黒狼の牙 〜領地を追われた元貴族。過去の世界で魔法の力を得て現在に帰還する。え、暴力組織? やめて下さい、黒狼会は真っ当な商会です〜

ネコミコズッキーニ

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多忙の騎士団長 聖王国からきた少女

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「なに……留守だと?」

「はい。丁度今朝、新たな仕入れに帝都を発ったそうでして……」

 クインシュバインは早速黒狼会に使いを送っていた。要件はヴェルトを指定の日に、騎士団の詰め所に呼び出すことだ。

 しかし帰ってきた使いからは、ヴェルトの留守が報告された。

「城壁の門番にも確認しましたが、確かに帝都を出て行っていました」

「そうか……」

 今や多くの無頼漢をまとめている黒狼会だが、一つの商会としての顔もある。特に最近は雷弓真を併合した事で、その規模はさらに拡大したばかりだ。

 新たなに始まった商売のため、帝都を出るというのは十分考えられることだった。

「実質的に黒狼会の運営を行っているダグドも連れていったようですので、何か大きな商談でもあるのでしょうが。いかがされますか、連れ戻す様に言うこともできますが……」

「いや、黒狼会は多額の税も納めている商会だ。商談一つ潰したとあれば、他の商人たちの不興を買うだろう。どうせ帝都に帰ってくるのだ、何もするな」

「は……」

 クインとて他に仕事も多く忙しい。ヴェルトの人となりは確認しておきたかったが、これならディナルドの言う通り放置でも良いかという気もしてきていた。

 それに今はヴェルトからもたらされた冥狼の情報も追っているところなのだ。特に冥狼が雇っているという暗殺者たちは早々に見つけておきたい。

「ふぅ……。こう仕事が多くてはな……。これでは戦場で剣を振っていた時の方が、いくらか楽であった……」

 特に今の立場になってからは、貴族の派閥抗争にも巻き込まれがちであり、方々に気を使う事も多い。

 それに騎士団内でのパワーバランス調整や、他家の貴族との付き合いもある。自然、ヴェルトの事は優先順位が下がっていった。

 しばらく書類仕事を進めていたが、部屋にノックが鳴る。

「団長。御子息様たちが見られていますが……」

「ああ、もうそんな時間か。通してくれ」

「はっ」

 部屋に4人の男女が入ってくる。息子のリーンハルトに加え、ダンタリウスにアリゼルダ、それにディアノーラの4人だった。

「父さん。今日からお世話になります」

「ああ。この実習期間で良い経験が積めることを願っている」

 リーンハルトたちは貴族院で順調な時を過ごしていた。卒業も近い。この時期からは多くの者が、将来を見据えた場所へ実習期間として配属されるのだ。

 ここでの評価は将来に影響し、場合によっては卒業資格が得られるかどうかにも関わってくる。

 もっとも、いきなり剣を抜いて暴れだすなど、よっぽどの問題でもなければ誰でも問題なく卒業できるのだが。

 騎士団に入りたがる者、実習期間中に騎士団に配属されたという経歴が欲しい者、様々な者がいる。クインシュバインは、ダンタリウスはまず後者だろうなと考えていた。

「他にも騎士団がある中、お前たちを正剣騎士団に配属させたのは、ヴィローラ殿下より推薦があったからだ」

「皇女殿下から……!?」

「そうだ。聞けば4人は殿下の護衛中、なかなかの働きを見せたと聞く。本来なら私も息子を自分の騎士団に配属させるという様な、目に見えた贔屓はしたくなかったのだがな。だが配属帰還中の評価は、息子やアルフォース家の娘だからと甘くつける気はない。そのつもりで励む様に」

「はい!」

「ふ……。望むところさ」

「では早速、他の者に混ざって鍛錬から始めてもらおうか」

「……えぇ⁉︎」

 部下を呼び、リーンハルトたちを練兵所へ連れて行ってもらう。新人にはまず過酷な鍛錬からというのは、どこの騎士団でも同じだった。
 



 
 帝都某所。そこでは冥狼の幹部たちが集っていた。

「まさか雷弓真がな……」

「あんな奴らはどうでもいい。問題は戦闘員である閃刺鉄鷲がやられたことだ……!」

「閃刺鉄鷲といっても、奴らは枝葉だろう」

「枝葉であろうと、失ったのは事実だねぇ。しかも見たところ、黒狼会の最高幹部たちは誰も死んでいない」

「そして幹部たちは一人で雷弓真の主だった者たちを襲撃した」

「結果だけ見ても、奴らが特異な戦闘力を持っていることは明らかだ。潰すにしても正面から挑むのは得策ではないな」

 幹部たちの話題はやはり黒狼会だった。潰す気だったのに、気付いたら下部組織を潰され、さらに吸収されてしまったのだ。

 腹立たしさと共に、慎重にならざるを得なかった。

「しばらくは様子を見るしかないねぇ」

「ぼ、ボス!?」

「来ていらしたのですか……!」

 ボスと呼ばれた女性は、艶のある声を幹部たちに投げかけた。

「黒狼会の情報を洗わずに仕掛けたのが今回の敗因さね。帝都に冥狼に敵う組織など存在しないと、おごっちまった結果だねぇ」

「ボス……」

「最高幹部を中心に、徹底的に洗いな。特に家族がいないかよく調べるんだよ」

「なるほど。人質ですな」

 暗い笑い声が響き渡る。

「うちの実行部隊は何も閃刺鉄鷲の様な、闇に巣くう者だけではないさね。血の気の多い凶悪犯罪者も多く飼っているんだ。あいつらを上手く使いな」

「は……」

 それと、とボスの女は付け加える。

「例の石だが。近くアレを使って、デモンストレーションを行うよ」

「……アレですか。制御できるので?」

「さぁねぇ。だがアレを見た貴族は、何かに使えるかもと勝手に考えるんじゃないかい?」

「するとお披露目ですか?」

 ボスはふぅっと煙草を吸い始める。

「そういうことさね。地下闘技場でさるお貴族様に見てもらうよ。帝都を騒がせている怪物をね」

「そりゃあいい! とっても面白そうなショーが見られそうだ!」

「見せ物になる様に、なるべく若い女が良いねぇ。誰か適当なのを何人かさらってきな」

「へい!」

「ついでに怪物との拳闘試合も組みましょう。これは金が動きますよ」
 



 
 帝都からまる2日も離れたところにある村。ここにフェルグレッド聖王国から連れてこられた奴隷は身を隠していた。

 いくら帝都圏内とはいえ、ここまで来れば村の規模もそれほど大きくはない。

「農業村か」

「はい。帝都からは離れていますが、ここで農業に従事する事により、帝国政府からいくらか補助金が出ています」

「それで村とは思えないくらい、みんな裕福な暮らしができているのか……」

 その村は誰も生活に困ってはいなかった。仕事と住居を決められている代わりに、国が生活を保証しているのだ。

 聞けばこの村で育てられている穀物類のほとんどは、国が買い取っているとの事だった。この辺りはこうした小規模の農業村がいくつか点在しているらしい。

 そして奴隷たちは、村の空き家を借りて滞在しているとのことだった。ダグドが奴隷商人たちと合流し、事情を説明する。

「え……。水迅断がなくなった……!?」

「今、帝都は大きく情勢が変化している。私たちは黒狼会という組織に所属する事になった」

 ダグドは要点をまとめつつ、一から事情を説明する。そして改めて俺が黒狼会のボスだと紹介した。

「俺がヴェルトだ。こっちは最高幹部の一人、アックス」

 俺とアックスは自己紹介を終えると、奴隷商人からこれまでの旅路の話を聞く。長旅だけあり、それなりに苦労はしてきた様子だった。

 特に奴隷は死なせたり弱らせる訳にはいかなかったので、気を使ったとの事だ。手荒な扱いは受けていなさそうで良かった。

「あの家屋の中にいるんだな?」

「へい」

「分かった。ここからは俺とアックスだけで良い。お前らはここで待機だ」

 奴隷たちに事情を説明し、ここから覇乱轟の護衛を付けて故国まで帰ってもらう。そう思い、家屋の中へと足を踏み入れた。

「誰?」

「黒狼会のボス、ヴェルトだ」

「俺はアックス! ってこいつは……」

 アックスは奴隷たち……特に3人の女性に目を奪われていた。無理もない、男も含めて誰もが容姿端麗なのだ。

 銀髪の髪色に金の眼も、どこか神秘さを強調させている。聖王国の民がみんな容姿端麗なのかは分からないが、愛玩目的の奴隷であれば価値は高いだろう。

 俺は黒狼会の説明から始める。

「え……それじゃ……」

「ああ。お前たちも不本意ながらこんな場所まで来たんだろう? 原因となった水迅断という組織は俺たちが潰した。このまま帰っていい……と言っても、その容姿じゃ目立つだろう。それに後は何も知らないってのは無責任だからな。安心してくれ、金は一人50万エルク用意した。聖王国まで護衛もつける。どうかこのまま静かに目立たず帰ってくれ」

 アックスはどこか残念そうな表情を見せているが、正直言ってこいつらを帝都に連れていくなどリスクしかない。このまま見なかった事にしてお帰りいただくのが一番だ。

 しかしここで一人の少女が口を開く。

「ちょっと待って。私は元々奴隷じゃないの」

「……なんだって?」

「帝都で良い暮らしはしたくないか、連れていってあげるよと言われてついてきただけなのよ」

「……そりゃ騙されてるな」

 普通分かりそうなものだが。しかしさすがにそれは理解している様だった。

「わかっているわよ。でも帝都に興味があったのは事実だから。道案内だけしてもらったら、さっさと姿を消すつもりだったの」

「なるほど……」

 どこにでもこの手の好奇心旺盛な奴はいるからな。しかし敵国だった国の首都に行ってみたいと思うものかね。

 それに今気づいたが、この少女……。

「わざわざ元の犯罪組織を潰した上で、何の関係もない私たちにここまでしてくれるんだもの。黒狼会はそれなりに信用してもいいかなって気がしているの。ね、帝都に着いたら私を雇ってくれない?」

「お、良いじゃねぇか! 奴隷じゃないんだし、違法でもないだろ? なぁヴェルト、この子を連れていってあげようぜ!」

「…………」

 そう簡単な話ではない。この容姿はどうしても目立つし、俺の予想が当たっていれば聖王国民は帝国内の移動を制限されているはずだ。

 それにアックスもこの少女について気付いているはず。

「駄目だ、お前も帰れ。第一、聖王国民は帝都に来たら駄目なんじゃないか?」

「そんな決まりはないけど?」

「聖王国が帝国に併合されて何年か経つが。いろんな人種が集まる帝都において、聖王国民の姿は一度も見た事がない。どう考えても、移動を制限されている様にしか思えない」

 明るくなったアックスの表情が、再び残念そうなものに戻る。だが少女は何かを考える素振りを見せると、笑顔を見せながら口を開いた。

「確かにそんな決まりもあったけど、それは半年前に撤廃されたの」

「半年前……?」

「そ。でも聖王国の民たちは、元々あまり外には出たがらない国民性なのよ。自国が自然一杯で豊かな国だということもあるけど。この見た目だし、外に出たら注目を集めるのは分かっていたからね」

「だが君は外に出たがっていたと?」

「ええ! 私は注目されるの、どっちかと言えば好きな方だし」

 そう言うとくるりとその場を回って見せる。

 確かに銀髪金眼抜きにしても、容姿は整っている方だろう。

「だが長く奴隷の連れ込みが禁止されている事といい、やはり何かあるはずだ」

「奴隷の持ちこみが禁じられていたのは、帝国の皇子様が聖王国の姫に一目ぼれしたからよ」

「……なに?」

「そして銀髪金眼という惚れた姫と同じ特徴を持つ者たちを、帝国にいる好事家たちの目につかない様にしたかった。全ては皇子様の独占欲からきたことよ」

 そんな理由で聖王国民の奴隷は禁制品扱いになっていたのか……。

 だがある意味納得できる理由でもある。禁制品扱いになっているには相応の理由があると思っていたが、中心になって動いていたのは皇族だったのだ。

「よく知っているな……」

「あら。聖王国じゃ結構有名な話よ? ここまで連れてきてくれた商人さんたちも知っているし、嘘だと思うなら聞いてみれば?」

 帝国としては皇子の独占欲が過熱して、一部の国の奴隷を特別扱いしたという前歴は隠しておきたかったのだろう。

 だから帝都では何故聖王国民の奴隷が禁制品扱いなのか知られていなかった……といったところか。

「ね? 私は奴隷じゃないし、帝都に行っても問題ないでしょ?」

 確かにこの少女だけ奴隷の身分を示す首輪をしていない。言っている事に嘘はなさそうだが……。

「ヴェルト、良いじゃないか! せっかく遠いところをここまで来たんだし、少しくらい案内してやろうぜ!」

「そうよそうよ! 何なら雇って金払って面倒見てよね!」

 ここまで言う子だ。無理やり追い返しても、また一人で帝都を目指すかもしれない。

 実際帝都は目と鼻の先だし、今さら諦めて帰るなんて事、しそうな子にも見えない。

「……仕方ないな」

「いいの!?」

「だが雇う以上、仕事はしてもらうぞ。それとその容姿は目立つし、帝都も治安が良いとは言い切れない。外出する時はなるべくローブを羽織る様に」

 俺も今はミュリアに用意してもらったローブを着ているが、奴隷たちもここまでローブを纏って目立たない様に移動してきていた。引き続き帝都までローブを着てもらおう。

 それにこのまま一人にさせて何かに巻き込まれても後味が悪い。それならうちで雇って、監視下に置いた方が良いだろう。

(何より。呼吸の整え方、足の運び、体重の移動。どれを見てもスマート過ぎる。おそらくは習慣化されるくらい、長く訓練をしてきたものだろう)

 俺が気になっていた点はここだった。見た目は可憐な少女だが、それなりの使い手のはずだ。

 魔法無しならフィンと良い勝負かもしれない。少なくともこの間の暗殺者たちより少し上くらいの気配はする。

 アックスも気付いているだろうが、こいつは気付いた上で仲良くしたいのだろう。ガードンとそろって女好きだしな。

(しかし長く身に付いた習慣は、俺達も同様に出てしまっている。この子も俺たちの実力はある程度計っているだろうな)

 つまり互いに探り合いもしていたのだ。少女は名をリリアーナと名乗った。

 俺たちは村で奴隷の四人を見送り、ダグド、アックス、リリアーナと共に帝都への帰路についたのであった。
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