とは違うと思う。家族の事は心配だし、王家もローブレイト家も許せないという気持ちはある。
しかし元の世界に帰れない以上、ここでどう生きていくかを考えなくてはならない。ローガを始めとした群狼武風の面々は、俺をよく鍛えてくれた。
『こういう世の中だ。最低限の力は身に付けとけ。いざという時、何もできずにただ死ぬなんて事、嫌だろう?』
これは団長ローガの言葉だ。貴族の持つ権威とは違う、個人としての力。暴力。これが無いが故に、俺は苦渋を強いられる事になった。
きっかけがあり、環境もそろっていたのだ。俺は素直にかつ貪欲に、生き抜くための技術を身に付けていった。
やがて初めての殺しを経験し、群狼武風の一員として戦場を駆け抜ける事になる。当時の俺は16才だった。
そしてそれ以降の戦場でも幸運なことに生き残っていき。24歳を迎えた今、俺は群狼武風の一隊を率いる隊長になった。
「ヴェルト! ……いや、ヴェルト隊長か」
「アックス。どうしたんだ?」
昔を思い出していた俺の元に、顔の良い男……アックスが手を上げながら近づいてくる。アックスとは付き合いが長い。そして今は、俺の隊の副長を務めてもらっている。
「団長に呼んでこいって言われてよ。ゼルダンシアの貴族も来ていたからな。面倒事じゃねぇのか?」
「いや、笑えんなそれは」
アックスと共に団長が待つ屋敷へと向かう。
俺が過去の世界に飛んで驚いた事はいくつかある。魔法が存在しているのもそうだが、俺たちはこの数年、ある国に雇われていた。
その国とはゼルダンシア王国。元いた世界ではディグマイヤー領と隣接し、大陸に覇を唱えていたゼルダンシア帝国と同じ名だ。無関係とは思えない。
まぁだからといって、群狼武風の一員たる俺が何かする訳ではないのだが。
「アックスです。団長、ヴェルト隊長をお連れしましたよっと」
「おう、きたかヴェルト! 丁度いい、おいアックス! お前も残れ!」
俺たちは王都の一角に用意された屋敷を拠点にしている。その屋敷の一室で、団長のローガは一人の男と共に座っていた。おそらくこの男がアックスの話していた貴族だろう。
「ローガ殿。彼が……?」
「おう! さっきから話していたヴェルトだ! 若いがこう見えてうちの隊を任せている隊長の一人だ!」
「ほう……」
男は値踏みする様な目で俺を見てくる。一体なんだってんだ。
「団長。俺への要件というのは……?」
「ああ。しばらくお前をこちらのカーライル殿にお貸しする事になった」
「は……?」
王国貴族が関わってくる以上、仕事だとは思うが。いまいち要領を得ない。そんな俺に説明する様に、カーライルはオホンと咳払いをした。
「カーライル・ガルメラードであーる! 喜べ、しばらくの間、お前の力を役立ててやるのであーる!」
カーライルは俺に仕事内容を説明していく。
今、ゼルダンシア王国は北のノンヴァード王国と戦争中だ。両軍は北の平原に拠点を築き、睨み合っている。
ゼルダンシア王国側にはその拠点の近くに要塞も建造されており、カーライルはそこの視察に向かうとの事だった。
「つまり俺たちをカーライル殿の護衛に?」
「その通りだ。王国内の移動とはいえ、こんな世の中だ。昨今は兵士や傭兵崩れの賊も多いからな。道中、しっかりと私を守るのだぞ!」
一通りの打ち合わせを終えると、カーライルは屋敷を出て行った。アックスはややげんなりとした表情を見せている。
「お貴族様のお守りねぇ……」
「戦場に出て暴れてこいって仕事じゃないんだ。比較的楽な仕事じゃないか?」
カーライルの行きと帰りを守ればそれでしまいだ。少なくとも戦場に出るよりは安全だろう。
「それより俺が気になったのは、何故俺たち群狼武風を指名してきたのかという点だ。貴族ならお抱えの兵くらい、持っているだろ?」
細かい点をあげれば他にも気になるところはあったが、大きいところではこの点が気になる。その俺の疑問に答えたのはローガだった。
「カーライルは典型的な宮廷貴族だからな。普段から自分の家専属で仕えている私兵も持ってねぇのさ」
「ふぅん……?」
今は世界規模で戦乱の世の中だ。領地も持たない貴族に仕える兵は少ないのだろうか。
「特にゼルダンシア王国とノンヴァード王国は、今や大陸を二分する大国同士だ。だがうちは南部を平定し終えたばかりというタイミングもあって、余剰兵力もねぇのさ。国も戦える奴を上手い事やりくりせにゃならんのだろう」
俺たちは最近まで、王国南部で戦い続けていた。南部を平定できたのは、群狼武風の活躍も大きい。その功績が認められ、団長は城に招かれたのだ。
南部ででかい戦はもう無い事もあり、以降俺たちは王都に与えられた屋敷を拠点にしている。
「で、久々に受けた依頼がこれと……」
「王国との契約はまだ継続中だからな! カーライルからは別で金も貰っている。上手い事やってきてくれや!」
期間はおよそ一週間。ローガはできたばかりの俺の隊にこの仕事を回してきた。雑用を任せる感覚なのだろう。そう思っていたが、ローガは戦場で見せる獰猛な笑みを浮かべる。
「ヴェルト。お前にはカーライルのお守り以外に頼みたい事がある」
「……? それは一体……?」
「せっかく戦場の近くまで行くんだ。敵味方のおおよその戦力情報を集めてきてくれ」
どういう事かと聞くまでもなく、ローガは狙いを説明する。
「実は内々にだがな。陛下から正式に、王国騎士団に加わる様に言われている」
「な……!?」
「ま、まじかよ、団長!?」
ただの傭兵団が王国騎士に名を連ねる。戦乱の世において、立身出世を夢見る平民なら誰もが憧れる英雄譚だろう。
「ああ。それだけ陛下は俺たちを高く買ってくれてるのさ。もし騎士団を立ち上げたら、俺と各隊の隊長は貴族となる。しかし王国貴族の全員が、俺たちが新たに貴族の仲間入りする事に肯定的な訳ではない」
まぁそれはそうだろうな。貴族社会というのは柵も多いし、外様にでかい顔されるのを嫌がる奴らもいるだろう。
反面、戦場での活躍をよく理解している貴族の中には歓迎する者もいるだろうが。
「で、陛下はここでもう一つ、俺たちにでかい戦功を挙げさせたいと考えているのさ」
「……なるほど。見えてきたぜ」
「おう。近く俺たちはノンヴァード王国との前線に投入される事になる。そこで誰もが、これなら王国貴族として迎えるに相応しいと納得するだけの武功を挙げる」
逆に言えば、ノンヴァード王国との戦での活躍が、貴族になるための条件とも言えるか。
「まぁそういう事だからよ。しっかり情報を集めといてくれや。俺たちが大暴れしやすいようにな?」
「了解だ。しかし俺たちが騎士団にねぇ……」
群狼武風は最初、10人から始まった傭兵団だったらしい。そこをローガが中心となり、徐々に拡大していった。やがて名も売れ、今では3000人もの人員を要する大傭兵団だ。
確かにゼルダンシア王国としては、これだけの戦力が他国に流れる可能性を考えると、自分のところで好待遇を約束し、手元に置いておきたいと考えるかもしれない。
「王国も余裕がないのさ。長い戦乱続きでどこの国も疲弊はしているがな」
「大幻霊石を巡る争いか……。もう50年は続いているんだったか?」
歴史通りだとすれば、今は幻魔歴の終わり辺りだろう。ローグルの授業を流して聞いていた俺としては、具体的な歴史の流れが分からないのだが。
こんな事になると分かっていたら、ちゃんと聞いていたんだがなぁ……。
この時代で生きていくうちに身に着いた知識だが、元々この世界には8つの大幻霊石があったらしい。そして人はそれらを中心に国家を形成していった。
大幻霊石は人に「魔法」を授ける事を可能にする。魔法を得た人は、通常の人とは異なる力を得る。
これは今では特権階級……つまり貴族が独占する事になり、人は貴族を中心に魔法という異質な能力を身に付けた。
だがいつの日か、大幻霊石に濁りが見られる様になったらしい。原因は不明。しかし濁りがひどくなると最終的には砕け散るのだそうだ。
これに焦ったのは各国の貴族たちになる。これまで魔法というアドバンテージが、平民とのはっきりとした違いだった。
そして魔法は戦いにも使える。今後新たな魔法使いが生まれなくなるという事は、国の弱体化と繋がる。
自分たちの既得権益を守る事に必死な貴族は、他国の大幻霊石を奪おうと考えた。
始まりは小さな小競り合いだったらしい。だが今やその小さな火は、8つの大国といくつもの小国を巻き込んだ争いに発展していった。しかしこの50年で6つの大幻霊石が砕け、残りは2つ。
1つはゼルダンシア王国、もう1つはノンヴァード王国が保有している。この二国は今日まで、様々な国を侵略し、併合しながらここまで勢力を拡大させてきた。
この戦争の行方が、大陸の覇者を決定するものになるだろう。
(とはいえ、残った2つの大幻霊石もいつかは砕ける訳だが。それに俺のいた時代ではルングーザ王国を始め、ゼルダンシア帝国以外にも国家が存在していた。きっと一国が世界全てを支配できた訳ではなかったのだろう)
この戦争の行方に思いをはせていたが、ローガは話を続ける。
「よく不思議な石ころ一つでここまで争えるもんだとは思うがな。平民からすれば迷惑な話だぜ。だがまぁ、もうすぐこのくだらない世の中に終止符を打てるかもしれねぇ。気張ってけよ、お前ら! 俺たちの背には大衆の生活がかかってんだからよ!」
「団長……」
ローガは略奪を許さない。戦において、無関係の平民を巻き込む事を極度に嫌う。最初は何を甘い事を……と思っていたが、これはローガにとって傭兵をする上で譲れない信念だった。
以前酔っていた時に理由を聞いたが、その信念は自身の生い立ちに関係していた。
いつの間にか俺にとってローガは強く尊敬できる存在となっており、俺もローガの様な、自分の中に芯が一本通った生き方をしたいと考える様になっていた。
きっと誰よりも、ローガがこの戦乱の世を終わらせたいと願っているだろう。
「会計に話は通してある。金を受け取ったら出発までに準備を整えておけよ!」
「……了解だ。アックス、隊の主だったメンバーを俺の部屋に集めておいてくれ」
「あいよ」
さて。往復一週間の旅行準備を進めないとな。
そしてこの世界にルングーザ王国はなく、ディグマイヤーという貴族も存在しないという事を緩やかに受け入れていき。いつしか俺は、自分はここでは何の力も持たない無力な子供だという事を自覚する様になった。
吹っ切れた……とは違うと思う。家族の事は心配だし、王家もローブレイト家も許せないという気持ちはある。
しかし元の世界に帰れない以上、ここでどう生きていくかを考えなくてはならない。ローガを始めとした群狼武風の面々は、俺をよく鍛えてくれた。
『こういう世の中だ。最低限の力は身に付けとけ。いざという時、何もできずにただ死ぬなんて事、嫌だろう?』
これは団長ローガの言葉だ。貴族の持つ権威とは違う、個人としての力。暴力。これが無いが故に、俺は苦渋を強いられる事になった。
きっかけがあり、環境もそろっていたのだ。俺は素直にかつ貪欲に、生き抜くための技術を身に付けていった。
やがて初めての殺しを経験し、群狼武風の一員として戦場を駆け抜ける事になる。当時の俺は16才だった。
そしてそれ以降の戦場でも幸運なことに生き残っていき。24歳を迎えた今、俺は群狼武風の一隊を率いる隊長になった。
「ヴェルト! ……いや、ヴェルト隊長か」
「アックス。どうしたんだ?」
昔を思い出していた俺の元に、顔の良い男……アックスが手を上げながら近づいてくる。アックスとは付き合いが長い。そして今は、俺の隊の副長を務めてもらっている。
「団長に呼んでこいって言われてよ。ゼルダンシアの貴族も来ていたからな。面倒事じゃねぇのか?」
「いや、笑えんなそれは」
アックスと共に団長が待つ屋敷へと向かう。
俺が過去の世界に飛んで驚いた事はいくつかある。魔法が存在しているのもそうだが、俺たちはこの数年、ある国に雇われていた。
その国とはゼルダンシア王国。元いた世界ではディグマイヤー領と隣接し、大陸に覇を唱えていたゼルダンシア帝国と同じ名だ。無関係とは思えない。
まぁだからといって、群狼武風の一員たる俺が何かする訳ではないのだが。
「アックスです。団長、ヴェルト隊長をお連れしましたよっと」
「おう、きたかヴェルト! 丁度いい、おいアックス! お前も残れ!」
俺たちは王都の一角に用意された屋敷を拠点にしている。その屋敷の一室で、団長のローガは一人の男と共に座っていた。おそらくこの男がアックスの話していた貴族だろう。
「ローガ殿。彼が……?」
「おう! さっきから話していたヴェルトだ! 若いがこう見えてうちの隊を任せている隊長の一人だ!」
「ほう……」
男は値踏みする様な目で俺を見てくる。一体なんだってんだ。
「団長。俺への要件というのは……?」
「ああ。しばらくお前をこちらのカーライル殿にお貸しする事になった」
「は……?」
王国貴族が関わってくる以上、仕事だとは思うが。いまいち要領を得ない。そんな俺に説明する様に、カーライルはオホンと咳払いをした。
「カーライル・ガルメラードであーる! 喜べ、しばらくの間、お前の力を役立ててやるのであーる!」
カーライルは俺に仕事内容を説明していく。
今、ゼルダンシア王国は北のノンヴァード王国と戦争中だ。両軍は北の平原に拠点を築き、睨み合っている。
ゼルダンシア王国側にはその拠点の近くに要塞も建造されており、カーライルはそこの視察に向かうとの事だった。
「つまり俺たちをカーライル殿の護衛に?」
「その通りだ。王国内の移動とはいえ、こんな世の中だ。昨今は兵士や傭兵崩れの賊も多いからな。道中、しっかりと私を守るのだぞ!」
一通りの打ち合わせを終えると、カーライルは屋敷を出て行った。アックスはややげんなりとした表情を見せている。
「お貴族様のお守りねぇ……」
「戦場に出て暴れてこいって仕事じゃないんだ。比較的楽な仕事じゃないか?」
カーライルの行きと帰りを守ればそれでしまいだ。少なくとも戦場に出るよりは安全だろう。
「それより俺が気になったのは、何故俺たち群狼武風を指名してきたのかという点だ。貴族ならお抱えの兵くらい、持っているだろ?」
細かい点をあげれば他にも気になるところはあったが、大きいところではこの点が気になる。その俺の疑問に答えたのはローガだった。
「カーライルは典型的な宮廷貴族だからな。普段から自分の家専属で仕えている私兵も持ってねぇのさ」
「ふぅん……?」
今は世界規模で戦乱の世の中だ。領地も持たない貴族に仕える兵は少ないのだろうか。
「特にゼルダンシア王国とノンヴァード王国は、今や大陸を二分する大国同士だ。だがうちは南部を平定し終えたばかりというタイミングもあって、余剰兵力もねぇのさ。国も戦える奴を上手い事やりくりせにゃならんのだろう」
俺たちは最近まで、王国南部で戦い続けていた。南部を平定できたのは、群狼武風の活躍も大きい。その功績が認められ、団長は城に招かれたのだ。
南部ででかい戦はもう無い事もあり、以降俺たちは王都に与えられた屋敷を拠点にしている。
「で、久々に受けた依頼がこれと……」
「王国との契約はまだ継続中だからな! カーライルからは別で金も貰っている。上手い事やってきてくれや!」
期間はおよそ一週間。ローガはできたばかりの俺の隊にこの仕事を回してきた。雑用を任せる感覚なのだろう。そう思っていたが、ローガは戦場で見せる獰猛な笑みを浮かべる。
「ヴェルト。お前にはカーライルのお守り以外に頼みたい事がある」
「……? それは一体……?」
「せっかく戦場の近くまで行くんだ。敵味方のおおよその戦力情報を集めてきてくれ」
どういう事かと聞くまでもなく、ローガは狙いを説明する。
「実は内々にだがな。陛下から正式に、王国騎士団に加わる様に言われている」
「な……!?」
「ま、まじかよ、団長!?」
ただの傭兵団が王国騎士に名を連ねる。戦乱の世において、立身出世を夢見る平民なら誰もが憧れる英雄譚だろう。
「ああ。それだけ陛下は俺たちを高く買ってくれてるのさ。もし騎士団を立ち上げたら、俺と各隊の隊長は貴族となる。しかし王国貴族の全員が、俺たちが新たに貴族の仲間入りする事に肯定的な訳ではない」
まぁそれはそうだろうな。貴族社会というのは柵も多いし、外様にでかい顔されるのを嫌がる奴らもいるだろう。
反面、戦場での活躍をよく理解している貴族の中には歓迎する者もいるだろうが。
「で、陛下はここでもう一つ、俺たちにでかい戦功を挙げさせたいと考えているのさ」
「……なるほど。見えてきたぜ」
「おう。近く俺たちはノンヴァード王国との前線に投入される事になる。そこで誰もが、これなら王国貴族として迎えるに相応しいと納得するだけの武功を挙げる」
逆に言えば、ノンヴァード王国との戦での活躍が、貴族になるための条件とも言えるか。
「まぁそういう事だからよ。しっかり情報を集めといてくれや。俺たちが大暴れしやすいようにな?」
「了解だ。しかし俺たちが騎士団にねぇ……」
群狼武風は最初、10人から始まった傭兵団だったらしい。そこをローガが中心となり、徐々に拡大していった。やがて名も売れ、今では3000人もの人員を要する大傭兵団だ。
確かにゼルダンシア王国としては、これだけの戦力が他国に流れる可能性を考えると、自分のところで好待遇を約束し、手元に置いておきたいと考えるかもしれない。
「王国も余裕がないのさ。長い戦乱続きでどこの国も疲弊はしているがな」
「大幻霊石を巡る争いか……。もう50年は続いているんだったか?」
歴史通りだとすれば、今は幻魔歴の終わり辺りだろう。ローグルの授業を流して聞いていた俺としては、具体的な歴史の流れが分からないのだが。
こんな事になると分かっていたら、ちゃんと聞いていたんだがなぁ……。
この時代で生きていくうちに身に着いた知識だが、元々この世界には8つの大幻霊石があったらしい。そして人はそれらを中心に国家を形成していった。
大幻霊石は人に「魔法」を授ける事を可能にする。魔法を得た人は、通常の人とは異なる力を得る。
これは今では特権階級……つまり貴族が独占する事になり、人は貴族を中心に魔法という異質な能力を身に付けた。
だがいつの日か、大幻霊石に濁りが見られる様になったらしい。原因は不明。しかし濁りがひどくなると最終的には砕け散るのだそうだ。
これに焦ったのは各国の貴族たちになる。これまで魔法というアドバンテージが、平民とのはっきりとした違いだった。
そして魔法は戦いにも使える。今後新たな魔法使いが生まれなくなるという事は、国の弱体化と繋がる。
自分たちの既得権益を守る事に必死な貴族は、他国の大幻霊石を奪おうと考えた。
始まりは小さな小競り合いだったらしい。だが今やその小さな火は、8つの大国といくつもの小国を巻き込んだ争いに発展していった。しかしこの50年で6つの大幻霊石が砕け、残りは2つ。
1つはゼルダンシア王国、もう1つはノンヴァード王国が保有している。この二国は今日まで、様々な国を侵略し、併合しながらここまで勢力を拡大させてきた。
この戦争の行方が、大陸の覇者を決定するものになるだろう。
(とはいえ、残った2つの大幻霊石もいつかは砕ける訳だが。それに俺のいた時代ではルングーザ王国を始め、ゼルダンシア帝国以外にも国家が存在していた。きっと一国が世界全てを支配できた訳ではなかったのだろう)
この戦争の行方に思いをはせていたが、ローガは話を続ける。
「よく不思議な石ころ一つでここまで争えるもんだとは思うがな。平民からすれば迷惑な話だぜ。だがまぁ、もうすぐこのくだらない世の中に終止符を打てるかもしれねぇ。気張ってけよ、お前ら! 俺たちの背には大衆の生活がかかってんだからよ!」
「団長……」
ローガは略奪を許さない。戦において、無関係の平民を巻き込む事を極度に嫌う。最初は何を甘い事を……と思っていたが、これはローガにとって傭兵をする上で譲れない信念だった。
以前酔っていた時に理由を聞いたが、その信念は自身の生い立ちに関係していた。
いつの間にか俺にとってローガは強く尊敬できる存在となっており、俺もローガの様な、自分の中に芯が一本通った生き方をしたいと考える様になっていた。
きっと誰よりも、ローガがこの戦乱の世を終わらせたいと願っているだろう。
「会計に話は通してある。金を受け取ったら出発までに準備を整えておけよ!」
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