黒狼の牙 〜領地を追われた元貴族。過去の世界で魔法の力を得て現在に帰還する。え、暴力組織? やめて下さい、黒狼会は真っ当な商会です〜

ネコミコズッキーニ

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ヴェルトの方針 騒乱の予感

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 10万エルクを受け取った俺たちは、そのまま食事のできる店へと入る。そして久しぶりの料理を楽しんでいた。

「ああ、美味い! まさかまたこうして普通に飯が食えるとはなぁ!」

「ほんとほんと! それにどうやら本当に、未来の世界に来たみたいだし!」

「群狼武風が今も語り継がれているのは、何だか嬉しかったです」

 テーブルを囲みながら、俺たちはこれまで得られた情報を整理していた。中にはこれからの方針も含まれている。

「で、どうするんだヴェルト。俺は灼牙やら青鋼とかいう組織が気になるけどなぁ」

「わたしも!」

 やっぱりアックスとフィンはどこか面白そうだな。一方でロイとガードンは慎重な様子だった。

「街を裏で支配する組織ですか……。あまり良い印象はありませんね」

「ああ。噂が本当なら、殺しもやっている様な奴らだろう」

 どこも光当たる奴らもいれば、闇で蠢く奴もいる。その闇がどこまで深いかは、それこそ千差万別だろうがな。

「ふぉっふぉ。何じゃお前ら、今さら良い子ぶりおって。わしらなど人の命を奪ってなんぼの外道を歩んで来たんじゃぞ」

 それを言われたらガードンも何も言えねぇな。確かに俺たちは人の生き死にで稼いできたんだ。今さら暗殺者を雇っていそうだからどうだとか、偉そうなことは言えないだろう。

「じいさんも組織が気になるのか?」

「好き嫌いは置いておいてじゃ。考えたんじゃよ。この世界でわしらが生きるにはどうすれば良いじゃろうかっての」

 そう言うとじいさんは茶を口に含む。

「わしらがこれまで身に付けてきたのは、人殺しを含めた荒事の技術、そして経験じゃ。足を洗って全うな仕事を探すのも良いが、誰がどう言おうと、一番活躍できるのはやはりこの分野じゃろう。そしてわし自信、そのことを恥じてはおらんし、むしろ誇りを感じておる。最終的な判断は坊に任せるが、わしは最後まで現役を貫きたいのう……」

 要するに、武器を振り続けたいということだ。じいさんは魔法の力を得た事で、全盛期以上の力を取り戻したからな。このまま腕を錆びらせるのが惜しいのだろう。

 だがじいさんの考えは、俺たちに共通したところでもある。

 そう、俺たちは因果な手段で飯を食ってきた自覚はあるが、その事を恥だとは考えていないのだ。そして自分たちにもっとも適正のある生き方だとも思っている。

 まぁタイミングも良いしな。ここで俺の考えを明らかにしておくか。

「今も辺境に行けば、ゼルダンシア帝国は小競り合いがあるらしいが。俺は今さらそんなところに行ってまで、傭兵として腕を振るおうとは考えていない」

 全員の視線が俺に集まる。具体的な方針を固めた俺の意見に、意識を集中している。

「ここは……あの時、俺たちが。そしてローガが戦い抜いてきた国であり、街でもある。しばらくは帝都を拠点に、ローガの夢を叶えたい」
「団長の夢……」

「ああ。団長は常に戦に巻き込まれる平民を気にしていた。きっと戦わずに済む人たちの代わりに、自分が最前線で身体を張ってきたという自覚があったんだろう。それが良いかどうかはともかく、そんなローガだったからこそ最後まで付いていきたいと思ったのは事実だ」

 これには全員が頷く。青臭いところもあったが、間違いなくローガは俺たちにとって英雄だった。

「あくまで俺の考えだが。帝都の民の何気ない生活を守る事。これがローガの夢に繋がるんじゃないかと思っている」

「ゼルダンシア帝国民じゃなく、帝都の民?」
「ああ。さすがに俺たち6人で帝国民全部というのは無理な話だろ。だが帝都に住む人たちくらいの力にはなってやりたい」

 剣を売った店主に聞いたのだが、あの時ゼルダンシア王都は一度支配されたものの直ぐに取り返されたらしい。

 そして世界中で大幻霊石が消えた混乱が続き、その中で多くの国が生まれ、また滅んでいった。ゼルダンシアは混乱の中心にいたが、今日までその名を残し、今では大国として大陸で存在感を放っている。

 どういう形であれ、かつて俺たちがゼルダンシアのために戦った事実は変わらない。その国が今こうして大きな発展を遂げて目の前に存在しているのだ。俺は帝都から離れる気にはなれなかった。

「それにこの地はローガが最後に戦った場所だ。一度くらい、神殿に訪ねてみたいじゃないか」

「ヴェルト……」

 といっても、許可証の無い俺たちでは城壁の中には入れないのだが。

「それは良いがの。では帝都で何か仕事を探すか?」

「ああ。だが俺たちの得意分野は、じいさんの言う通り荒事関連だ。どこかで用心棒として雇ってもらおう」

 フィンは面白そうな表情で目を細める。

「あ! それじゃさっきの灼牙という組織に雇われるの!?」

「いや。あの手の組織は下手に関わり合いにならない方がいいだろ。余計な柵が生まれかねん」

 それに敵対している組織もいるんだ。動き方を誤れば、別組織から狙われる展開にもなりかねない。

 せっかく斬った張ったの世界から一歩距離を置けたのに、理由もなく自分からまた踏み込む必要はないだろう。

「ここに来る途中、馬車と遭遇しただろ?」

「ええ」

「その中の一つは作りが上等なものだった。おそらく商人とその護衛か何かだったんだろう。この規模の街だ。きっと専属の護衛を雇っている商人の一人や二人くらいいるはずだ」

 昔以上に大きく発展しているからな。さらに金と人と物が集う大都市になっているはずだ。並の商人でも、昔の下級貴族くらいの蓄えがあるかもしれない。

「そうして金と情報を集めつつ、帝都の民の生活を手助けできる様な……そんな生き方を見つけていきたいと思っている」

 それにかつてのゼルダンシア王国は、俺たち流れ者を自国の騎士団として迎えようとしてくれていたし、実際に祝福を受けさせてくれた。その義理を果たしても良いだろう。

「ま、お前がそうしたいならそれで良いぜ。俺もこの帝都がどんな街なのか、もっとよく見てみたいと思っていたところだしな!」

「そうと決まれば、まずは適当な宿でもとりませんか? 商人の情報を得るにせよ、分散して行動した方が効率的です。どこか仮の拠点を定めておいた方が、動きやすいと思うのですが」

 俺は即座にロイの提案を受け入れる。そして店員に安宿の場所を教えてもらい、早速部屋を手配した。しばらくはこの部屋を拠点に、みんなで情報収集だ。

 そして4日後。そろそろ金も尽こうとしていた時だった。俺たちは今日も馴染みの店で昼食をとる。

「ううん。ある程度、雇ってくれそうな商人の候補は絞ったけど……」

「まさかほとんどが城壁内に居を構えているとはなぁ……」

 商人は確かによく護衛を雇っていた。だが城壁内に住んでおり、直接交渉する事は不可能だった。

 城壁外にも店を構えている商人は多いが、護衛を私兵の様に常に雇い続けている者はいない。そしてその多くは、必要な時に灼牙の様な組織から人を借りている様だった。

「それよりヴェルト。もうお金なくなっちゃうよ?」

「はぁ。考えてみれば、国から雇われていた時は資金難の心配が無かったんだよなぁ……」

 そう思うと、群狼武風をそこまで大きくしたローガの手腕はすごかったのだろう。俺では6人の集団を維持するのも苦戦する有り様だ。

「ま、仕方がない。ガーディン作の投げナイフがまだ何本か残っているから、今度はこいつでも売って金を作るよ。……ところでこの店。何だかいつもと雰囲気が違うよな?」

「そうですね」

「ああ。俺も店に入った時から気になっていた」

 店員と客の数が昨日よりも少ない。昼時なのにも関わらずだ。それに店員はどこか緊張した様な顔に見える。

 俺はテーブルの近くを通った店員を捕まえ、理由を直接探ってみた。

「なぁ。俺たちここ数日この店を利用しているんだけど……」

「え、ええ。覚えています」

「何だか今日、おかしくないか? 人も少ないし……」

 若い女性店員は俺に呼び止められて少し緊張していたが、ロイとハギリじいさん、それにフィンの顔を見て落ち着きを取り戻した。

 まぁこの三人は人相的に乱暴者には見えないからな。いや、俺とアックスもそんな粗暴な見た目をしているつもりはないが。ガードンはしょうがない。

「……お客さんたち、ここの人じゃないの?」

「ああ。帝都には最近来たところなんだ」

「それじゃ知らないかもだけど。ついこの間まで、この辺りは灼牙という組織が幅を利かせていたの。でも……」

 店員によると、昨日灼牙が青鋼という対立組織に滅ぼされたそうだ。この地区の支配者が変わった事で、住民たちはどうなるか不安に感じているとの事だった。

「元々うちの店は、青鋼の奴らがよくちょっかいを出しに来ていたの。その度に灼牙の人たちが来て、荒事になっていたんだけれど……」

「その灼牙がいなくなった今、青鋼の連中が何をしてくるか分からなくなった訳だ」

「ええ。私たちバイトからすると、どっちも迷惑な人たちだったんだけど。店長と灼牙は古い代からの付き合いで……」

 これまでは代々の付き合いもあり、灼牙に金を納める代わりにいろんな厄介ごとから守ってきてもらっていたのだろう。だが灼牙がなくなった事で、今度は青鋼が大手を振ってこの地区を支配する事になった。

 おそらく青鋼は、これまで灼牙に金を納めていた人たちに、これから自分たちに納める様に促してくるだろう。断れば厄介ごとが舞い込んでくる。

 そもそもそうした利権を狙って、灼牙と争いになったはずだ。戦利品がなければ割に合わない。

「青鋼の人たちだけど、乱暴者が多いのよ。それでバイトの子たちも何人か辞めちゃって……」

「客も落ち着くまでは様子を見ようとしている訳だ。そんな中、今日も呑気に飯を食いにくる奴は事情を知らないよそ者か、危機意識のないバカか……」

 しかしレッドが所属していた組織、灼牙は負けたのか。いくつかある無頼漢の集まりの中では、比較的ましな奴らだったそうだが。

「ありがとな、お姉さん。おかげで事情が理解できたよ。ところであんたはここを辞めないのか?」

「私は……」

 その時だった。店の扉が大きな音を立てて開かれる。そして外からは5人の男たちがずかずか足音を立てながら入り込んできた。

「おら! 店主を出しやがれ!」

「俺たちは青鋼の者だ! 我らがボスの言葉を伝えにきた!」

「おうなんだてめぇら! 見世物じゃねぇぞ!」

 噂の青鋼の連中か。揉め事の予感を感じた客たちが、こそこそと店を出て行く。だがアックスとフィン、そしてじいさんはどこか面白そうな目つきで男たちを見ていた。

「おう、さっさと出てこいと言ってんだろう!」

「聞こえねぇのか!」

 男たちは大声を上げながら店の奥へと進んでいく。だが直ぐに厨房から包丁を握った男が現れた。

「うるせぇ! いきなり来ては店の中で叫びやがって! 客の迷惑だ、出て行きやがれっ!」

「はっ! てめぇが俺たち青鋼に金を納めるってんなら、直ぐに出て行ってやるとも!」

「もうこれまでの様に灼牙の連中は来ねぇぞ!」

 店主と青鋼の連中は大声で言い争いをしている。しかしあの店主もなかなかの度胸の持ち主だな。ガードンも店の奥に視線を向けている。

「ヴェルト。さっそく帝都の民が困っている様だが、どうする?」

「そうだな……」

 まぁ俺もみんなの前であれだけの啖呵を切ったんだ。このまま見過ごすのも業腹だな。

 だがここであいつらを追い払ったところで、問題の解決にはつながらないんだよなぁ。青鋼はまた別の連中をけしかけてくるだろうし、今度はもっと派手な事をするかもしれない。

 だがローガなら。それを動かない理由にはしないだろう。俺は席を立とうと腰を軽く浮かせる。だがそのタイミングで新たな男が店に入ってきた。

「待ちやがれ! これ以上この店に迷惑をかける事はこの俺が許さねぇ!」

「あん?」

 店に入ってきたのは、灼牙の腕章を身に付けたレッドだった。その声には震えがある。

「あんだぁてめぇは!」

「おい、こいつ……。灼牙の腕章を付けてやがるぞ」

「あぁ!?  灼牙の生き残りか!」

 馴染みの店が青鋼に荒らされているのを見て、見過ごせずに入ってきたのだろう。だが多勢に無勢だ。レッドに勝ち目はない。

 しかしここで俺と話していた女性店員が動く。

「お兄ちゃん……!」

「な!? シャ、シャル!? お前、まだ辞めていなかったのか……!?」

 おいおい。この二人、兄妹かよ。ああ、だからこの店員は店と灼牙の関係についても詳しかったのか。

 まぁ肝心の本人は、この無頼漢の集まりに対して否定的な様だが。青鋼の男たちはレッドに近づいてくる。

「まさか1人で乗り込んでくるとはなぁ……! 丁度いい、てめぇのところのボス同様、ぶっ殺してやる!」

「安心しろ、妹の面倒は俺たちが代わりに見てやるからよぉ!」

「っ! お前らぁ……!」

 5人はそれなりに鍛えてはいるが、ありゃ威嚇のための筋肉だな。足の動きや動作に伴う呼吸から、大した連中ではないと見た。

 ま、これ以上は店主や店員のお嬢ちゃんにも被害が及ぶか。

 俺は食べ終えて中身のなくなった木製の皿を手にすると、それを男の顔面に向かって投げる。皿は見事に命中した。

「え……」

「なんだ!?」

 全員の視線がこちらに集まる。横目にアックスたちに視線を向けると、どこかすました表情を作っていた。どういう感情なんだ、それ……。

「てめぇ……! なんのつもりだ……!?」

「ああ、皿が空になったんでな。店主に返そうと投げたんだが、まさか人に当たるとは思わなかった」

「……! 随分舐めた真似をしてくれるじゃねぇか……!」

 男たちは強く睨みつけてくる。はぁ。何が悲しくて、こんなチンピラにちょっかいを出さなきゃいけないんだ。

「よそ者か……? どうやら俺たちの事を知らない様だなぁ……!」

「青鋼っつうんだろ? さっきでかい声で話しているのが聞こえてたよ」

「……おい。その客どもを痛めつけろ」

 リーダー格の男の指示に従い、4人の男が動き出す。だがレッドはその男たちの前に立ちふさがった。

「やめろ……! 客は関係ないはずだ!」

「あぁ!? ここまで舐めた真似されたんだ、引く訳ねぇだろうが!」

 レッドの心意気は買うが、今は余計なお世話だな。

「レッド。お前には店を紹介してもらった恩があるからな。ここで返してやる。……じいさん。頼めるか?」

「ふぉっふぉ。あんまり老骨にムチ打ちたくないが、坊の言う事なら仕方ないのぅ」

 よく言うぜ。俺たちの中で一番暴れたがっているのは間違いなくじいさんだ。じいさんはその長い生を、暴力の論理が支配する世界で生きてきた。一生現役宣言をするくらい、闘争は歓迎している。

「あんだぁ!? まさかこんなじじいが俺たちの相手をするつもりかよ!?」

「ふぉっふぉ。……まぁ全部で10秒くらいじゃろ」

「あぁん!?」

「お前ら! いつまで遊んでやがる! さっさとそいつらを……!」

 次の瞬間、じいさんは青鋼の連中の眼にも止まらぬ速さで移動し、その背後に立つ。そして鞘に入ったままの刀で、男の一人を強く殴りつけた。殴られた男は地面に叩きつけられ、ピクリとも動かない。

「え……」

 そしてその場からもう一度高速移動を行い、次々と男たちを無力化していく。だいたい10秒も経った頃には、4人の男たちは地面に転がっていた。

「ふぉっふぉ。全然鍛えておらんのぅ」

 俺たち以外の全員が、あっけにとられて黙っていた。いや、あっけにとられた訳ではない。得体の知れないモノを目の当たりにして言葉が出ないのだ。

 じいさんは身体能力強化の能力を持っているからな。力を使っても、他人からは魔法の力だとは思われないだろう。

「さて。残りはお主1人じゃが。……どうするんじゃ?」

 じいさんはその視線に軽く殺気を滲ませ、男を睨みつける。男は顔を真っ青にしながらじいさんと俺たち、そして地に転がる仲間たちを見ていた。

「わしらは気分よく馴染みの店で食事を楽しんでおったのに、それを邪魔したんじゃ。腕の一本は覚悟してのことじゃろうな……!?」

「う……あ……」

 ま、この場はこんなもんだろう。俺は大きな音を立てながら手を叩く。

「そこまでだ。おい、お前。こいつら邪魔だから、さっさと店の外に運べ。それで腕は勘弁してやる」

「は、はい……!」

 男はまともに動けない4人を頑張って外まで運び、そのまま店を去って行った。

 しかし面倒な事になったな。こんなことをしても、根本的な解決にはならないんだよなぁ……。
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